会いたい
夜も更け、すでに閉店時間に差し掛かったころ、同窓会はお開きとなった。
久しぶりの友との会話に枷が外れたのか、お酒を飲みすぎてまともに歩けなくなるほど酔った、かつてのクラスメイトの姿が多く見られる。
そのため、頬が真っ赤になってもまだ意識がはっきりしている人が、べろんべろんに酔った人を支えている、といった光景がよく見られた。
それは私たちも例外ではない。
私たちの場合、桜子がべろんべろんに酔って、そんな桜子を私とミキで支えている、といった形だ。
大丈夫かな、と桜子を見やれば、チークに負けず、桜子の顔は赤らんでいた。
少し眠たそうに伏せられた瞼。完璧に酔っていると分かる。
桜子がお酒に弱いという新しい一面を知って、そんな彼女がどうしてもかわいくて、どんな彼女でもいとおしく感じてしまう自分に少し驚くと同時に、どんな彼女でも愛せる自分がいることに気付いた。
片側を支えているミキが呆れた声を上げる。
「どーしてお酒弱いのにあんなに飲むのかなぁ。初めて飲んだわけじゃあるまいし」
そういう彼女の頬も少し赤くなっているけれど、意識ははっきりしている。
それに対して、桜子は視線を下げたまま、頬をぷくっと膨らませ、不機嫌そうに答えた。
「そぉんなこと言ったってぇ、飲みたい気分だったのよぉ」
呂律がうまく回っていない彼女の言葉に、ミキは相変わらずあきれた様子でハイハイとうなずく。
それに対して、その呂律の回らない彼女の声が、言葉が、振る舞いが、予想以上に可愛くて私は胸にキュンとしたものを感じた。
お酒も飲んでいないのに、逆にこっちの頬が熱くなる感覚。
この感情の発散方法がわからなくて、ぐっと耐えて黙っていると、ミキが尋ねる。
「じゃああんた、帰りどうするの?」
その言葉に、私は気付く。
桜子はここから少し遠い場所に就職して、住んでいるらしい。
だからここまで電車か車で来たというわけなのだが・・・お酒を飲んでしまっているから車では帰れないだろう。
かといって、電車もすでに終電が出てしまっている。
だとすれば、誰かの家に泊まっていくつもりだったのだろうか。
それなら・・・
「あ、わた」
「彼氏にぃ、もう頼んであるから、大丈夫ぅ」
私の言葉をさえぎり、ひときわ大きな声で、彼女はぶっきらぼうにそう言った。
私はその言葉に耳を疑う。
彼氏?
頭を鈍器でたたかれたような衝撃が全身を襲う。
信じられなくて、私は眠たそうな顔で瞬きを繰り返す彼女を凝視した。
それはミキも同じようで、驚いた顔で桜子を見た後、ひときわ大きな声で叫んだ。
「彼氏ぃ!?」
あんた彼氏いんの?とミキが尋ねる。
「うん。いるぅ」
彼女はそれだけ言った。
聞き間違いであってほしいと思っていた私に二度目の衝撃が襲った。
いや、桜子はかわいいから、彼氏がいても不自然ではないだろう。
ただ同窓会で話している間はそんな話はこれっぽっちも出てこなかったから、不意打ちの話にミキと私は相変わらず驚いたままだった。
ミキがもう少し早く言ってくれればいいのに、とため息をつく。
きっと、いろんなことを話したかったのだろう。つまり、学生の頃のように、恋バナがしたかったのだろう。
彼女の溜息は非常に残念とばかりに漏れていった。
対して、私は焦っていた。
どこの男かも知らないやつに、先を越された。
そんな考えが頭の中を支配して、桜子を支える手に力が入る。
でも、私が桜子にこの思いを伝える日が、来るのだろうか。
私のこの思いをどうやって、それ以前に伝えてもいいのだろうか。
しかしそんな不安が駆け巡ったのも一瞬だった。
今まであれほど桜子を傷つけたくないと思っていたのに、それを打ち消すほどの、まだ見ない桜子の彼氏に闘争心が燃え上がったのだ。
桜子を思い続けた年月は私のほうが長くて、私のほうが桜子のことをわかっている。
だから私のほうが桜子にふさわしくて、私の方が幸せにできるに違いない。
そんな感情が私の中で桜子の彼氏に会うまでずっと、駆け回っていた。