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断罪された悪役令嬢ですが、帳簿を燃やした王都が先に滅びそうです 〜追放先の辺境で実務改革を始めたら、国家より信用が強くなりました〜  作者: 篠宮しずく


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第6話 数字が、結果を出す

変化は、音もなく始まった。


「……給金、出ましたよね?」


役所の一角で、若い役人が小声で言った。

それを聞いた別の役人が、驚いたように目を丸くする。


「え? 本当に?」

「今朝、きちんと……いつもより遅れてない」


その言葉に、空気がわずかに揺れた。

大声ではない。だが、確かに――希望の音だった。


私は執務机で帳簿を閉じ、日付を確認する。


(予定通り)


今月の支払いは、三日遅れるはずだった。

だが、不要な支出を止め、支払順を整理したことで、遅延は発生しなかった。


奇跡ではない。

単なる計算結果だ。


「……本当に、回り始めたな」


隣でマルセルが、信じられないものを見るように呟いた。


「まだ“回り始めただけ”です」


私は視線を帳簿から外さない。


「止血ができただけ。治療は、これから」


それでも、役所の空気は明らかに変わっていた。

疲弊一色だった顔に、ほんのわずかな余裕が戻っている。


昼過ぎ。

市場から戻ってきた役人が、報告に来た。


「……商人たちが、少し静かです」


「不満は?」


「あります。でも……様子見、という感じで」


私は頷いた。


(正解)


成果が出る前に不満を抑え込めば、爆発する。

だが、成果が見え始めれば、人は様子を見る。


「今週は、追加の契約解除はしません」


その言葉に、役人たちがほっと息を吐いた。


「代わりに、現金の流れを毎日報告してください。

隠さず、盛らず、そのまま」


「……正直に?」


「正直である方が、楽です」


沈黙の後、皆が小さく頷いた。


---


夕方。

エドガー辺境伯が、執務室を訪れた。


「街が、少し静かになった」


「給金が出たからです」


私は即答した。


「それだけで、こんなにも違うものなのか……」


彼は、窓の外を見つめる。

人々の動きが、ほんのわずかに軽くなっている。


「“生きていける”という確信は、強いですよ」


私は、そう付け加えた。


「数字が示すのは、安心です」


エドガーは、苦笑した。


「相変わらず、現実的だ」


「現実しか、扱えませんので」


一瞬、彼は何か言いかけて、やめた。

代わりに、静かに頭を下げる。


「……助かっている」


その言葉に、私は小さく息を吐いた。


(これで、後戻りはできない)


改革は、人の生活に触れた。

ならば、途中で止めるという選択肢は、もう存在しない。


---


夜。

帳簿を整理しながら、私はふと手を止めた。


(失った仕事も、確かにある)


契約解除で、職を失った人間がいる。

それは事実だ。


(だから――次は、受け皿を用意する)


数字を動かすだけでは足りない。

人が、そこに生きている。


私は、新しい紙を一枚取り出した。


「……公共倉庫の再整備」


独り言のように呟き、書き始める。


(冷たいと言われてもいい)


だが、無計画な優しさより、

結果の出る現実の方が、よほど人を救う。


帳簿の上で、数字が静かに整列していく。


それは、誰かの明日が、

ほんの少しだけ確かになった証だった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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