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期限切れの恋  作者: 天川
期限切れの恋の行方
15/20

どうしようもない

夕日色に染まった街と、帰路につくサラリーマン。そして輝き始める電光掲示板。

そんな景色の中、私はある店の前で佇んでいた。


ゲイバー。男性の同性愛者が集まる店。


目的地であるその店を、その店名を何度も確かめる。

そして意を決してきょろきょろと見回してみれば、店の裏口は路地裏にあった。

さっそくその路地裏に体を滑り込ませ、その裏口へと向かう。

エアコンの稼働音に囲まれながら前へ進み、そして私は扉の前で立ち止まった。

大きく息を吸って、エアコンのうるさい排気音より大きな声で叫びかける。


「すいませーん!」


目の前の扉はすぐに開いた。

ドアの間から顔を覗かせたのは、50歳ほどの男。


「なにか、御用で?」


私は唾を飲み込んだ。


「突然すいません!私、このお店の店主に頼みごとがありまして!今お時間大丈夫でしょうか!?」


緊張する自分を自覚しながら、慌てて頭を下げる。

しかし、なかなか相手の反応は返ってこない。

恐る恐る頭を上げてみれば、そこには誰もいなかった。

幻覚でも見たのだろうか。

そう思ったのは一瞬で、体は冷や水を浴びたように冷たくなる。


また、だ。


「すいませんでした、事前に連絡もせず!でもどうしてもお願いしたいことがあるんです!せめてお話だけでも!」


どこに電話をかけても断られた。笑われた。

その度、ようやく見つけた希望の光が陰っていく気がした。

だから私はきっとこの時、正気ではなかったのだろう。

扉越しに強い衝撃が加えられる。オーナーが扉を蹴ったのだ。


「うるせぇっ警察呼ぶぞ!」


中から怒鳴り声が響く。

もっともだ。あたりまえだ。

ここでようやく理性が顔を出す。

興奮して出てきた涙を啜って、話を始める。


「すいません、話だけでもいいので、聞いてくださいませんか?」


まるで同情を誘うような弱弱しい声だ。

私は自分がそんな声を出していることが許せなくて、俯いた顔を上げる。

そして、はっきりと告げた。


「私も、同性愛者なんです」


すると、私の思いが伝わったのか、男が再び顔を覗かせる。

といってもさきほどの10分の1ほどしか開いていない扉の隙間から、哀れむような目だけ覗かせて、


「来る店、間違えてるぞ」


とだけ言って、再び扉を閉めようとする。

私はとっさに、扉の隙間に指を差し込んだ。

途端に襲われる強い痛みに顔をしかめてしまうが、構わないで男を覗き返す。


「いいえ、合っているんです。話を、聞いてください」


男は私の鬼気迫る行動に辟易としたのか、驚いた様子から変わって呆れた口調で「分かったから、手を下ろせ」と言った。

半信半疑ながらもそっと手を離せば、彼は素直にドアを開ける。

そしてそそくさと店内に戻っていった。

呆気ない攻防の終わりにポカンとその背中を見送ってしまうが、慌てて我に返りその後を追うように店内に足を踏み入れた。


「ストップ」


しかし2歩目で彼の声がかかる。

彼は椅子を二人分抱えて戻ってきた。


「そこで話せ」


と、一つを私に渡す。

彼もまた椅子に座り込むと、胸ポケットからタバコを取り出した。

火を点けタバコの煙を大きく吸い込むと、未だ椅子を抱えて佇む私を見上げて、


「こっちも開店の準備中で時間がなくてね。それに店内に女性を入れるつもりはないんだ。タバコ休憩がてらそこで話して帰ってくれ」


味気ない言葉と興味がなさそうな視線が飛んでくる。

この人は何も知らない赤の他人だ。

むしろ警察を呼ばなかっただけ、お人よしなのだろう。

私はどこから話すべきか黙考した後、誰にも話した事のない過去の話とお願いを、彼に話すことにした。


-----------


ずいぶんと話したような、けれど大した話でもなかったような、そんな空を切る感覚を味わいながら、話しを終える。

男は3本目のタバコの煙と共に、


「馬鹿な話だ」


と吐き捨てた。


「なんでそこまでこだわる。さっさと見切りをつければいいものを。それに面倒だ。『女性との結婚を望む同性愛者の男がいたら連絡してほしい』なんて、それこそ砂漠で探し物をするようなものだ」


男はきっぱりと言った。

私は理解されないことに半分落胆しながら、けれど諦めずに、


「50万」


と強気に言い切った。


「この依頼を受けてくれたら、50万払います。どうですか?」


男の片眉が上がる。

気になるようだった。


「見つからなかったらどうする?」


「それは仕方ありません、50万円はそのまま差し上げます。ただ、見つかった場合、もう50万、お支払いします」


「・・・本気か?」


「本気です。じゃなきゃこんなことしない」


きっぱりと言い切った私の態度に、男は面白そうに笑みを浮かべた。

目先の思わぬ収入に喜んでいるのかもしれない。

短くなったタバコを灰皿で潰し、乗り気な様子で話を始める。


「どんな男がいい?さすがに結婚するんだから、多少の選り好みはあるだろう?」


「とくにはありません・・・といえば嘘になります。最低限、仕事をしている人を望みます。容姿は頓着しません。性格も。・・・あー、空気を読まない奴は嫌です。個人的に嫌いです」


具体的な希望に、男は笑みを浮かべたまま私を見つめる。


「それだけか?とんでもねぇクズが来るかもしれねぇぞ?」


完全に面白がっている声音に、けれど私は真面目に頷いた。


「いいんです。私に必要なのは利害関係がはっきりした結婚なので、これ以上のわがままは言いません」


至極真面目な私に、男は笑みを固め、同じように真面目な表情を作る。


「・・・わかった。そこまで言うなら、その依頼受けてやるよ。あてがねぇわけじゃねえ。が、保証はできねぇからな?」


きつく言い渡されるそれに、私はそれでもいいと頷く。

お互いに見つめ合い、わずかな沈黙が生まれる。

そして根負けしたように男は視線を外すと、4本目のタバコに手を出した。

手慣れた様子でライターで火をつける。

大きく吸い込んで、吐き出す。

その作業を眺めていると、男はぽつりと話し出した。


「しかし、お前さんは馬鹿だな」


呆れた言葉に、自身も苦笑いしか浮かばない。

自分でもどうしようもないのだ。



久しぶりの投稿で文章は変だし、展開も無理矢理ですが大目に見て欲しい・・・(だめだこりゃ)

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