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期限切れの恋  作者: 天川
その後
10/20

ごめんね

結婚式は想像で書いてあります。

タイトル変更しました。

その後、実は大壱と結婚式をするかしないかで喧嘩していることや、桜子は結婚式をしなくてもいいと考えていること、大壱はどうしてもやりたいと言っていることを知った。

きっと、彼女は言いたくて仕方なかったんだろう。

けれど、私は彼女に振られた人間だから。

それが、彼女の言葉を押しとどめていた。



彼女の結婚式は、私がふざけて言った「桜子のウエディング姿、楽しみね」の一言で決まってしまった。

単純なことに、桜子は私のその一言で意見をころりと変えてしまったのだ。


「奈々ちゃんが見たいなら、是が非でもやる!」


と、どこか論点がずれた答えに、私は戸惑い、けれど喜んで見せた。

桜子がしなくてもいいと思っているならそれでいいと思うが、確かにウエディングドレス姿は、正直見ててみたい。

だって、絶対綺麗で、かわいいにきまっている。

こうして、こんな単純な理由で彼女の結婚式は開かれることとなった。



桜子は6月の花嫁となった。

身内と数人の友人が招待された結婚式。

私は初めての結婚式にこんな感じなのかと、つい周りを見回してしまう。

知っている人と言えば、桜子の両親ぐらいだろうか。しかも中学生の時以来会っていない。

覚えているだろうかと不安ながら、なんとなく挨拶をしてみれば、彼女の母親は私を覚えてくれていた。

彼女の目と瓜二つの目を見つめながら、つい「桜子はどんな感じですか?」とつい尋ねてしまう。

彼女は本当に幸せそうに、手で口元を隠しながら笑った。


「すごく綺麗になってたから、楽しみにしててね」


そう言って、待ち切れないとばかりに、再び桜子の元に行ってしまった。



中々現れない桜子に、退屈を覚えつつ立食式の食事を取っていたところ、不意にアナウンスが入る。


『まもなく、新郎新婦のご登場です。皆様、奥の扉にご注目ください』


BGMの音が絞られ、次第に無音になる。

ざわめきだけが残り、注目を浴びた扉が、ゆっくりと開かれた。


開かれた扉の先は、白かった。

いや、白い人が二人。

大壱も桜子も、真っ白だった。

よく見知った二人が、まるで知らない人のように感じられる。

大壱は髪をオールバックにして、白いタキシードを着ていて。

桜子は、ベールの下に髪をしまっていて、本当に頭から足先まで真っ白だった。

そんな二人の姿を茫然と見つめながら、周りに合わせて拍手を送った。

二人の姿を見たら、何も考えられなくなってしまったのだ。

挨拶も、誓いの言葉も、誓いのキスも。

全てが私の中を素通りしていく。

ブーケトスでブーケが知らない女の元に飛んでいくのを見届ける。

私は周りと同じ表情を装った。

そうして、みんなが桜子に話しかけているのを、離れた場所で見ていた。


桜子は、とても綺麗だった。

今まで見たことがないくらい、あれが桜子かと疑ってしまうくらい。

ウエディング姿を見れてよかったと思う。

おそらくもう二度と見ることはできないだろう。

だから、目に焼き付けておこうと見つめていると、ふいに桜子と目があった。

恥ずかしげに頬を染めて綺麗に笑っていた表情は喜びに変わり、私を見つめる。

私はその表情に釣られるように、笑みを浮かべ、彼女の元へと歩んだ。


「奈々ちゃん!来てくれてありがとう!」


「こっちこそ、呼んでくれてありがとう・・・すごく綺麗だよ、桜子」


正直にそう告げれば、彼女はまた照れ恥ずかしそうな笑みを浮かべる。

そこで、桜子の隣にいた桜子の母親が声を上げた。


「あ!そうだ、あんたたち写真撮りなさいよ!まだ撮ってないでしょ」


そう言った手には既にカメラが握られていたから、もしかしたら一人一人撮っているのかもしれない。

私は断る理由も浮かばなくて、桜子とツーショットを撮った。

私も桜子も片手でピースをして、ニッと笑みを作る。

桜子の母親はそんな私たちの写真を一枚撮ると、彼女もまたニッと笑って、


「写真送っておくからねぇ」


と言った。

「ありがとうございます」とお礼を告げれば、彼女は他の人に話しかけられてどこかに行ってしまった。

隣に立つ桜子に振り向く。

彼女もまた、私を見ていて、「奈々ちゃん」とずいぶんと真面目くさった声で言った。

そんな彼女に、私は軽く「ん?」と首をかしげる。

そして、彼女は雑音に消されてしまう程小さな声で、だから私には聞こえなくて。


「    」


彼女の艶やかな唇が言葉をなぞるのを、私は静かに見つめていた。


彼女が背負った罪悪感を見る度、私は後悔に襲われる。

けれど、彼女はきっとそんなことを知らない。

知らないままでいい。

これは自業自得で、私は彼女に、


「幸せになってね、桜子」


今はただ、それだけを望むのだ。


微笑んでそう告げた言葉に、彼女は一瞬唖然として、けれどその目はたちまち潤んで、そして涙が零れ落ちた。

ボロボロと零れ始めたそれらを真っ白な手袋で拭いながら、


「ありがとう」


その一言に、私はもう耐えられそうになかった。



泣いて化粧が崩れてしまった桜子に、一度待合室に行くことを勧める。

すると、彼女は素直に私の言葉に従って、汚れてしまった手袋を気にしながら待合室に行った。

そして同時に私も、その場から離れていった。

人目がない場所なら、どこでもいい。

そう思って私が飛び込んだのは、トイレの個室だった。

幸いにも誰もいなくて、勢いよく飛び込み、鍵をかける。

そして、堰き止めていたものが、崩壊した。


「ううっ・・・」


嗚咽が漏れる。

涙が頬を伝う、熱の感触。

その勢いは止まらなくて、次から次へと、流れていく。

ずっと隠してきたことがある。

この日まで、この瞬間まで隠し続けてきたこと。


本当は、桜子の結婚なんて、嫌だった。

結婚することを聞いたとき、あのまま桜子を連れてどこまでも逃げてやろうかと考えた。

けれど、それは桜子の幸せではないから。


桜子のウエディング姿が見てみたかった。

でも、気づいてしまった。

私では、あのウエディングドレスを着させることはできない。

私では、あんな風に祝ってもらえない。

あんな照れ恥ずかしそうな顔も、幸せそうな顔もさせてあげられない。


でも、やっぱり、嫌だった。


桜子が結婚するなんて、嫌だ。

誰かの、大壱のものになってしまうなんて。

寂しくて。

悔しくて。

悲しくて。

そう感じる度、私はつくづくと思うのだ。


この恋を捨てることも消すことも出来なかった私は、桜子の『友人』にもなれなかった。


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