ごめんね
結婚式は想像で書いてあります。
タイトル変更しました。
その後、実は大壱と結婚式をするかしないかで喧嘩していることや、桜子は結婚式をしなくてもいいと考えていること、大壱はどうしてもやりたいと言っていることを知った。
きっと、彼女は言いたくて仕方なかったんだろう。
けれど、私は彼女に振られた人間だから。
それが、彼女の言葉を押しとどめていた。
彼女の結婚式は、私がふざけて言った「桜子のウエディング姿、楽しみね」の一言で決まってしまった。
単純なことに、桜子は私のその一言で意見をころりと変えてしまったのだ。
「奈々ちゃんが見たいなら、是が非でもやる!」
と、どこか論点がずれた答えに、私は戸惑い、けれど喜んで見せた。
桜子がしなくてもいいと思っているならそれでいいと思うが、確かにウエディングドレス姿は、正直見ててみたい。
だって、絶対綺麗で、かわいいにきまっている。
こうして、こんな単純な理由で彼女の結婚式は開かれることとなった。
桜子は6月の花嫁となった。
身内と数人の友人が招待された結婚式。
私は初めての結婚式にこんな感じなのかと、つい周りを見回してしまう。
知っている人と言えば、桜子の両親ぐらいだろうか。しかも中学生の時以来会っていない。
覚えているだろうかと不安ながら、なんとなく挨拶をしてみれば、彼女の母親は私を覚えてくれていた。
彼女の目と瓜二つの目を見つめながら、つい「桜子はどんな感じですか?」とつい尋ねてしまう。
彼女は本当に幸せそうに、手で口元を隠しながら笑った。
「すごく綺麗になってたから、楽しみにしててね」
そう言って、待ち切れないとばかりに、再び桜子の元に行ってしまった。
中々現れない桜子に、退屈を覚えつつ立食式の食事を取っていたところ、不意にアナウンスが入る。
『まもなく、新郎新婦のご登場です。皆様、奥の扉にご注目ください』
BGMの音が絞られ、次第に無音になる。
ざわめきだけが残り、注目を浴びた扉が、ゆっくりと開かれた。
開かれた扉の先は、白かった。
いや、白い人が二人。
大壱も桜子も、真っ白だった。
よく見知った二人が、まるで知らない人のように感じられる。
大壱は髪をオールバックにして、白いタキシードを着ていて。
桜子は、ベールの下に髪をしまっていて、本当に頭から足先まで真っ白だった。
そんな二人の姿を茫然と見つめながら、周りに合わせて拍手を送った。
二人の姿を見たら、何も考えられなくなってしまったのだ。
挨拶も、誓いの言葉も、誓いのキスも。
全てが私の中を素通りしていく。
ブーケトスでブーケが知らない女の元に飛んでいくのを見届ける。
私は周りと同じ表情を装った。
そうして、みんなが桜子に話しかけているのを、離れた場所で見ていた。
桜子は、とても綺麗だった。
今まで見たことがないくらい、あれが桜子かと疑ってしまうくらい。
ウエディング姿を見れてよかったと思う。
おそらくもう二度と見ることはできないだろう。
だから、目に焼き付けておこうと見つめていると、ふいに桜子と目があった。
恥ずかしげに頬を染めて綺麗に笑っていた表情は喜びに変わり、私を見つめる。
私はその表情に釣られるように、笑みを浮かべ、彼女の元へと歩んだ。
「奈々ちゃん!来てくれてありがとう!」
「こっちこそ、呼んでくれてありがとう・・・すごく綺麗だよ、桜子」
正直にそう告げれば、彼女はまた照れ恥ずかしそうな笑みを浮かべる。
そこで、桜子の隣にいた桜子の母親が声を上げた。
「あ!そうだ、あんたたち写真撮りなさいよ!まだ撮ってないでしょ」
そう言った手には既にカメラが握られていたから、もしかしたら一人一人撮っているのかもしれない。
私は断る理由も浮かばなくて、桜子とツーショットを撮った。
私も桜子も片手でピースをして、ニッと笑みを作る。
桜子の母親はそんな私たちの写真を一枚撮ると、彼女もまたニッと笑って、
「写真送っておくからねぇ」
と言った。
「ありがとうございます」とお礼を告げれば、彼女は他の人に話しかけられてどこかに行ってしまった。
隣に立つ桜子に振り向く。
彼女もまた、私を見ていて、「奈々ちゃん」とずいぶんと真面目くさった声で言った。
そんな彼女に、私は軽く「ん?」と首をかしげる。
そして、彼女は雑音に消されてしまう程小さな声で、だから私には聞こえなくて。
「 」
彼女の艶やかな唇が言葉をなぞるのを、私は静かに見つめていた。
彼女が背負った罪悪感を見る度、私は後悔に襲われる。
けれど、彼女はきっとそんなことを知らない。
知らないままでいい。
これは自業自得で、私は彼女に、
「幸せになってね、桜子」
今はただ、それだけを望むのだ。
微笑んでそう告げた言葉に、彼女は一瞬唖然として、けれどその目はたちまち潤んで、そして涙が零れ落ちた。
ボロボロと零れ始めたそれらを真っ白な手袋で拭いながら、
「ありがとう」
その一言に、私はもう耐えられそうになかった。
泣いて化粧が崩れてしまった桜子に、一度待合室に行くことを勧める。
すると、彼女は素直に私の言葉に従って、汚れてしまった手袋を気にしながら待合室に行った。
そして同時に私も、その場から離れていった。
人目がない場所なら、どこでもいい。
そう思って私が飛び込んだのは、トイレの個室だった。
幸いにも誰もいなくて、勢いよく飛び込み、鍵をかける。
そして、堰き止めていたものが、崩壊した。
「ううっ・・・」
嗚咽が漏れる。
涙が頬を伝う、熱の感触。
その勢いは止まらなくて、次から次へと、流れていく。
ずっと隠してきたことがある。
この日まで、この瞬間まで隠し続けてきたこと。
本当は、桜子の結婚なんて、嫌だった。
結婚することを聞いたとき、あのまま桜子を連れてどこまでも逃げてやろうかと考えた。
けれど、それは桜子の幸せではないから。
桜子のウエディング姿が見てみたかった。
でも、気づいてしまった。
私では、あのウエディングドレスを着させることはできない。
私では、あんな風に祝ってもらえない。
あんな照れ恥ずかしそうな顔も、幸せそうな顔もさせてあげられない。
でも、やっぱり、嫌だった。
桜子が結婚するなんて、嫌だ。
誰かの、大壱のものになってしまうなんて。
寂しくて。
悔しくて。
悲しくて。
そう感じる度、私はつくづくと思うのだ。
この恋を捨てることも消すことも出来なかった私は、桜子の『友人』にもなれなかった。




