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期限切れの恋  作者: 天川
期限切れの恋
6/20

だから、そんなのだめだよ

桜子と二人で遊ぶ約束をした。

遊ぶといっても私が桜子の住むマンションに訪ねるだけだけれど。

私はいつかの同窓会の時のように、逸る胸を抑えられなかった。

ただ、あの時とは違って、私はちゃんとお洒落をして、ミキはいない。

そして、私の想いを彼女に伝えるのだ。


マンションを訪ねると、桜子は笑顔で私を迎えてくれた。

その笑顔に癒されて、自然と笑みが浮かぶ。

「お邪魔しまーす」と、昔桜子の家に遊びに行った時のことを思い出しながら、家の中に上がっていく。

そこに広がるのは、昔見た桜子の家とは全く違った光景だったけれど、桜子のにおいがした。


「すごく、お洒落な部屋だね」


私がそういうと桜子は照れたように手を振って、「こんなの今日だけだよ」と言う。

私が座布団に座ると、桜子は茶菓子を取りに台所に入っていった。


「昨日シュークリーム買ったんだよ~」


台所から聞こえてくる声に、まるで一緒に住んでるみたいだと、私は照れくささと満足感を覚える。


「奈々ちゃんシュークリーム好きだったよね」


その言葉に私は思わずドキッとし、そしてたちまち喜びに満ち溢れた。

だって、確かに私はシュークリームが好きで、けれど、それを桜子が知ったのは中学の時だ。

つまり、桜子は今までずっと、覚えてくれていたのだ。

私は嬉しくて、少しもぞもぞとして照れくささをを表しながら、「うん」と一言、大きく返した。

一方、さっきとは打って変わって、少し残念そうな声が聞こえてきた。


「あ、このジュース賞味期限切れてる~。大ちゃん、買ってきたら飲むように言ったのに」


その声に、私は固まった。

なんで、台所に、しかも冷蔵庫の中に、大壱のものがあるんだ。

彼女は私の気持ちとは裏腹に、今にもスキップしそうな足取りで桜子はジュースとシュークリームを持ってくる。

「このシュークリームおいしいんだよ」と言って差し出したシュークリームに、私は「ありがとう」とだけ返した。

シュークリームの上には粉砂糖がかかっていて、私はその姿をじっと見つめる。

私は震えそうになる声を必死に抑えながら、桜子に尋ねた。


「そういえば・・・・大壱君も、ここに、一緒に住んでるの?」


そっと桜子を見れば、桜子はショークリームに両手を添え、口をあけて今にもかぶりつこうとするポーズのまま、驚いた顔で私を見ていた。

しかし、その顔はすぐ真っ赤に変わり、シュークリームが顔から離れていく。


「う、うん」


彼女の返答は、それだけだった。


それだけで、十分だった。





「どうして・・・」


こんな言葉が漏れる。

桜子が俯けていた顔を上げた。

私は思わず視線をそらすが、口は止まらず、言葉を探しながら動く。


「どうして、大壱なの? 私のほうが、私のほうが桜子のことを知っていて、愛しているのに」


言ってしまった。

それでも歯止めはもう利かない。

え?と桜子から驚きの声が漏れる。

私は桜子を見た。

まっすぐ、射止めるように、責めるように、彼女の驚いた顔を見つめる。


「私は、ずっとずっと、大壱よりずっと、桜子のこと愛している。6年なんかじゃない。中学生のころから、ずっと好きだった」


私はそっと立ち上がり、向かい側に座った桜子の隣に座りなおす。

そうして、もっと近い場所で桜子と向き合った。

私の顔は無表情に近い、まじめな顔をしていただろう。

しかし、それとは裏腹に内心はとても怯えていた。

言ってしまったという恐怖と混乱が私を襲ってくる。

私を拒まないでと願ってはいられず、今にも泣きだしそうだった。

しかしそんな自分を抑えて、私は告げた。


「私、ずっと桜子に恋してたの」



 だから、あなたを愛して生きてきた私を、どうか拒まないで。



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