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転生・殺人・幻想の現実  作者: 亡霊
第一章 出会い、狩り、駆られない
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第10話 走り続けた青年達は……

  俺達は走り続けていた。

  辺りはすっかり夜の(とばり)が下りているが、手元の僅かな明かりで人の手が加えられた道を照らしだし、その上を全速力で移動する。

  荒い呼吸音と地面を踏み鳴らす音が仲間達から聞こえ、自分も客観的に見れば仲間達の一人に数えられることに気が付きながらも、俺達は止まらない。

  夜中にこんな状態で魔獣に遭遇すれば、危険極まりないだろう。けれども、俺達の中に立ち止まる者はいない。いや、いてはいけない。なぜなら、一人が止まれば、その一人を守るために四人全員が止まらなければならないからだ。

  そして全員が立ち止まれば、立ち止まった時間だけ町に戻るのが遅くなり……


  ゴブリンの群れから俺達を逃がしてくれた剣士に増援を呼ぶまでの時間が掛かってしまう。


  だからこそ、俺達は走るのだ。

  あんな数の武装したゴブリンから俺達を逃がし、俺達が森から抜け出すまで足止めをすることが出来ているだけでも、あの人は相当強い。

  けれども、ゴブリン達の暴力的な数を知った上で剣士が勝利するという考えを抱けるほど、俺達は楽観的ではない。それに、剣士が勝利すると考えたならば、逃げることなく戦っただろう。たとえ剣士が逃げろと叫んでも。敵に背中を向けて逃げ出すことが、どれほど危険かを知っているからだ。

  そのことを知った上で俺達は逃げ出し、そして逃げ切った。あの恩人を切り捨てて。

  この言い方では剣士がもう犠牲になってしまってるようだが、実際そうだろうとは思っている。俺達が生きて走り続けているこの状況がすでに奇跡であり、そんな軌跡を俺達に描かせてくれた剣士にまで幸運が訪れるなど有り得ないだろう。奇跡は滅多に起こらないからこそ、奇跡なのだから。

  そこまで考えたうえでも、俺は止まらず走り続ける。

  これは俺なりの懺悔なのだ。命を懸けて俺達を助けてくれた剣士に対して、命懸けで何かをすることによって………何になるのだろうな。


  結論を見失い、俺は前を向く。

  立派な門が見えてきた。道も、周りの草花も、存在と色を取り戻している。どうやら夜通しで走っていたらしい。

  疲れ切っている筈の体が前進を望み、感覚が無くなっていた足が急げと催促する。周りの足音も、俺自身の足音も騒がしい。早く門をくぐって安堵したいという単純明快な思いに引っ張られて、残り少ない体力を振り絞って、俺達は門へと走る。

  足は疲れで上手く回らないが、頭は無駄に冴えわたる。おかげで分かりたくもない結論を見つけてしまった。

 

  俺は現実逃避のために、ここまで走ってきたのだな。

 

  あれこれと考えてはいたが、結局は自分が恩人を切り捨てて生き残ったという事実に対し、言い訳をするために走り出し、言い訳が見つからなかったから走り続けたのだ。

  このチームリーダーである俺――ブレイブ・カインズ――はそう思った。

  他の三人の仲間達は、何を思ってここまで走り続けたのだろうか。俺には分からないし、聞く気もないが、奴らには奴らなりの思いがあるのだろう。

  魔獣を狩ることを生業(なりわい)としている都合上、こちらが狩られる側になることも何度かはあったし、いつ死んでもおかしくない生き方をしていると自覚しているつもりだった……つもりだっただけだった。

 

  門の存在が大きくなってくる。大きな門の隣にある小さな扉が開き、中から二人の兵士が出てくる。どうやら、門が開く時間らしい。

  夜は魔獣が侵入しないように閉ざされている門だが、日中は出入りする人々のために、門番を立たせて開放しているのだ。

 

  どうやら丁度いい時間に、戻ってくることが出来たらしい。

  俺は、疲れ切った体で門を叩き、門の内の兵士に開門を叫び訴えることにならなくて心底よかったと思いながら、こちらを見て驚いた表情をしている兵士たちを目指して走る。

  仕事のせいで門を通ることが多いので、門番とは知り合いとなっている。門番たちもボロボロになって帰ってくる俺達を何度も見ているのだが、今回は様子が違うことを察したらしい。

  門の外で魔獣の侵入と人民の安全を守る彼らの戦闘能力は高い。そんな彼らの洞察力だからこそ、俺達の異変に気づいて、こちらに駆け寄ってきてくれているのだろう。


  「おい、どうしたんだ!」


  門番の一人が、そう言って呼びかけてくれる。

  良かった、助かった、生きて帰ってこれた。安堵の気持ちが心に満ち溢れ、目から漏れ出しそうになる。心までもが心底疲れていたようだ。

  俺は門番の問いに答えるべく、声を発しようとするのだが、かすれた声しか出ない。

  俺が返答をしないことをどう思ったのか、門番の駆け足が速まって、こちらのすぐ近くまで来てくれた。


  「おい、大丈夫か!」


  先頭を走っていて、チームリーダーである俺に門番は問いかける。

  俺は近づいてきた門番に寄りかかりながら、かすれ声で言う。


  「森に……武装したゴブリン……大量……今すぐ……統領に……頼む」


  やるべきことはやった。これで剣士が死んでしまっていたとしても、それは仕方のないことではないだろうか。

 

  後ろで、何かが倒れる音がする。

  俺を支えている門番が、何かを叫んでいる。

  視界が揺らぎ、意識が遠のく。

 

  ―――死なずに済んで良かった。


 


  神の間にて―――


  「ゴブリン軍団(アーミー)。普通のゴブリンよりも知恵があり、武器を扱い、仲間と集団で連携を取ることが出来るゴブリン達。それにしても、あの数は多すぎる。何故あんな数になるまで放置しておいたじゃ」


  「何故って、人がいないからだよ。ゴブリン達があんなに発生していることを知っている人もいなかったし、そのゴブリンを狩る人も今までいなかったから、現状ゴブリン達はここまで巨大で強大な軍団となったんだ。軍団と呼ぶのが相応しいぐらいの軍団にね」


  「しかし、そんなことがある筈が―――」


  「あるよ。君が生きていた時代とは違うからね。悪魔を筆頭種族とした魔獣達と人間達の戦争は終わり、戦えなくたって生きていける時代になったんだよ。実質的に戦争を終わらせた君ならば知っているだろう」


  「だが、悪魔も魔獣も生きているのだぞ。それなのに何故……」


  「何故、か。君は主観的にしか物事を考えられないようだけれど、この世界では魔獣と戦わなくても生きていけるんだよ。それなのに、自ら進んで命がけで魔獣と戦う道を目指す人間が多いわけないだろう」


  「だが、魔獣を定期的に倒さねば、人民に被害が出るじゃろう。そうなれば、国を挙げて狩人(かりびと)育成を推進するはずじゃ」


  「魔獣は、魔獣同士で争っているからね。だから今まで、少数の狩人(かりびと)でも魔獣の被害に対して対応できているんだ」


「魔獣が同族争いじゃと。そんなことは有り得ない。魔獣は人間を殺すが、同族を殺めるようなことは決してなかった」


  「それは、悪魔が魔獣同士の争いを禁じて、人間との闘争を命じたからだよ。悪魔はとても強かったけれど、数が多くなかったからね。だから魔獣を力で従えて、人間との戦争に用いたんだ。その悪魔が君によって殆ど打ち滅ぼされ、魔獣は悪魔の恐怖政治から解放され、晴れて同族同士での生存競争が出来るようになったというわけさ」


  「生存のために殺すならば、人間の方が余程―――」


  「容易いと思うかい?人間を殺すのが」


  「・・・・・・・・・」


  「自分よりも遥かに劣る人間達に封印されている君ならば知っている筈だ。人間は強いよ」


  「し、しかし……」


  「それに、魔獣が多くの被害を出しても、国は動かなかっただろうから」


  「どういうことじゃ」


  「最近まで人間は同族同士で大規模な殺し合いをしていたから、魔獣に構っている暇がなかったんだよ」


  「なんじゃと」


  「悪魔との戦争に明け暮れていた君の時代だと考えられないかも知れないけれど、今の時代、ある意味では魔獣よりも人間の方が人間にとって危険な存在と言ってもいいくらいに、人間は人間を殺している」


  「何故?」


  「面白くない質問だね。それは勿論何かのためさ。金、地位、名誉、水、食料、理由なんて山ほどある。他人の命よりも大切な何かのために、人間は人間を殺すんだ」


  「・・・・・・・・・」


  「また無言かい?まあ、被害者側としても、加害者側としても、君には思い当たる節があるのだろうけれど、それを今更考えたって仕方ないだろう」


  「・・・・・・・・・・」


  「はあ~~~。君は本当に後悔が好きだねぇ」


  ―――後悔したところで、過去は変えることが出来ないというのに。



 


 


 

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