ずっと、大好きなのよ
駐車場にあったベンチに座って桜子の彼氏を待っていると、黒い車がやってきた。
まさか、と私は体を強張らせて、身構える。
睨み付けるように運転席のドアを見ていれば、中から男が出てきた。
彼は私たちの方へ、桜子の元へ、まっすぐやってくる。
私とミキは立ち上がる。
街灯の下、彼は私たちを見て、まず第一に謝った。
「すいません。こんな時間まで待たせてしまって....」
明かりに照らされた男の顔は申し訳なさそうに眉尻が下げられていた。
ミキが恭しく、彼に尋ねた。
「あなたがさくらちゃんの彼氏ですか?」
その言葉に彼は少し驚いたようで、一拍置いた後、照れくさそうに笑った。
「はいそうですが・・・桜から何か聞きましたか?」
それにミキが楽しそうに笑い声をあげる。
「それが、全然話してくれなくて、さっき聞いたときびっくりしたんですよ」
男のほうも相変わらず少し照れくさそうに笑って「そうですか」と言う。
私はそのやり取りの間、男をじっと観察していた。
人のよさそうな顔。誠実そう。まじめそう。モテそう。
一言でいえば、好青年。
私が言葉もなく彼の様子を眺めていると、彼はしゃがこみ、ベンチにもたれかかって寝ている桜子と向き合った。
彼は「桜」と呼びながら、彼女の体を少し揺らしてやる。
そうすると、桜子はすんなりと目を開けて、彼を見た。
「だい君・・・」
少し甘えたような、眠たげな声で彼の名前を呼ぶ。
彼は少し呆れたように息をついた。
そして「帰ろう」と、彼女の手を取って立ち上がる。
桜子は視線の高くなった彼を見上げて、ゆっくりと立ち上がる。
そして私とミキに振り返って、ゆっくりとした動作で、少し名残惜しむように、バイバイと手を振った。
そんな桜子はかわいかったけれど、もう片方の手を握る存在が憎くて、私は桜子に言った。
「桜子、また今度遊ぼうね」
そう言って、彼氏を睨む。
その時彼と目があって、鋭く睨む私に驚いた顔をしたけれど、私は気にしなかった。
これを挑戦状だと受け取ればいい。そうとすら考えていた。
そんな真剣な思いに対して、隣でテンションの上がったミキの、陽気な声が言う。
「そうねー、また今度、恋バナでも!」
そんなミキに彼氏の視線は移り、顔は苦笑いに変わる。
その間も、私は彼を監視して、目で告げる。
”桜子に何かしたら、ゆるさない。”
その『何か』は具体的に言えないほど抽象的だけれど、きっと彼が何をやっても、私は許さないだろう。
「二人はどうやって帰るんですか?」
彼が尋ねると、ミキは心配しないでと胸を張って答える。
「この子お酒飲んでないんで、送ってもらいます」
と言って、私を指さす。
彼は、私を見て「そうですか」と漏らした。
「それじゃあ、こんな遅くまで待たせてしまって、すいませんでした」
彼は軽く頭を下げてそう言い、桜子の手を引いて車に向かう。
桜子は相変わらず眠たそうな様子で、彼に手を引かれながら再びバイバイと手を振っていた。
私とミキは笑顔でそれに手を振りかえす。
そして、彼と桜子が車に乗って姿が見えなくなった後、私は大きく息を吐いて強張っていた体から力を抜いた。
しかしそれに対して、ミキはお酒で赤くなった頬を次は興奮でますます赤くして、私に襲い掛かからんばかりの勢いで言った。
「今日は恋バナよ!あんたも彼氏いるなら教えてよね!」
まだまだ元気なミキに若干うんざりしながらも、「今は気分じゃないよー」と渋い顔で答えた。