第32話 信用は守られた
市場は、三日で落ち着いた。
「……思ったより、早いですね」
ユーリが、最新の流通報告を見ながら言う。
信用証書の回収は完了。
無効化された番号は公開。
補填も済んでいる。
「動揺は、長引きませんでした」
「当然です」
私は、帳簿を閉じる。
「守ると宣言したものを、守ったからです」
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商人たちの反応は、単純だった。
「保証が出た」
「処理が早い」
「言った通りだ」
評価は、言葉より早く広がる。
フェリクス・ノートンが、珍しく真顔で言った。
「……これで、確定だな」
「何がですか」
「信用圏は、本物だ」
私は、答えなかった。
だが、数字が答えている。
流通量は、微増。
小口の取引が増えている。
慎重だった商人が、試し始めた証拠だ。
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一方、ルーデン領。
「……除外、か」
カイ・ルーデンは、報告書を見つめていた。
怒りはない。
悔しさはある。
「甘く見た」
それだけだった。
彼は、机の引き出しから帳簿を取り出す。
(見せられない理由が、あった)
それを認めた瞬間、
自分が信用圏に入れなかった理由が、はっきりした。
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辺境伯領。
「参加希望が、増えています」
ユーリの声に、わずかな驚きが混じる。
「ルーデン領の件を見て、
“本当に除外する”と分かったようです」
「ええ」
私は、頷く。
「言葉より、処理が早い方が信頼されます」
「……怖くは、なりませんか」
ユーリが、ふと尋ねる。
「恐れられる制度に、なっているのでは」
私は、少しだけ考えた。
「恐れられているのは、私ではありません」
「では」
「例外です」
私は、静かに答える。
「例外がないと分かった時、人は慎重になる」
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夕方。
イザベル・ノックスが、報告書を閉じる。
「予想より、良い」
「危機だったのでは?」
私が問うと、彼女は首を振る。
「危機は、隠した時に終わる」
「公開し、処理した時点で終わった」
「では」
「これは、試験です」
彼女は、淡々と続ける。
「最初の試験に合格した」
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夜。
私は、流通履歴を眺める。
不正分の番号は、赤で消されている。
それ以外は、黒いままだ。
(傷は残る)
だが、傷は隠していない。
私は、欄外に書き加える。
「――信用残高、維持」
信用は、守られた。
だが、それは守ったからではない。
切り捨てたからだ。
窓の外、街は変わらない。
だが、商人たちの足取りは、少しだけ軽い。
この圏は、嘘を許さない。
その事実が、
最も強い保証だった。




