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第3話 異世界余裕だわ

「で、例の転生者の名前は、鈴木雄矢スズキ ユウヤだっけ……」


 将斗は腕を組み、呟いた。

 周りにはあの白い部屋の面影がもうどこにもなく、爽やかな風が吹き渡る草原のみが広がっていた。

 頭の奥には、無理やり情報を詰め込まれた鈍痛がまだ残っていた。


 神様に直接脳内に流し込まれ見せられた『おつかい』の対象――『転生者:鈴木雄矢』のダイジェスト映像。

 その内容は、あまりに胸糞が悪かった。


「……マジで最後の方はどうしたお前? って感じだったな……」


 そう。あの映像の、『最初』は良かったのだ。


 トラックに撥ねられ、この『28番目の世界』に転生した『鈴木雄矢』。

 授かった神のスキル『無限魔力インフィニティ』で魔王を倒し英雄となった。


 そこまでは王道のサクセスストーリーだ。


 だが、あろうことか彼は、凱旋したその翌日に国王と王女を殺害。

 国を乗っ取り、暴政の限りを尽くしているという。

 記憶の中の雄矢は、燃える街を背に、民衆を虫けらのように見下ろして笑っていた。


「英雄が悪落ちしてラスボス化、か……」

 

 そう呟くこの場所こそが、雄矢が暴れた28番目の世界だ。

 神の情報曰く、『28番目』とやらに特に意味はないらしい。

 見渡す限り、のどかな草原が広がるばかり。暴虐の限りを尽くした世界にしては、妙に綺麗すぎた。


「一旦整理しよ……」


 将斗は独り言をつぶやきながら、凝り固まった体を伸ばす。


「まず、その一。俺は鈴木雄矢ってのから『無限魔力インフィニティ』を回収しないといけない。その期限は三日目の昼まで」


 これに関しては神様の都合でしかないが、従わざるを得ない。


「その二、この世界で死ぬ、もしくは期限を守れなかった場合、消される」


 これに関しても神様の都合でしかないが、従わざるを得ない。


「その三、俺にはチートスキルがない」


 これに関しては、神様の力がもう残ってないことが原因なので神様の都合でしかないが、従わざるを――


「なああああああ!! あいつの都合ばっかりじゃねぇかよ、最っっっ悪! 念願の異世界転生なのに全然乗り気にならねぇ! というか目的果たさせる気あんのか?! なんなんだあいつ!」


 将斗は不満を漏らした。

 頭を抱えゴロゴロと草むらの上を転がる。


 ふと見上げれば、憎たらしいほどの青い空。

 思い返せば、こうして草むらに寝転がるなんていつぶりだろう。

 インドア派で友達もいなかった将斗にとって、この開放感だけは唯一の救いだった。


 そのままぼーっと空を見上げていて、将斗はふと思い出したように立ち上がった。


「せっかく異世界来たんだし、()()やるか。本当にできるのかどうか……」


 インストールされた情報を頼りに、立てた人差し指でおもむろに二回、空中で円を描く。

 ――すると目の前に薄紫の四角い板が現れた。

 

「おぉー!」


 神様が出したような空中モニターに酷似していたそれは、ふわりと重力を無視して浮いていた。

 表面には『ステータス』と表示されていて、またその後ろには『スキル』と表示されたタブが重なっている。

 触ると軽い抵抗がある。質量を持ったホログラムとでもいうべきか。

 

「すっげぇ、初めて見た。…………当たり前か」 


 その板を『ステータスウィンドウ』と神様は呼んでいた。聞き覚えしかない。

 異世界あるあるな物体の登場に少し目を輝かせる将斗だったが、その輝きは徐々に失われていった。

というのも――


「なんか作りが、雑じゃね?」


『ステータス』と書かれたこの板に表示された情報は主に3つ。

 一つ目は名前だ。『渡将斗』と表示されている。

 二つ目は謎の青い棒。ゲーム知識で補うならHPかMPの残量だろう。しかし、数値はない。

 三つ目は服。人体を極限にまで簡略化したイラストから引き出し線が伸び、線上に『ジーパン』『シャツ』とだけ表示されている。

 

 最悪なのが、フォントもサイズも全部バラバラなせいで読みづらい。ド素人のプレゼン資料でも、もう少しマシだろう。


「青いバー以外いらんだろ……」


 大体これは本人が見るだけなので、自身の名前がデカデカと記載される意味がない。

 服のブランドもユ○クロだし、表示する価値もない。

 求めていたのは自身の筋力や敏捷性が数値化された、ゲームのような画面だった。そんなもの一切ない。年齢すらない。


「もっとマシなのできなかったのか……? レベルとか欲しかったな……」


 期待していたものと比べるとかなり質素な作りで、将斗は文句を垂れるが、まだ希望は消してはいなかった。

 本題はここからだ。

 将斗は裏側にある『スキル』タブをタップした。

 ウィンドウが回転し、画面が入れ替わる。


 そこに表示されていたのは二つのスキル。


 『回収コレクト 残り二回』

 『ランダム 残り二回』


 指を当ててみると、ポップアップで詳細が表示された。


回収コレクト 対象に直接触れた状態で発動した場合、対象のスキルを一つ奪える 詠唱時発動 残り二回』


「……何? この回数制限」


 残り二回という文字に違和感を感じ、将斗は目を細める。

 すると頭の片隅に、ノイズ交じりの映像が流れる。

 同時に生じた頭の痛みで、先ほど無理やりインストールされた記憶だと分かった。


 映像の中で、神様が申し訳なさそうに言っていた。


『残った私の力では二回使えるようにするので精一杯でした☆』

「……なんで語尾に星つけてんだよ」


 そういうことは口頭で言えよと、心の中で毒づく。


 今回の目的であるスキルの奪取、それに必要なスキルに使用回数の制限があるのは聞いていない。

 ましてや、『無限魔力インフィニティ』で猛威を振るっている『鈴木雄矢』というバケモノに、どう接近して触れろというのか。


 しかし、神様は『ある程度戦えるスキル』をくれると言っていたはずだ。

 『回収コレクト』は明らかに戦闘用ではない。


 つまり、戦えるのはもう一つのスキル。それに望みを託し、指先でサブウィンドウを展開する。


『ランダム 何らかのスキルを得る 残り二回』

『使用しますか? YES NO』


 どうやら画面上で操作するタイプらしい。

 

「何が『ある程度戦えるスキル』だ……当たり外れありそうなんだけど?!」


 草原に響き渡る怒鳴り声。

 風が「知らんがな」とでも言いたげに、将斗の髪をなびかせていく。

 

「はぁ……ああ、あれか? 知ってるぞガチャだろこれ。ガチャ転生だったのか、俺の転生は……? アニメまだ見てないのに」


 文句を言っても始まらない。

 将斗は意を決して『YES』を押す。

 本当にガチャなら、引きが良ければ無双できる――そう信じた。

 

「SSレアよ、来てくれっ……」


 文句言っても始まらない。意を決して早速『YES』を押す。

 本当にガチャなら、引きが良ければ無双できるやつだ。


『本当に使用しますか?』

「無駄に二段階認証なの何?」


 再び『YES』を押すと、「テッテレー」とフリー音源で転がってそうな安っぽいファンファーレが鳴るとともに『スキルを得ました』の文字が現れる。

 どうせならと残りの1回も使用。同じ効果音とともに再度、「テッテレー」の音と『スキルを得ました』との表示。

 何を得たかをここで出してくれば、親切なのだが。

 画面外の何もない部分をタッチし、スキルのウィンドウに戻る。すると新しい項目が追加されていた。


『超強化 身体能力の超向上 常時発動』

交換チェンジ 触れている物、または自分を、視界内の同サイズのものと入れ替える 詠唱時発動』

 

 発動条件は神様から流し込まれた情報によってすぐに意味を理解できた。

 『常時発動』=常に発動してる。

 『詠唱時発動』=唱えたときに使える。

 つまり、『超強化』というスキルは今も働いている、ということになる。


「何か変わったってわけではなさそうなんだよな……」


 腕、足、腹。どこを見ても普通。

 強化どころか、運動してない人間特有の少し情けない体型のままだ。

 関係ないがスニーカーを履いてることに気づいた。いつも履いている安物だ。そういうところには気が回るらしい。


「スキル説明だけじゃいまいちピンと来ないな」


 苦笑しながら首を傾げる。


「発動に必要なレベルが足りないとか? でもレベルの情報もらってないしな――」


 そう思いつつ、何気なく、ただ何気なく。靴の中の砂利を落とすように、つま先をトンと地面に当てた。

 

――ドンッッ!!


 「へ?」


 足元から重い音。そして浮遊感。

 ついでに視界がおかしい。何か、向こうに建物が見える。さっきまでは見えなかったはずだが。

 違和感を覚えて下を見た瞬間、言葉が消えた。

 

「え?……は?! はぁぁぁぁ?!」

 

 足元にあったはずの草原が、遥か下にある。

 将斗の身体は――数十メートルの宙に浮いていた。

 

「おいおいおい?! やばいやばいやばいやばい! やばい!」


 すでに頂点を過ぎ、ゆっくりと自由落下を始める。

 死ぬ高さだ。いや、確実に死ぬ。


「おおお終わったぁぁぁぁ……!」


 将斗は目を閉じ、身を固めた。

 耳元で風が唸る。

 芝生の弾力なんて期待できない高さ。

 そして――


 ドン!!


 鈍い衝撃音が大地を揺らした。

 ……数秒。


「……あれ? 痛くない……?」


 目を開けると、無傷の体。

 背中にも血はない。腕も脚も折れていない。地面の方がクレーターのように凹んでいる。


「まさか……」


 恐る恐る立ち上がり、足に力を込める。


 

――次の瞬間、風が爆ぜた。



********************************



 草原を――人間離れしたスピードで駆け抜ける影があった。

 もちろん将斗だ。


「すげぇぇぇぇぇぇぇ!!!! FOOOOOOOOOOO!!!!」

 

 風圧で髪が逆立つ。頬を切る風が痛い。けどそんなの関係ない。

 笑いが止まらない。興奮が全身を駆け巡る。

 地面に思い切り足をぶつけ、体を前へ押しやる。

 速度はさらに増し、風景を置き去りにしていく。


「最っっっ高ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 走っているだけで、心臓が爆音を鳴らしていた。

 もはや走るというより――滑走。地面との摩擦音すら追いつかない。


「ほっ!」


 軽く地面を蹴っただけで、体がふわりと浮く。

 視界が高い。見下ろす草原がやけに小さい。


「うおおおお!? 高っ!? え、これ飛んでない!? ……いや跳んでるわ俺!!」


 着地と同時にもう一歩。地面が弾けるような音を立てて、また身体が加速する。

 風景が一瞬で流れ去る。速度感に脳がついていかない。


「やっべぇ……これ、完全に『超強化』の力ってやつだな……!」


 走るたびに笑いが漏れる。

 跳ぶたびに心が軽くなる。


「異世界余裕だわ!! アハハハハハハハ!!!!」


 将斗は確信していた。

 この力があれば、何だってできる。


「待ってろ異世界ライフゥゥァァ!!!!」



 そんな彼の心が折られるまで、あと数十分。


今日はとりあえず3話まで

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