表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
期限切れの恋  作者: 天川
期限切れの恋
2/20

大好き

私は大学を卒業後、地元には帰らなかった。

噂では、桜子も地元で就職してないようだ。

もはや噂でしか繋がりあえないこの関係に、私は自分を嘲笑するしかなかった。

こんなにも好きなのに、この想いを扱いかねる自分がいる。

桜子を傷つけたくない。けれど、会いたい。

想いはやはり日に日に増えるばかりだ。

けれど、とうとう、桜子と会えなかった日々が終わろうとしていた。

今日は中学校の同窓会だった。

誰が来るかは、はっきりと分からないが、聞いた話では、桜子が来るらしい。

それを聞いた途端、私の鼓動は大きくなって、顔が少し熱くなった。

桜子に会える、そう思ったら胸がときめいて、そんな淡い感情に私は一人の女なのだと思い知らされる。

同時に、私は桜子が好きなのだと、改めて思い知らされた。



 私は少し遅れて、同窓会の舞台となる小さな居酒屋に着いた。

桜子はもういるだろうか。

逸る胸を人知れず抑えながら、私は大きく息をついて、会場である座敷の襖を開いた。

戸の向こうから漏れていた声が直接耳に入ってくる。

そして、懐かしくも少し変った顔ぶれが目に入った。

その新鮮でもあり、懐かしい光景に周りを見渡しながらも、無意識に彼女を探している自分に気付く。

もうすでにみんな酔っぱらっているようで、あちこちで真っ赤な顔で楽しそうに笑う姿が見受けられた。

そんな中、私に気付いたのは、中学からの付き合いで大学進学の時に別れたミキだった。


「いわっちゃん!」


座ったまま私のあだ名を呼び、手を振る懐かしい顔ぶれ。

そして、一目で分かった。その隣に、桜子が座って、こっちに笑いかけている。

私も笑って手を振りかえすと、今まで楽しげに飲んでいたクラスメイトも私に気付いたようだ。

少し驚いたような顔をした後、私に笑いかけて「久しぶり」と声をかけてきた。

私も「久しぶり、元気だった?」と声をかけながら、彼女たちのもとへ歩みを進めていく。

そして、私に微笑みかけるミキと桜子の間に座った。

桜子はしばらく会わない間に、少し、というよりも、すごく変わっていた。

中学生の時の桜子は、ミディアムで癖のない、さらさらとした髪をただ下しているだけだった。

今目の前にいる桜子は、パーマをかけた長い髪をきれいに、かわいく横に結ってある。

その姿に、どれほど時間が流れ、彼女が少女から大人に変わったことを実感せずにはいられなかった。

変わらないミキの振る舞いに私は安堵していたけれど、その姿はみんなすでに『大人』だった。

改めて確認させられたことに、胸がずきっと痛む。

それと同時に、隣に座っている、きれいでかわいい大人の桜子に、内心ドキドキせずにいられなかった。

彼女は少し頬が赤くなった顔で私を見て、かわいい顔で変わらない笑みを作った。


「久しぶりだね。奈々ちゃん」


甘い、でも子供臭さがない、女性の声。

その全てに、私の鼓動は早くなって、ドキドキは強まるばかりだった。

岩瀬奈々(いわせなな)。これは私の名前。

奈々ちゃんという呼び方は、桜子だけがする。

他のみんなは、「いわっちゃん」

多少よそよそしいと感じることもあったけれど、「奈々ちゃん」は彼女だけの呼び方なのだ。

中学の時から変わらないそれに、私はうれしくて、頬が熱くなり、にやけそうになった顔をごまかそうと、下唇を少しかみしめた。

しかし彼女をじっと見ているとそれは抑えきれなくて、私は満面の笑みを浮かべてしまう。


「久しぶり、桜子。中学以来だね」


桜子。これは、私だけが呼ぶ、呼び方。

みんなは「さくらちゃん」

けれど、私にはこの呼び方が一番しっくりきたのだ。

私たちだけの呼び名が、唯一私にとって誇れることで、私は特別なのだと、私に思わせてくれた。

たったそれだけのことだけれど、それが今も続いているのだと思うと、素直にうれしかった。

私の隣に座っていたミキが私に尋ねる。


「いわっちゃん、お酒飲めるー?」


私は車で慌てて仕事場から直接こちらに来たので、お酒は飲めなかった。

だから服装はいつもの地味なもので、洒落っ気などこれっぽちもない。

そのことに少し恥ずかしく思いながら、ミキに断りを入れる。

そういうとミキは「じゃあウーロン茶ねー」と率先して、本当は私が取りに行くべきなのに、それを気にした風もなく、座席を立って私のためにウーロン茶を取りに行ってしまった。

私は彼女の好意を引き留めるわけもいかず、その後ろ姿に「ありがとー」と慌てて告げる。

彼女は気にしないでと笑って、座敷から姿を消した。

ミキは、昔から率先して行動する、面倒見のいい姉御肌な人だ。

そんなところは変わっていなくて、私は心底ホッとする。

そうして、私は懐かしき中学校の思い出を思い出しながら、昔と今の違いに驚き、または笑い、そしてある意味ドキドキする夜を過ごした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ