表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢ですが、帳簿を燃やした王都が先に滅びそうです 〜追放先の辺境で実務改革を始めたら、国家より信用が強くなりました〜  作者: 篠宮しずく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/30

第5話 最初に切られた契約

改革は、静かには始まらなかった。


「――その契約は、うちの商会が十年以上請け負ってきたものですぞ」


机を挟んで向かいに座る男は、グラウフェルトでも指折りの商人だった。

ふくよかな体型に、過剰な自信。長年、この領地で“慣例”として生きてきた顔だ。


「承知しています」


私は、用意していた一枚の紙を机に置いた。


「ですが、その契約は三年前から、内容と実態が一致していません」


「そんなはずは――」


「あります」


私は淡々と数字を指でなぞる。


「輸送回数は減っている。鉱石量も減少。

それでも、支払額は変わっていない。

理由は?」


商人は、言葉に詰まった。


「……それは、その……昔からの取り決めで……」


「“昔から”は、理由になりません」


部屋の空気が、目に見えて冷える。

同席していた役人たちが、落ち着かない様子で視線を泳がせた。


「この契約は、今月で終了です」


私は、そう宣告した。


「代替案は用意しています。

条件を見直した上で、再契約するかどうかは――」


「馬鹿にするな!」


商人が、机を叩いて立ち上がった。


「この領地は、我々が支えてきた!

それを、昨日来たばかりの女が――!」


「支えてきたのは、数字です」


私は、視線を上げなかった。


「そして今、その数字は、あなたの契約が重荷だと示しています」


沈黙。

重い、沈黙。


商人は、怒りに顔を赤くしながらも、何も言い返せなかった。

事実を、否定できない。


「……分かった」


彼は、吐き捨てるように言った。


「だが、後悔しますぞ。この領地は、甘くない」


「ええ」


私は頷いた。


「だからこそ、甘さを切っています」


---


会議が終わると、役所内はざわついた。


「本当に、あれを切るんですか……?」

「反発が出ますよ」

「今まで通りでよかったのに……」


マルセルが、低い声で言った。


「思ったより、早く荒れたな」


「予想通りです」


私は、次の書類に目を通す。


「問題は、荒れることではありません。

“荒れた後に、何が残るか”です」


「強いな、あんた」


「合理的なだけです」


その日の夕方。

倉庫の管理費停止と、輸送契約一本の終了が正式に通達された。


翌朝には、街に噂が広がっていた。


「新しい監査官は、容赦がない」

「仕事を奪われる」

「この街を壊す気だ」


私は、それを止めなかった。


(不満は、表に出た方がいい)


抑え込んだ不満は、いずれ爆発する。

数字よりも、よほど厄介だ。


---


夜。

簡易な執務室で、一人帳簿を閉じる。


(これで、今月分の支出は確実に減る)


劇的ではない。

だが、確実だ。


扉がノックされた。


「……入っていいか」


エドガー辺境伯だった。

疲れた顔をしているが、逃げてはいない。


「反発が出ている」


「はい」


「それでも?」


私は、顔を上げた。


「それでも、続けます」


短い沈黙の後、彼は苦笑した。


「……そうだな。ここで止まれば、意味がない」


私は、初めてほんの少しだけ、安心した。


(この人は、逃げない)


「明日から、次の契約に入ります」


「容赦ないな」


「必要なので」


帳簿を指で叩く。


「この領地は、痛みを伴わなければ、生き返りません」


エドガーは、深く息を吐いた。


「……分かった。ついていこう」


その言葉を聞き、私は再び帳簿を開く。


(改革は、始まった)


そして、この小さな痛みが――

やがて王都にまで届くことを、まだ誰も知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ