だから、そんなのだめだよ
桜子と二人で遊ぶ約束をした。
遊ぶといっても私が桜子の住むマンションに訪ねるだけだけれど。
私はいつかの同窓会の時のように、逸る胸を抑えられなかった。
ただ、あの時とは違って、私はちゃんとお洒落をして、ミキはいない。
そして、私の想いを彼女に伝えるのだ。
マンションを訪ねると、桜子は笑顔で私を迎えてくれた。
その笑顔に癒されて、自然と笑みが浮かぶ。
「お邪魔しまーす」と、昔桜子の家に遊びに行った時のことを思い出しながら、家の中に上がっていく。
そこに広がるのは、昔見た桜子の家とは全く違った光景だったけれど、桜子のにおいがした。
「すごく、お洒落な部屋だね」
私がそういうと桜子は照れたように手を振って、「こんなの今日だけだよ」と言う。
私が座布団に座ると、桜子は茶菓子を取りに台所に入っていった。
「昨日シュークリーム買ったんだよ~」
台所から聞こえてくる声に、まるで一緒に住んでるみたいだと、私は照れくささと満足感を覚える。
「奈々ちゃんシュークリーム好きだったよね」
その言葉に私は思わずドキッとし、そしてたちまち喜びに満ち溢れた。
だって、確かに私はシュークリームが好きで、けれど、それを桜子が知ったのは中学の時だ。
つまり、桜子は今までずっと、覚えてくれていたのだ。
私は嬉しくて、少しもぞもぞとして照れくささをを表しながら、「うん」と一言、大きく返した。
一方、さっきとは打って変わって、少し残念そうな声が聞こえてきた。
「あ、このジュース賞味期限切れてる~。大ちゃん、買ってきたら飲むように言ったのに」
その声に、私は固まった。
なんで、台所に、しかも冷蔵庫の中に、大壱のものがあるんだ。
彼女は私の気持ちとは裏腹に、今にもスキップしそうな足取りで桜子はジュースとシュークリームを持ってくる。
「このシュークリームおいしいんだよ」と言って差し出したシュークリームに、私は「ありがとう」とだけ返した。
シュークリームの上には粉砂糖がかかっていて、私はその姿をじっと見つめる。
私は震えそうになる声を必死に抑えながら、桜子に尋ねた。
「そういえば・・・・大壱君も、ここに、一緒に住んでるの?」
そっと桜子を見れば、桜子はショークリームに両手を添え、口をあけて今にもかぶりつこうとするポーズのまま、驚いた顔で私を見ていた。
しかし、その顔はすぐ真っ赤に変わり、シュークリームが顔から離れていく。
「う、うん」
彼女の返答は、それだけだった。
それだけで、十分だった。
「どうして・・・」
こんな言葉が漏れる。
桜子が俯けていた顔を上げた。
私は思わず視線をそらすが、口は止まらず、言葉を探しながら動く。
「どうして、大壱なの? 私のほうが、私のほうが桜子のことを知っていて、愛しているのに」
言ってしまった。
それでも歯止めはもう利かない。
え?と桜子から驚きの声が漏れる。
私は桜子を見た。
まっすぐ、射止めるように、責めるように、彼女の驚いた顔を見つめる。
「私は、ずっとずっと、大壱よりずっと、桜子のこと愛している。6年なんかじゃない。中学生のころから、ずっと好きだった」
私はそっと立ち上がり、向かい側に座った桜子の隣に座りなおす。
そうして、もっと近い場所で桜子と向き合った。
私の顔は無表情に近い、まじめな顔をしていただろう。
しかし、それとは裏腹に内心はとても怯えていた。
言ってしまったという恐怖と混乱が私を襲ってくる。
私を拒まないでと願ってはいられず、今にも泣きだしそうだった。
しかしそんな自分を抑えて、私は告げた。
「私、ずっと桜子に恋してたの」
だから、あなたを愛して生きてきた私を、どうか拒まないで。