第31話 切り捨て
決断は、翌朝だった。
「ルーデン領の信用圏参加申請を、却下します」
会議室は静まり返った。
ユーリが、ゆっくりと顔を上げる。
「……正式参加前とはいえ、不正は不正です」
「証書の流通履歴は残っています」
「猶予は?」
フェリクスが、静かに尋ねる。
「ありません」
私は、即答した。
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「だが」
フェリクスは、珍しく強い口調になる。
「損失が出る」
「商人の一部は、ルーデン領と既に取引している」
「分かっています」
私は、彼の目を見る。
「損失は、こちらが補填します」
ユーリが、息を呑む。
「それでは……」
「短期の損失で済みます」
私は、淡々と続ける。
「長期で信用を失うより、安い」
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通信がつながる。
画面越しに、カイ・ルーデンの顔が映る。
疲れと焦燥が混じっている。
「……猶予を」
彼は、率直だった。
「参加は白紙」
「証書は全件回収」
「再申請は一年後以降」
私は、条件を並べる。
「一年……」
「その間、王都との契約を優先してください」
沈黙。
「……切り捨てるのですか」
「切り分けます」
私は、訂正する。
「信用圏と、あなたの領地を」
カイは、目を伏せた。
「……我々は、誠実でした」
「誠実なら、手続きを守れました」
その言葉に、彼は何も返せなかった。
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会議後。
「冷たいですね」
ユーリが、小さく言う。
「ええ」
私は、否定しない。
「ですが、温情は記録に残りません」
フェリクスが、腕を組む。
「商人は、見ている」
「ええ」
「今後、安心して使えると判断する」
私は、頷いた。
「それで十分です」
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数日後。
正式発表が出る。
【ルーデン領、信用圏参加見送り】
【不正利用分は即時無効】
【既存取引は全額保証】
市場は、一瞬ざわつき――
そして、静まった。
「……保証するのか」
商人たちは、目を見合わせる。
「なら、使える」
評価は、そこで決まった。
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夜。
私は、帳簿に赤線を引く。
「ルーデン領――除外」
その一行は、軽くはない。
(救えたかもしれない)
だが、それは“かもしれない”だ。
制度は、可能性では動かない。
窓の外、街は変わらない。
だが、信用証書の流通量は、わずかに増えていた。
切り捨てたはずなのに。
(守ったからだ)
優しさではなく、線引きで。
信用は、今日も生き延びた。
そしてその事実が、
この圏を、さらに強くした。




