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転生・殺人・幻想の現実  作者: 亡霊
第一章 出会い、狩り、駆られない
12/36

第12話 導きの都市にて、転生者は迷走する。

  地平線に沈みかけている太陽が、青空を橙色に染めていく。

 

  もう少しで交代の時間だと気付き、俺の心も青から暖かな色に変わってくる。

  門番と言っても、やることは魔獣が来た時に応戦したり、怪しい人物がいたら聞き取りをしたり、危ない人物がいたら取り押さえたりする、といったことで、つまりは、何かが起こらなければ、ただ門の端に立って時間が経つのを待つだけなのだ。そう、暇なのである。

  しかし、何事もない平和な時が流れているからこそ、俺は暇を持て余しているのだから、良いことには違いない。

  早朝に起きた出来事を思うと、本当に平和が一番だと思う。


  「なあ、あいつ等大丈夫かな」


  俺は、門を挟んで向かいにいる同僚にそう話しかける。

  もうすぐ夜となるため、門を出入りする人はほぼいない。だから、少し距離があっても、そこまで大声を出すことなく相手に声が届く。


  「外傷は無かったし、だたの過労だろ。しばらく寝てれば治るだろうよ」


  的確かつ端的な返答が帰ってきた。確かにその通りだが、同じ門の外で働く者なのだし、もう少し心配してやってもいいんじゃないだろうか。


  「あいつ等は命を奪うことを仕事としているんだぞ。死ななきゃ安いってもんだろう」


  言っていることは軽いが、口調が重い。やはり、気にはなっているようだ。


  「後で、見舞いに行ってやるか」


  俺はなるべく明るい声で言う。


  「そうだな」

 

  短く、そして前向きな返答が来た。

  なんてこと言っている内に、太陽は地平線に顔を引っ込め、その光のみが僅かに地を照らすだけとなっていた。


  「……もう人も来ないだろうし、閉門しちまうか」


  「素直に早く見舞いに行きたいと言えばいいんじゃないか」


  そんな事を言いながらも、俺達は閉門をしようと門を止めている金具を外し、力を込めて押し込み、門を閉ざそうとする。その時……


  「ちょっと待ってくださーい!」


  そんな声が遠くから聞こえてきた。

  門を閉めるのを止め、門から延びている道を見てみると、とてつもない速さで人間が二人近づいてきているのが分かった。しかも、片方は身なりからして相当な金持ちらしい。護衛が一人なの気にはなるが、無視するわけにはいかないだろう。

  それに、若干いつもより早く門を閉ざそうとしているのだし、無視するのは俺の良心が咎める。

  門のもう片方を閉ざそうとしているあいつも、思考の過程はどうあれ同じ結論に至ったらしく、手を止めて、走ってくる二人を待っている。

  俺も、すでに止まっている手を下ろし姿勢を正して、走る者達を待つ。

  ―――早く門を閉ざして、ブレイブ達の見舞いに行ってやろう。






 ―――――――――――――――――――


 


 

  「すみません。待っていただいてしまって」


  百メートル走のような走りで中距離を走り終えたのに、息を切らすことなく俺は門を閉ざそうとしている人々に詫びを入れる。 迷惑をかけてしまっていると自覚しているので、とても丁寧に。


  「いいえ、お気になさらず」


  謝罪に対して、一人が笑顔でそう答え、


  「ようこそ、リーディング王国最大の都市、スタウントへ」


  もう一人が、凛とした声でそう言った。

  スタウントというのか。この世界で初めての都市だから、こんなことを言っていいのかは分からないが、都市を囲っている壁と出入りをするための門を見る限り、結構な大きな都市なのだろう……考えを巡らせながら、俺は聞くべき質問をなるべく丁寧かつ自然に口に出す。


  「これって、もう入ってもいいんですか?お金を取ったりとか手荷物検査とかしないんですか?」


  考えたのに、ただ敬語で疑問を列挙しただけの文しか浮かばなかったのは、きっと疲れているからだろう。


  「ええ、大丈夫ですよ。この国では入国料は取っていません」


  自分で自分に言い訳をしている俺の心の内を知らない三人の内、凛とした声の青年が、俺の疑問に答えてくれる。

 

  「持ち物検査の方も昔はやっていたんですけれど、今はやっていません。最近は魔法道具のせいで、隠そうと思えばどこにでも、どんなものでも隠せてしまうんです。だから、やるだけ無駄なんですよ」


  俺が肩に掛けている鞄を見ながら、丁寧に説明してくれた。確かに、俺の魔法の鞄の中身を全て調べるとなると、相当な時間が掛かってしまうだろう。それに、ワイスの事を聞かれると、説明が面倒になることは確実だろう。ジンはとても早く終わりそうだけれど。


  「なるほど、分かりました。ありがとうございました」


  理解と感謝を示した後に、俺は足を前へと進める。

  大口を半分ほど開けている門をくぐり、スタウントへと入る。そして―――

 

  俺は思わず息を呑んでしまった。


  町のいたる所に不思議な青白い光を放つ街灯みたいなものがあり、その光によって、レンガや石や木といった様々な材料からなる風情ある建物や、石畳が敷かれた道を、幻想的(ファンタジック)に照らしている。

  目の前にある石道は、そんな街並みを左右に分かち、白を基調とした巨大で優麗かつ荘厳な姿の建物がそびえている場所までを断裂させている。


  「すげぇ」


  つい、思った事を口に出してしまった。


  「ああ、凄い数の魔光灯(まこうとう)だな。こんな数見たことないぞ」


  ジンは、俺とは若干違う意味で驚いているらしい。というか、あの灯りは魔光灯(まこうとう)って言うのか。凄く詳細を知りたいが、あそこまで自然に会話に出されるという事は、知っていて当然の常識的な物なのかも知れないし、そんな物の事を質問するのは、あまり良くないかも知れない、けれど、聞かなければ知れないわけで。


  「あれは、夜になると空気中の魔力を勝手に吸って、魔法として明かりを放出する魔法道具だ。製作術者の技量や魔法の強さなどにもよるが、大体十年程度は、夜になると勝手に光り出すようになっている」


  いきなり首のあたりから声がしたと思ったら、ワイスが小声で魔光灯の説明をしてくれていた。聞きたかったことを教えてくれたのはいいが、なんで口に出していない思いを察することが出来たのだろうか。


  「お前は、顔と目線が素直すぎる。少しはポーカーフェイスを意識した方がいい」


  首に巻きつかれている先ほどまで忘れかけていた白蛇に、淡々と説教をされてしまった。そんなに顔に出ているだろうか……っと、思わず首をかしげそうになってしまった。


  「はい、気を付けます」


  考えるまでもなく顔、ではなく体が動いてしまったことに驚き、俺は言い訳をするのを諦めて、ワイスの正当な指摘を謹んで心に刻んでおく。


  「何に気を付けるかは知らないが、これからどうする?」


  思っていたよりも声が大きかったらしく、ジンに俺の声が聞こえていた。

  別に声が聞こえていたこと自体はいいのだが、自分が思っていることなど間違いだらけなんだな、と改めて実感させられた。


  「そうだな………」


  俺は思考を切り替え、これからについて考え始める。

  すっかり空は月と星が占拠しており、家々もほとんどが閉ざされている。こういう場合には、お決まりとして宿屋みたいなものがあると思うのだが、場所が分からないし、そもそも、金塊はあっても金が無い。ジンが金を持っているかもという希望的観測はするだけ無駄だろうから止めておく。

  だから金塊を換金、もとい、金の延棒をこの都市で使われている通貨に変換したいのだが、この世界でも金塊に希少価値があるとは限らないし、そもそも、そんなことが出来るかも分からないし、出来たとしても、場所が分からないし、場所が分かっても、この時間には換金出来ないかもしれない。

 

  考えれば考えるほど、何も分からないことしか分からない。


  「どうすればいいと思う?」


  考えて結果として、俺はジンの質問に質問で返す。


  「俺もこんな大きな町は初めてだからな~」


  ジンは語尾を伸ばしつつ、腕を頭の上で伸ばした後、首の後ろで組み、考えを巡らせる素振りを少し見せた後、組んだ腕を戻し浴衣の袖に入れて、唸り声を上げた。


  「う~ん。どうするか」


  まあ、そうですよね。

  俺は再び思考を巡らせようと試みるが、一度分からないと結論づけてしまったからか、全く持って回答が出てこない。分からないという事が更に分かり、それ以外は分からないと理解してしまう。


  「先ほどの門番に尋ねればよかろう。お前が知りたいことを」


  俺の喉元から回答が発せられる。

 

  「確かにそうだ。ワイスって頭いいんだな」


  ジンが俺の首元を見ながら賛同する。

  俺もジンと同じことを思った。そうだ、人に聞けばよかったんだ。何でこんな簡単なことに気付かなかったのだろうか。


  「人間の脳はとても小さく、その中で考えられることもまた少ない。だから、自分一人で完結するな。人は集団で団結することで、種の繁栄を勝ち得たのだから」


  小さい声で、凄いスケールの説教をされてしまった。言われなくても分かってはいるつもりなのだが、人に聞くという簡単な回答すら浮かばなかった俺に言い訳の余地は無い。

  一人と一匹だった時には、人を探そうとすぐ思いついたのに、何で今回は思いつかなかったのだろうか。一度使った手を使ってはいけないという規則など無いというのに。


  「じゃあ、門まで戻ろうか」


  俺は、浮かび上がった疑問を頭の隅に押しやり、半回転して振り出しへと戻る。考えながらも歩みを止めなかったせいで、結構な距離を戻らなくてはならない。

 

  「おう」


  ジンは笑ってそう言い、俺の隣で歩き出す。


  ワイスは何も言わず、だが、少し首への巻き付きが強くなった気がする。

 

  俺は石畳を鳴らし、月と星と魔光灯に照らされた道を戻り始める。


 ――― 二日目の夜は、もう少し続く。




 ----------------------――--------



  ―――神の間にて



  「詰め込まれた知識で思考し、創られた意志で行動し、召喚者に助力することを存在意義とする継続魔法。ワイス君だっけ、君が創った魔導書によって生み出された彼も面白い存在だね」


  「そうか?ワイスは知識を詰め込んだだけの魔法であり、魂の無いただの魔力塊じゃ。本を開いた者に助力するように形成された、起こり続けている現象に過ぎないのじゃぞ」


  「そんなことを言ったら、この世界だって諸行無常な起こり続けている現象に過ぎないよ。そして、その言葉に当てはまらないのは僕だけだ。なぜなら僕は、その現象を起こしている起源だからね」


  「……では、一体何が面白いのじゃ」


  「召喚者に助力をするためならば、召喚者の命令を無視してでも行動を起こすところだよ。いかにも君が創った魔導書らしいね」


  「…………どういう意味じゃ」


  「普通の魔法使いならば、(まあ、普通の魔法使いは開いただけで魔法が発動する魔導書なんて創り出せないのだけれど)召喚者に助力なんていう曖昧な命令で無く、ただ召喚者の指示に従うように定義する筈でしょ。けれど君は、わざわざ複雑な魔法を組み込んでまで、助力という言葉に拘った。人間は常に正解を選べないことを、君は身をもって知っているから」


  「………………わしは後悔し過ぎたからな。最後の弟子には、少しでも後悔の無いように行動して欲しかったんじゃ。少なくとも、魔法は人間よりも信頼できるしのう。悪いか?」


  「そんな怒らないでよ。それに、後悔したくないなら簡単な方法があるでしょ」


  「何?」


  「何って、何も望まなきゃいいんだよ。人は、現状の何かに対して何かしらの不満を抱いていて、それを過去の自分によってもたらされた結果としての現状だという事を知っているから、過去の自分の行いを悔いるんだ。だから、現状に何も不満を抱かなければ、後悔する必要もないってこと」


  「しかし、望まないなどという事は……」


  「そんなことは出来ないかい?まあ、そうだろうね。別に後悔するのは悪いことじゃなくて、自分に対する反省なのだから。後悔しないという事は、過去の行為の結果に対して、反省せずに妥協し諦めて、極端に言えば未来を殺す行為なんだよ。だから、後悔はするべきだ。君は後悔しないことが良いことのように言うけれど、世界で後悔しなくていい存在なんていないんだよ。僕だって、未来までは分からないのだから」


  「けれども、後悔をしていては何時までも前を向けなくなってしまうではないか……」


  「それは、後悔の捉え方の違いだよ。後悔は、ただ後を悔いるだけの行為ではなく、後を悔い、今を考え、未来を今より良いものにするための手段なんだ。だから、後悔とは未来の為にするべきであって、後ろ向きにするものじゃない。前を向いてするのが後悔なんだよ」


  「そう……なのか」


  「これは考え方でしかないからね。正しいかどうかなんて人それぞれだよ。問題じゃないんだから、回答なんて無い。そして、答えが無いのなら、なるべく自分にとって都合の良い近似値を求めた方が、心が豊かになると思わない?」


  「そう…………かもしれんな」


  「よく考えてみなよ。どうせ此処では感情で感じるか、理性で考えるかぐらいしかすることがないのだから」


  ―――僕は、そんな君の頭の中を見て楽しむからさ。






 


 


 

 

 



 


 

 

 

 

 

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