第29話 入れなかった者たち
条件を読んで、黙ったまま帰った者たちは多い。
「……厳しすぎる」
「理屈は分かるが、現実的じゃない」
それが、彼らの共通した感想だった。
誰も怒鳴らない。
誰も抗議しない。
ただ、選ばなかった。
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自治都市ラドウェルでは、評議会が紛糾していた。
「帳簿の一部開示など、前例がない」
「第三者監査だと? 誰を信用する?」
声は荒れているが、論点は定まらない。
「だが、取引は安定している」
「王都経由の物流は、もう戻らない」
若い実務官が、恐る恐る言った。
「……信用圏に入らない限り、
今後の契約は不利になります」
沈黙。
「だからといって、全てを見せるのか?」
誰も、答えられなかった。
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別の小領地では、話はもっと単純だった。
「帳簿を見せる?」
「冗談じゃない」
領主は、即座に切り捨てた。
「今まで、これでやってきた」
「外に口出しされる理由はない」
数日後。
その領地の商人が、支払い遅延を起こした。
理由は、いつもの通りだ。
帳簿は合っている。
だが、金がない。
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噂は、早い。
「……あそこ、遅れているらしい」
「王都の制裁も、効いているとか」
商人たちは、静かに距離を取る。
誰も非難しない。
ただ、選ばない。
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辺境伯領では、特に変わりはなかった。
「参加を見送る、との連絡です」
ユーリが、報告する。
「分かりました」
私は、それ以上聞かなかった。
「……何もしないのですか」
「する必要がありません」
私は、帳簿を閉じる。
「選択は、向こうがした」
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数日後。
一通の噂が届く。
信用圏に入らなかった領地で、
内部不正が発覚したという。
「……偶然でしょうか」
ユーリが、小さく言う。
「いいえ」
私は、首を横に振る。
「必然です」
「なぜ……?」
「見られない場所では、歪みが育つ」
それだけの話だ。
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夜。
執務室で、地図を広げる。
参加した領地に、静かに印をつける。
参加しなかった場所には、何も書かない。
(救わなかったのではない)
選ばなかった。
ただ、それだけだ。
制度は、扉を閉ざさない。
だが――
開ける鍵は、各自が持っている。
私は、地図を畳んだ。
入れなかった者たちは、悪者ではない。
だが、ここには来られない。
その違いは、
これから、はっきりと数字に出る。
そしてその数字は、
誰の感情も考慮しない。




