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私の奇縁な日々  作者: 春夢ゆかり
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空から…人?

両親が不在になって二週間が経とうとしていた。

父が一年間の転勤になり母は父に付いて行きたいと。

だが私、障子しょうこを一人残すのは心配と悩んでいた。

そんな両親の姿を見た私はたった一年なら大丈夫だと軽い気持ちで二人を見送ることにした。

父も母も心配していたが、最終的には仲良く笑顔で行ってしまった。


…本当に行ってしまうとは…


でも!高校二年で思いもしなかった一人暮らし!

一年だけだが苦手だった家事もなんとかなっている…料理を除いてだが…

そうだ、あとでメールか電話しなきゃ。

学校から帰宅してすぐに干しておいた洗濯物を取り込みながら母から来ていたメールを思い出した。

荷物送ったからどうとか書いてあったかな。

タオルを取り部屋に入ろうとしたら、足元に黒い物が落ちてきた。


「なんだろう?…羽?」


それは黒い羽だった


カラスのかな?とベランダから顔を出したら同じような羽がいくつも落ちてきた。


「え?なにこれ?」


思わず呟いた瞬間、大きな塊が落ちてきて悲鳴をあげようとしたが私の目の前を通りすぎる時、目が合った。

目が、


目が合った?


「………え?」


大きな塊は


人だった


瞬く間に落下した塊…人に脳が追い付くのに時間がかかった。


「今のって人…?」


そっか、人か……って人!?


私のいる階は四階

上からってことは五階か屋上!?いくら小さなマンションでもこの高さから落ちたら!

助けなきゃ!!


急いで落ちた人の元に行かないと!!

ベランダから部屋に入り、持っていたタオルを部屋に放り投げ、玄関へ急いだ。

階段を一気に駆け降りベランダ側へと走った。


芝生の上には無数の黒い羽と人


「ああああ、大丈夫ですか!?」


迷わずに駆け寄り顔を覗きこんだ。

あぁ、意識なんてないよね、そりゃそうだよ!


「んっ…」


落ちたんだから!…ってあれ?


「いってて…」


え、え、うっそ…

目の前の人は体をゆっくり起こした。


「あんのくそ親父、許さない」


半分パニックの私を他所に悪態をつきながら頭を押さえている。


「あ、あの」

「あ゛ぁ?」

「いえ、すみません…」


何かに対して怒っているのはわかったが、心配で話しかけたら思いっきり冷たく怖い目で睨み付けられた。

こ、怖い…


「…あ」

「は、はい?」


冷たい目は私を見つめて何かに気づいたような声を出した。


…よく見たらなかなかいい顔つき。

黒髪は無造作で青みのある黒い瞳、目つきは怖いが。

歳は私と同じくらいかな…うん、カッコイイ。


「…お前、羽拾ったか?」

「羽?」


羽って周りに散らばっている黒い羽のことだよね?

拾ったと言えばベランダで拾ったな


「拾いましたけど…」

「は!?」


ジッと睨んでいた目が見開き項垂れた。


「嘘だろ…」


どうやら私はショックを与えることをしてしまったのかもしれない。

ショックを受けた彼は一人で呟いている。

そんな姿を見ていたら申し訳なく思えてきた。


「あの、えっと…何だかわからないけどごめんなさい」

「…」

「えっと、」

「お前…名前は?」

「しょ、障子しょうこ、です」


聞かれるままに答えたら私を見ている彼の顔がほんのり赤くなっていた。

そして睨んでいた目はどこか楽しそうな目に変わっている。

落ちてきて頭打ったから赤いのかな…?


「…障子」

「はい」

「気に入った」

「…は?」


目の前の彼が笑った。

その笑顔は子供が欲しいおもちゃを手に入れた時の笑顔に似ていた。


「俺、ロイ。よろしく」

「ロイさん?」

「さんはいらねー。呼び捨てでいい、俺も障子って呼び捨てでいいだろ?」


な、何なんだこの人。

落ちてきて睨んでショックを受けて、最終的には気に入ったって。

…気に入った?私を?何で?

困惑する私を放ってロイさんは立ち上がり伸びをしてマンションを指差した。


「障子の部屋ってあそこ?」

「え、あ、うん」

「行くところないからしばらく泊まらせて」

「……え゛?」


なんだろう、わからない。

この人についていけない。

あれですか?頭がちょっと危ない系の人ですか?


「行こうぜ」


と私の腕を引っ張り上げ立たされた。


「いやいや、何でこうなるの」

「ほら、俺落ちてきたから」

「…そうですね」

「な!」


ダメだ!話が通じない!

ほんとに危ない人じゃない!?


「えっと、それよりも救急車とか病院のほうが」

「病院?行くほどじゃねーよ」

「でも落ちてきたし」

「あー、大丈夫。俺…


人間じゃないから」


ヘラッと笑って放たれた言葉に意味がわからず呆然とする私を気に止める様子もないロイさん。


「んじゃ、行くか」

「え?は?行く?って、手!!何で手を掴む!?」


左手に突然のぬくもり。

見ればロイさんの右手ががっしりと掴んでいた。


「ダメか?」

「だ、ダメでしょ?」

「なんで?」

「こういうことは恋人同士とかがするもので、私たちさっき会ったばかりですよ?」


そもそも初対面で手を掴んでくるのはちょっとおかしいのでは?

私の言葉を聞いて「そうか…」と小さく呟いた。

わかってくれた!


「じゃあ恋人になればいいんだな!」

「そうで……って違う!!!」


なんでそうなるの!?普通は友達からでしょ!?

というか手を離しましょうよ!

いや、その前に病院に連れて行ったほうが正しいのでは!?


「えっとですね?ロイさん?まずは病院に行きましょう?」

「だーから、病院はいいって。障子は優しいな」


掴まれた手をぶらぶら左右に揺らしながらニコニコ笑っているロイさん。

もう本当にこの人なんなの?

ん?人?

さっき悪魔って言ってたような?

あまりにも意思の疎通が出来ていなくてスルーしてしまったが…!?


「あ、あの!」

「なーに?」

「さっき悪魔って言いましたよね?」

「うん、悪魔だよ」


…うん。大事なネジが取れたとしか思えない。

ニコニコしてる顔が不意に近くなった。


「信じてないでしょ?」

「え、どう考えても頭を打っておかしくなったとしか…」

「うーん、そっかー。」


掴まれた手を左右に揺らしたまま空を見上げながら考えている様子…。

何を考えてるか全くわからないけれど表情がコロコロ変わる人だな。

最初の冷たい目には恐怖を感じたが今は無邪気な子供みたい。

パッと顔をこちらに戻したロイさんが口を開いた。


「障子、好きなモノ言ってみて」

「好きなモノ?」

「うん、食べ物でも物でもいいから」


好きなモノ?

うーん…好きなモノ…


「ウサギのぬいぐるみ」

「りょーかい、ウサギのぬいぐるみね」


あぁ、なんでこんな時にウサギのぬいぐるみなんて言っちゃうのかな…

この年にもなってウサギだよ、さすがに笑われる。

そんなことを思い沈んだ表情になった私を気にせず、空いてる左手を軽く閉じて手首をクルっと回した


「ほらよ!」


閉じていた手のひらを広げるとポンっと音を立てた。

手のひらの中心には小さめなウサギのぬいぐるみが置いてあった。


「わ、わあ!!すごい!!」

「これくらい簡単だぜ」

「すごい!どうやったの?…あっ!」


私の反応が嬉しいのかもう一つぬいぐるみを出してきた。

二つのぬいぐるみを渡され、まじまじと見てあることに気づいた。


「これって数量限定のうさ吉くん!!!」


そう、彼が出したのは私が好きな『うさ吉くん』シリーズの限定バージョンだった。

ちょっと待って!!なんでここに!?


「あの、ロイさん、これどうやって」

「んー、願ったから」

「願う?」

「この世界で言えば魔法ってやつだ」

「魔法…?」

「悪魔にはこれくらい普通だぜ」


手品ってこともあり得るけれど、こんな運よくウサギのぬいぐるみなんて持ってないだろうし。

正直よくわからないことが続いているが、彼の話しや彼に興味を持ち惹かれている自分がいる。

行くところもないみたいだし悪い人じゃなそうだな…

それにうさ吉くん出してくれたし…いやいや、落ちてきて心配だし。

…うん


「ロイさん、家行きましょうか」

「いいの!障子ありがとう!!」


私の言葉を聞いた瞬間、再びギュッと握られた手


「あ、いや、一先ずってことで!手は離しましょう!」

「やっぱ障子は優しい!!!」


…手を離してくれそうな気配はないので、私は諦めてマンションの入り口に向かって歩き始めた。

ご機嫌なロイさんを連れて…


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