私は彼女が好きだから
私は怯えていた。大壱が桜子に“私の嘘”を伝えてしまったらと思うと、恐ろしくて仕方ない。
しかし、あの嘘を言った時から引き返せはしないのだ。
全ては私のせい。
“嘘”を“本当”に変えなければならない時がきたら。
“嘘”だとバレたら。
その事実がどんな結果を手繰り寄せるのか。
私はただそれが恐ろしい。
大壱と会ってから一週間後。
とうとう、桜子からメールが届いた。
【奈々ちゃん!大壱くんから聞いたけど、彼氏いるんだって?どうして教えてくれないの!?(怒)】
どうにも、彼女の怒りを買ってしまったらしい。別に黙っていたわけではない。本当はいないのだから。しかし、青ざめた私には彼女の機嫌を直す余裕はあまりない。最も重要なことは、今はこの嘘をどこまで上手に誤魔化せるか、だ。
焦りと恐れを感じながら、同時に一週間も黙っていた大壱を意外に思った。あいつのことだから、私の焦りなど気にせずにペロリと話してしまうと思ったのに。
とりあえず、返信しようと血の気が抜けた手で携帯を握り直した。
【ごめん(汗)中々言い出す機会がなくて・・・。でも、】
でも・・・なんだろう。言葉が思い付かない。
私は男性と付き合ったことがない。だから想像でなんとなく、ありきたりな言葉を打ち込んだ。
【でも、充実してるよ】
充実してるって、何が?
思わず自分でツッコんでしまうが、そのまま送信する。
数分後、メールの着信音が鳴った。
【のろけ話聞きたーい!o(^o^)oどんな人なの?】
食いついてきた。
のろけ話なんてない。正直にそう言えたらどんなに楽なんだろう。
しかしそんなことを出来る訳がなく、なんとかひねり出す。
【この前、ワールドランド行ってきたよ】
ずっと昔にテレビで小耳に挟んだ話だ。バラエティ番組で『デートスポットランキング』をやっていて、その一位がワールドランドだったのだ。場所が遠くお金もかなりかかるため行ったことは無いが、充実したアトラクションと施設があるそうで、当時は桜子と行ってみたいと夢を馳せたものだ。
曖昧な記憶を辿りながら、その情報が正しいことを願う。
【ワールドランド!?結構アクティブな人なんだね!何歳なの?】
“ワールドランド!?”の件がものすごく気になる。変だったろうか。彼女の言葉一つに動揺し、心臓がドクドクと鳴る。
【私とあまり変わらないよ。ワールドランドはたまたまチケットが手に入ったから行っただけ】
彼女の質問をぼんやりと誤魔化しつつ、さりげなくワールドランドに訂正を加える。こうすれば仕方なく行ったように見えるだろう。
【そうなんだ。でもすごく仲良いんだね!ワールドランドって待ち時間が結構長くて、会話がもたなくて別れるカップルが結構いるみたいだから・・・。奈々ちゃんの好きな人と会ってみたいなぁ~】
ワールドランドの話をふ~んと読み流しながら、最後の文章に項垂れた。横たわっていた布団の枕に額を押し付け、考える。
予想はしていた。桜子なら、絶対こう言うって。だから私は汗が滲む手で、あらかじめ考えていた言い訳を打ち込んだ。
【彼、すごく忙しい人だから、会うのは難しいかも。ごめんね】
送信して、一息吐く。
襲ってきたのは一時的の安堵と、強い疲労感だ。
分かっている。こんなのは一時的逃避に過ぎない。
根本的な解決にもならず、嘘だということはいつか絶対バレるだろう。
けれど、桜子を私から解放するためならば、
私は、“嘘”を“本当”にしてみせる。




