第33話 王都、孤立を自覚
数字は、嘘をつかなかった。
「……今期の関税収入、前年比三割減です」
財務省の会議室は、重い空気に包まれていた。
報告書を読み上げる声が、どこか遠い。
「通行税も減少。商隊数が顕著に減っています」
「制裁は、効いているのではなかったのか」
財務大臣ギルバート・ヴァイスの声は低い。
「効いています」
次官マレク・ヴァイスが、静かに答えた。
「王都を通る取引には」
「では、なぜ減る」
「通らなくなったからです」
沈黙。
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地図が広げられる。
「北方山道経由」
「港湾都市経由」
「越境取引の増加」
王都を中心に描かれていた線が、
いつの間にか、外側でつながっている。
「……把握できていない」
ギルバートは、低く呟いた。
「信用証書の流通は?」
「王都では使用不可ですが」
「周辺都市では……増加傾向です」
「禁止は?」
「法的根拠が弱い」
また沈黙。
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王城。
「税収が落ちている?」
王太子アルベルトは、報告書をめくる。
「一時的なものでは」
セシリアが、希望的観測を口にする。
「一時的なら、回復します」
だが、報告は続く。
「商人の王都滞在日数が減少」
「倉庫稼働率低下」
「……王都を、避けている?」
アルベルトの声が、わずかに揺れた。
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財務省。
マレクは、書類を閉じた。
(敵は、王都を攻撃していない)
それが、最も厄介だった。
税を下げろとも言わない。
王を倒せとも言わない。
ただ――
(通らない)
王都を、使わない。
それだけで、数字が落ちる。
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「信用圏、です」
若い官吏が、恐る恐る口にする。
「辺境伯領を中心に、
独自の取引網が形成されつつあります」
「制圧できないのか」
ギルバートの問いは、怒りではなく焦燥だった。
「軍を出せば?」
マレクが、静かに言う。
「理由は?」
沈黙。
「違反は、ありません」
その一言が、全てだった。
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夜。
マレクは、一人机に向かう。
王都の帳簿。
赤字ではない。
だが、減少傾向は明確だ。
(力はある)
兵も、法も、権威もある。
(だが、選ばれていない)
それが、初めてはっきりと見えた。
王都は、中心ではなくなりつつある。
誰も宣言していない。
だが、数字が示している。
マレクは、深く息を吐いた。
「……孤立、か」
言葉にした瞬間、それは現実になる。
王都はまだ強い。
だが――
強いだけでは、足りなくなっていた。
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