第30話 不正の発覚
異変は、内部からだった。
「……信用証書の履歴に、齟齬があります」
ユーリの声は、硬かった。
机の上には、取引記録が並んでいる。
「発行番号は正しい」
「だが、使用回数が……多い」
私は、紙を一枚手に取った。
(偽造ではない)
それが、余計に厄介だった。
「どこで?」
「参加予定だった小領地――ルーデン領です」
「信用圏への正式参加前に、証書が使われています」
「……予定数以上、か」
「はい」
ユーリは、唇を噛む。
「商人同士の取引で回され、
既に三件が完了しています」
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情報は、すぐに広がった。
「信用証書が、不正利用された」
「価値は、大丈夫なのか?」
市場の空気が、ざわつく。
「……まずいな」
フェリクス・ノートンが、低く言った。
「まだ小さいが、放置すれば終わる」
「放置しません」
私は、即答した。
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緊急会議。
集まったのは、最小限の人間だけ。
「不正の内容を、整理します」
私は、淡々と告げる。
「証書は本物」
「発行も記録通り」
「だが、使用条件を逸脱している」
「……悪意、でしょうか」
ユーリが、迷いを含んだ声で尋ねる。
「半分です」
私は、答えた。
「残りは、保身」
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ほどなく、ルーデン領から連絡が来た。
「……事情が、ありまして」
実務責任者カイ・ルーデン。
通信越しの声は、疲れている。
「信用証書が使えると聞き、
商人たちが……」
「止めなかった?」
「……止められませんでした」
沈黙。
「正式参加前であることは、理解していましたか」
「はい」
「では、なぜ」
しばらくの間。
そして、彼は答えた。
「……王都の制裁で、資金繰りが」
それは、理解できる理由だった。
だが――
「理由には、なります」
「正当化は、できません」
私は、はっきり言った。
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フェリクスが、静かに言う。
「噂は、もう走っている」
「早急に決めないと、信用が死ぬ」
「ええ」
私は、頷いた。
「だから、決めます」
ユーリが、息を呑む。
「……今、ですか」
「今です」
私は、即答する。
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夜。
執務室で、一人考える。
(守るべきは、誰か)
ルーデン領か。
商人か。
それとも――
(信用だ)
私は、決断を下した。
それは、正しくもあり、
残酷でもある。
だが、ここで迷えば、
制度は死ぬ。
窓の外、街は静かだ。
だが、内部では――
信用圏は、初めての試練を迎えていた。
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