表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生・殺人・幻想の現実  作者: 亡霊
第一章 出会い、狩り、駆られない
14/36

第14話 護るために武器を持つ国で、転生者は選択をする。

  目を開けると、そこには見慣れない白い天井があった。

  未だに重みを感じられる目蓋を二、三度瞬きさせた後、俺は上体を起こす。隣を見れば、黒い浴衣の青年が思いのほか静かに寝ている。窓を見れば、もう日が昇っていることを示していた。

  思考にかかっていた靄が少し消え、隣を起こすのも悪いし、もう一眠りするかとでも思っていると、木製の扉からノックの音が聞こえる。俺がそれに答えると、扉の向こうから声が聞こえる。


  「朝食が出来ましたから、起きてきてくださいね」


  俺の声はそんなに眠そうだったのか、俺の隣にいる剣士が未だに寝ていると察していたのかは知らないが、穏やかな女性の声にそう言われ、俺の頭は急速に回転を始める。

  首を撫でると、少し冷たい独特な触感の白い蛇が、少し身じろぎする。どうやら、こいつはもう起きているらしい。


  「おーい、起きろー」


  俺は、隣の黒浴衣を揺すって起こしにかかる。


  「んー、っと」


  ジンは、そんな声と共に起き上がり、ベットに立てかけている刀を腰の帯に差し込む。目は既に冴えており、先ほどまで寝ていたとは思えないほどだ。


  「おはよう」


  そう言った彼に寝起きの雰囲気は全く感じられない。


  「ああ、おはよう。朝食が出来ているみたいだから行こう」


  俺はジンの挨拶に答えた後、行動内容を簡潔に言う。


  「おう」


  ジンは短い返事をして、移動を始めようとする。俺も杖と帽子を手にして彼に続く。

  部屋の扉を開けて廊下を歩き、廊下の先にある扉を引いて、昨日老紳士と話した場所へと到着する。

  既に何人かの人々がテーブルを囲んで朝食を取っているようで、いい匂いが部屋に立ち込めていた。


  「おーい少年達。こっちだ」


  そんなテーブルの一つに、昨日会った老紳士――イマジン・クリエイトが座っており、ティーカップを掲げて俺達に呼びかけてくる。テーブルの上にはしっかりと三人分の朝食が用意されているようで、俺が望んでいたサラダもあった。

  俺達はイマジン・クリエイトのいる丸いテーブルへと向かい、丁度二つある椅子に腰かける。帽子は椅子の背もたれにかけておく。

  周りの目線が気になる程度には注目を集めてしまっているが、それは仕方のないことだろう。誰だって突然現れた見たことない青年二人が自分達のリーダーと朝食を取ろうとしているのを見たら、気になってしまうだろうから。


  「昨日はよく眠れたかね?」


  イマジン・クリエイトは、いい笑顔でそう言った。


  「ええ、お陰様で」


  俺も笑顔でそう答える。


  「そうかね、それは何よりだ」


  そう言った後、クリエイトはティーカップの中身をゆっくりと飲みながら、こちらの様子をうかがっているようで、俺達の目をじっと見つめている。


  「なあ、これって全部食っていいのか?」


  今までの雰囲気をぶち壊しながら、ジンが純粋な質問を投げかけた。


  「はっはっは、勿論いいとも。こんな量を私一人では食べられないのだからね」


  「じゃあ、いただきます」


  クリエイトの許可と同時に、ジンはバスケットからパンを一つ掴み取り、噛り付いた。最低限の食事のマナーぐらいはあるようで、ボロボロとパンくずをこぼしたりはしていないが、品がよろしいとは言えない。

  だが、その様子をクリエイトは嫌味一つ言わず、顔に微笑みを浮かべながら見ていた。完全に孫を見るおじいちゃんの目になっている。


  「君も食べていいんだよ」


  クリエイトは俺にも朝食を勧めてくれる。腹はすいているし、硬いパンと水しか食べていなかったので、目の前に広がる食事らしい食事を食べることに躊躇う理由がない。

 

  「いただきます」


  俺は、バスケットの中に入っている白いパンを掴みとり、一口分にちぎって食べる。


  「うまい」


  感動した。俺の知っているパンだった。ちゃんとやわらかくて、噛みしめれば噛みしめるほど小麦の風味と甘味が出てくる。気付けば俺は、品とか人の目とかを無視して、白パンに噛り付いていた。

 

  「そうかね。それは良かった」


  クリエイトの優しげな声を聴きながら、俺はパンの他にもテーブルにあらかじめ取り分けられていた瑞々しいサラダや、野菜と肉がごろごろと入ったスープを木製のスプーンとフォークで平らげた。サラダは野菜自体が甘くてドレッシングが無くても十分なおいしさだったし、スープは野菜と肉の出汁から出たコクとやさしい甘味が素晴らしかった。

 

  「食後の飲み物は何にするかね。リードローズのフラワーティーと、ガディアビーンズのコーヒーとがある。ちなみに、おすすめはコーヒーだ」


  満腹による幸福感に浸っていた俺は、クリエイトの言葉で我に返る。クリエイトは変わらず慈愛のこもった微笑みを顔に携えたままで、隣のジンは未だに満腹感に浸っているようだ。


  「コーヒーなんてマニアックな物、若い人におすすめするのはどうなんですか?あんなもの苦いだけでしょうに」


  そう言いながら、口から湯気を出すポットを持って現れた一人の白髪の婦人が、クリエイトの言葉を疑問を提示する。


  「どうします?私はあんな苦い飲み物より、甘いフラワーティーの方がいいと思うのだけれど」


  両手にポットを持っていることから、一応両方の飲み物を持ってきてはいるようだ。


  「じゃあ、俺は甘い方で」


  ジンは即答する。どうやら苦いのは駄目らしい。俺は正直どちらでも良いのだが(どちらも味は分からないのだし)、先ほどから婦人が勝ち誇ったような顔で悔しそうな顔のクリエイトを見つめているので、ここは空気を読んでおこうと思う。


  「じゃあ、私は苦い方で」


  「あら、無理しなくていいのよ。この人ぐらいしかこんなもの飲まないのだから」


  速攻で婦人が俺の気遣いを台無しにしながら左手のポットをテーブルに置き、ジンのティーカップに右手のポットからフラワーティーなるものを注ぐ。湯気と共に甘く爽やかな香りが俺の方にも訪れる。おいしそうだ。


  「この苦味がいいんじゃないか」


  クリエイトが俺に同意を求めるような目線を送りながら、婦人の言葉に反論する。

  俺としては、どちらを飲んでも構わないし、むしろ何も飲まなくてもいいとまで思っているのだが、まあ、苦味がいい、というクリエイトの言葉には賛同できる。


  「やっぱり、クリエイトさんのおすすめをいただくことにします。私も苦いの好きですし」


  この前に俺の名に様を付けて読んでいた赤髪少女は、リライト様と呼んでいたから、きっとこの世界の名字的な役割を果たすのは下の名前のはずで、さん付けするならば、この言い方が適切なはずだ。

 

  「そう?分かったわ」


  婦人は、俺の目を見てそう言った後、右手に持っていたポットを置き、置いてあったポットを取り、ジンがおいしそうにティーカップを傾けているのを微笑ましそうに見つめた後、俺の前に置かれたティーカップにポットから黒い液体を注ぐ。

  香りも色も完全にコーヒーで、昔の徹夜を共に乗り越えてきたことを懐かしく思い出してしまう。満を持して一口飲むと、口いっぱいに爽やかな苦味が広がっていく。えぐみや不快な酸味は無く、その点では俺の知るコーヒーでは無かったが、まあ、おいしいことに変わりは無い。


  「おいしいですね」

 

  「そうか。君にはこの美味しさが分かるか」


  俺の率直な感想に、クリエイトが反応する。どうやら、この飲み物はあまり好まれていないらしい。まあ、コーヒーをいきなりブラックで出してきた辺りから推測するに、これに砂糖を入れたことが無いのだろう。ブラックコーヒーからコーヒーが好きになったという話はあまり聞かないし。

 

  「ごちそうさん。おいしかった」


  俺がコーヒーを味わって飲んでいる間に、ジンは早くもティーカップを空にしていた。もう少し味わって飲めばいいのに、と思いながらも、俺はコーヒーを味わうので忙しいため口には出さない。


  「で、イマジン・クリエイトさん、だよな。貴方は俺達に何を求めようとしているんだ」


  ジンの言葉に、俺は味わっていたコーヒーのカップを置いて、クリエイトの顔を見る。コーヒーよりも、この話の方が重要だろう。いつかクリエイトが切り出してくるのだと思ったが、ジンが口火を切るとは思わなかった。けれど、考えてみれば不思議な事ではない。頭や察しが悪かったら、一人でこんな世界を生き抜いていけないのだろうから。

  この老紳士は、俺達に何を話したいのだろう。まあ、これから話してくれるのだろうし、考えるのは話を聞いてか らでいいだろう。


  「そう、実は君達にお願いがあるんだ」


  クリエイトはジンの質問に顔色一つ変えずに答える。

  老人のお願いというフレーズに、俺は思わず苦い顔をしてしまう。あの魔導師は結局自分の魔法で自分の願いを叶えてしまったとはいえ、俺は彼の殺害に同意したのだ。そして、魔法で操られた自分の手が扉を開けた瞬間、確かに感じた。偉大なる魔導師の魂が、上へと昇って逝ったのを。その瞬間、俺はどうしようもなく感じてしまった。人の命を奪ったという感覚を。

 

  「君達にガーディア軍国の狩人(かりびと)となり、他の狩人達と供に魔獣討伐を行ってほしい」


  人が考えたところで何も変わらない過去を顧みている間に、クリエイトは質問内容を話している。要するにスカウトだ。何で出会って間もない俺達をスカウトしようと思ったのかは謎だが、リスクもリターンも言わないで契約だけを言われても困る。俺はこの世界のことを知らなすぎる。ガーディア軍国で狩人(かりびと)になって魔獣討伐して、なんて異世界専門用語を連発されても理解できない。


  「最近、この国へ移住して狩人になりたいと思う人が減っていてね。まあ、命懸けの仕事だから仕方ないのだが。だから君達のような魔獣を退けながら旅を続けている人には、是非とも協力してほしい」


  なるほど。何故俺達をスカウトしたくなったのかは分かった。

 

  「しかも、君達は私の部下達を助けてくれたからね。そんな優しさと力の両方を持っている人は多くない」


  まあ、命懸けの仕事をしたいと思っている人に、まともな精神をしている人間は少なそうではある。


  「君達が何の目的を持って旅をしているかは知らないが、ガーディア軍国はさまざまな都市の中に支部を持っている。だから、その国民となれば、入国しにくい国の都市にも入りやすくなるだろう」


  つまりは、身分証明が容易になるのだろう。この都市に入る時に何も聞かれず、手荷物すら検査されなかったことに疑問を抱いたのだが、やはり、そういったことをする国もあるのだろう。確かに、身分証明の際に、どこかに属していないと面倒だ。


  「どうだろう。君達にとっても悪い話じゃないと思うのだが」


  どうだろう、と聞かれてもなぁ。答えに困った俺は隣のジンを見てみる。ジンもどうやら答えに困っていたようで、こっちを見てきた。良く考えれば、ジンとも成り行きで行動を共にしているだけなので、ここで意見が食い違ったら、別れることになるのかも知れないな。

  さて、ここで考えるべきことは、この提案が俺にとってメリットが大きいか、デメリットが大きいか、だが………これは考えるまでもないか。クリエイトに向かって狩人になって困ることは何ですか?なんてストレートに聞いても、クリエイトが言ったことが真実かどうか俺には分からないから意味はないし、そもそも俺には他の当てがない。つまり、郷に入って郷に従うのが、俺にとって最善だろう。


  「私は、入りたいと思います」


  結論を出したので即座に口に出した。それにしても、国民になりたいなんて生まれて初めて言った。

  虎穴に入らずんば虎児を得ず、というし、そもそもガーディア軍国が虎穴じゃない可能性もあるのだから、入って虎児を得るべきだろう。まあ、虎児を得られるかも分からないが、当てもなく行動しているだけでは、虎児のいない虎穴にばかり入ってしまうだろうから。



  「そうか、それは良かった。では、君はどうするかね?」


 


 ――――――――――――――




  俺は、考えてみる。

  別に、今まで旅を続けてきたのは、成し遂げたい目的があるためではない。ただ、なんとなく、失うことが怖いから、俺は一人で旅を続けてきた。俺は未だに弱すぎて、守りたい人が出来ても守り切れる自信がない。だから、俺は人を助けても深く関わらず、仲間をつくることなく生きてきた。

  だが、今、俺の隣にいる不思議な魔法使いは、きっと俺よりも強い。ならば、俺の目の前でこいつが殺されても、俺のせいにはならないのかもしれない。それなら……


  「俺も、入ろうと思う」


  ふと、両親と仲間達の姿が脳裏に浮かぶ。 後悔の念と共に。考えたところで死者は蘇らないという事を、もう何年も前に気付いているだろうに。

  隣のレイスは、俺がクリエイトに向かって入ると口に出した時に、微笑みながら、じゃあ、これからもよろしく、的な事をボソッと言われた。俺もそれに答えて、おう、と短く答えておいた。

  仲間と最後に交わした言葉も、こんな軽いやり取りだったな、なんて悪いことばかりが頭に浮かぶが、今度は俺が先に死ねるだろう。きっと、レイスは俺より強いから。

 

 


  ―------------------



  「そうか。では、レイス・リライト君、ジン・スピリット君。君達にはこれからガーディア軍国の狩人として働いてもらう。無論、全ての行動が規制されるわけでは無い。君達が旅を続けたいのならば、出来る限り旅の途中で魔獣討伐を行い、行き先の都市の支部で報酬が得られるような形にするが、どうするかね?」


  私は、彼らは一緒に旅をしているのだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。そうなると、旅人同士が道端であって意気投合したとか、たまたま行き先が一緒だったからとか、そんな理由でここまで一緒に来たのだろう。

  よくもまあ、このご時世に盗賊かも知れない人間と仲良くなれるものだ―――いや、それでこそ恐れを知らぬ若者らしいか。


  「私は何か目的があって旅をしているのではないので、昨日と同じ部屋を使わせていただけるのであれば、ここに留まりたいと思っています」


  レイス・リライト君がはっきりと言った。隣のジン・スピリット君と話している素振りは殆どなかったはずだから、彼の独断だろう。


  「君はどうする?」


  ジン君の方を向いて、私は問いかける。彼は彼で考えがあるらしく、レイス君の考えを聞いたうえで、しばしの間を置いた後、こう答えた。


  「俺も、旅に目的は無いから、ここに留まりたい」


  旅人という明らかに危険な生活を、この二人は目的も無くしていたのか……そんな筈はない。目的は無くとも何か理由がある筈だが、そういった事を聞いて気分が良くなった事が無いので、聞きはするまい。


  「そうか、分かった。では、あの部屋を君達に貸そう。好きに使ってくれて構わない」


  私は、事務的に決定を下す。あの部屋は昔、ここの狩人が使っていた部屋だが、そいつは私より若いくせに高齢を理由に引退し、人員不足の為に新たにこの部屋に入る者もいなかったため、彼らに貸しても何も問題ない。

  さて、今できることをしてしまおう。


  「では、この書類にサインしてくれ。入国手続きの為に君達が入国に同意したことを書類に残して貰いたい」


  そう言った私は、あらかじめ用意しておいた書類とインク付きのペンを彼らに渡す。しばし待ち、そして、書いてもらった書類を集める。

ほう、レイス君は達筆だな。字を書き慣れているように思える。ジン君は年相応の字ではあるが、ある程度の字は書けるようで安心した。

  よし、後できることと言えば……


  「では、これから、腹ごなしを兼ねて、君達の実力を確認する為に手合せをしてもらいたい。魔獣討伐をしてもらうにしても、君達がどの程度の強さか分からないと、困ってしまうからね」


  まだ、武装ゴブリンの集団を討伐しに行った者達が帰ってこないので、今出来ることはこれぐらいだろう。


  「それって、もしかして昨日のブレイブさんって言う人と戦うんですか?」


  レイス君が、面白い事を言ってくる。彼と君達とでは、なかなかの実力差があると思うのだが、もしや自覚がないのか。

  まあいい。魔法使いなら接近戦は苦手なのだろうし、その意識もあながち間違いではないのかも知れない。


  「いいや、彼じゃない」

 

  ブレイブ君は、昨日、レイス君達を部屋に送った後、目が覚めた仲間達と、お見舞いに来た二人の友達と何やら夜中まで話していたらしく、まだ寝ている。

  だから、君達の相手は目の前にいることになる。


  「相手は私が務める。こう見えても私は強いぞ。だから、全力でかかってきてほしい」


  実力を測るのだから、定規は相手よりも長くなければいけない。それならば、私が適任だろう。

 

  老い先短いこの老体に鞭打って、これから長い時を過ごすであろう若者達の実力を、剣を持って推し量ろうではないか。

 


 


 


 

内容に不自然な点があったため、修正しました。2016年 8月11日




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ