第28話 信用圏の条件
条件は、思っていたより多くない。
だが――軽くもない。
「……これが、正式な参加条件です」
ユーリが、会議室の中央で文書を読み上げる。
机を囲むのは、商人、使者、領地代表。
誰も声を出さない。
「第一。すべての取引は、書面で残すこと」
「第二。契約違反時は、理由を問わず即時是正」
「第三。信用証書の使用履歴は、監査対象とする」
紙がめくられる音だけが響く。
「第四。帳簿の一部開示」
「第五。第三者監査の受け入れ」
そこで、空気が一段重くなった。
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「……踏み込みすぎでは?」
自治都市の代表が、慎重に口を開く。
「帳簿は、主権の根幹です」
「外部に見せるなど――」
「全部は、見せません」
私は、即座に言った。
「取引と支払いに関わる部分だけです」
「それ以上は、求めません」
「だが……」
「それ以上を隠したいなら、参加しなくていい」
沈黙。
選択肢は、二つしかない。
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小領主の一人が、声を絞り出す。
「王都から命が出た場合は?」
「契約が、優先されます」
私は、迷いなく答えた。
「王都の命令で契約を破る可能性があるなら」
「最初から、入れません」
ざわり、と空気が揺れた。
「それは……反逆では?」
「いいえ」
私は、首を横に振る。
「優先順位の話です」
「命令と約束、どちらを守るか」
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「罰則は?」
別の商人が、低い声で尋ねる。
「除外です」
私は、淡々と告げる。
「罰金も、拘束もありません」
「ただ、信用圏から外れます」
「……それだけ?」
「それだけです」
私は、全員を見渡した。
「信用は、強制できません」
「だから、管理します」
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会議が終わった後。
廊下には、重い沈黙が残った。
「……来ませんね」
ユーリが、小さく言う。
「半分は、来ません」
私は、頷く。
「三割は、迷います」
「残りが、来ます」
「それで、足りますか」
「十分です」
私は、帳簿を閉じた。
「制度は、数で作りません」
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夕方。
フェリクス・ノートンが、苦笑しながら言った。
「商人殺しの条件だ」
「ええ」
私は、否定しない。
「だが、生き残りの条件でもあります」
「……選ばれる側になれるのは、少数だ」
「だから、価値があります」
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夜。
執務室で、私は条件書の最終版に署名した。
「信用圏参加条件――改定なし」
迷いは、なかった。
優しい条件は、人を集める。
厳しい条件は、残す。
私は、後者を選んだ。
窓の外、街は静かだ。
歓声も、反発もない。
だが――
(この一枚で、線は引かれた)
信用圏は、誰にでも開かれてはいない。
だが、守る者には、平等だ。
それが、この制度の形だった。




