第26話 王都、制裁を実行す
制裁は、音もなく始まった。
「……通行税が、倍になっています」
ユーリの報告は短かった。
だが、その一文には重みがある。
「王都を通過する商隊すべてが対象です」
「理由は……安全保障」
私は、書類に目を通す。
(来たか)
「関税も、追加されています」
「実質的には、辺境との取引を鈍らせる措置です」
「想定通りです」
私は、落ち着いて答えた。
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数日後。
王都街道は、目に見えて静かになった。
商隊の数が減っている。
荷の量も少ない。
「……効いているのでは?」
マルセルが、懸念を口にする。
「王都を通る取引には、です」
私は訂正した。
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その頃。
市場の裏で、別の動きが始まっていた。
「次は、北の山道を使う」
「港湾都市経由なら、王都は関係ない」
商人たちは、地図を広げて話している。
王都を避けるルート。
少し遠いが、計算は合う。
「信用証書は?」
「使える」
「向こうも、受け取ると言っている」
王都は、そこにいなかった。
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役所に戻り、ユーリが新しい報告を持ってくる。
「……物流が、分散しています」
「ええ」
私は、頷いた。
「中央集権の弱点です」
「一か所を締めれば、全体が止まる」
「では、こちらは?」
「分散です」
私は、即答する。
「止まらないように作っています」
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夕方。
フェリクス・ノートンが、苦笑しながら言った。
「王都は、まだ分かっていないな」
「何を、ですか」
「“通らなくてもいい”と、気づいていない」
彼は、指で机を叩く。
「王都は、関所で儲ける国だ」
「通られなければ、意味がない」
「その通りです」
私は、淡々と返す。
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一方、王都。
「……取引量が、想定以上に減っています」
官吏の報告に、財務大臣ギルバートは眉をひそめた。
「制裁は、効いているはずだ」
「王都を通らないルートが……」
「なぜ、止めない?」
「国境外です」
沈黙。
「……把握できていないのか」
「はい」
ギルバートは、歯を噛みしめた。
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夜。
執務室で、私は帳簿を確認する。
王都経由の取引は、確かに減っている。
だが――
(全体は、落ちていない)
数字は、横ばい。
むしろ、安定している。
「……王都は、“入口”だと思っていた」
私は、独り言のように呟く。
だが、世界は網だ。
入口など、いくつもある。
王都は力を使った。
だが、その力は――
もう届かない場所に向けられていた。
制裁は、実行された。
だが、効果は限定的だった。
そしてこの事実は、
王都にとって最も残酷な意味を持つ。
――“必要とされていない”。
それに気づくまで、
王都は、まだ時間がかかる。




