第24話 境界の向こう側へ
通達は、簡潔だった。
【王室通達】
【辺境伯領グラウフェルトにおける独自財務運用について】
【今後の取引・流通を精査対象とする】
内容は曖昧。
だが、意図は明確だ。
「……圧を、かけてきましたね」
ユーリが、紙を持つ手に力を込める。
「ええ」
私は、淡々と答えた。
「数字で止められないと分かったので、
“触れるだけで危険”に見せたいのでしょう」
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会議室には、主要な関係者だけが集められた。
エドガー辺境伯。
ユーリ。
フェリクス・ノートン。
そして――イザベル・ノックス。
「王都は、囲い込みを始めます」
イザベルが、静かに言う。
「公式制裁ではない。
だが、取引先は萎縮する」
フェリクスが、肩をすくめる。
「王都は、昔からそうだ」
「不透明さを“危険”に見せる」
「効果は?」
私が尋ねる。
「短期的には、あります」
イザベルは、即答した。
「だが、長期では逆効果です」
「理由は?」
「選別が進むからです」
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議論は、静かだった。
誰も声を荒げない。
感情論も出ない。
「取引量を、あえて落とします」
私は、結論を口にした。
ユーリが、驚いた顔をする。
「……縮小、ですか?」
「制御です」
私は、訂正する。
「流通を絞り、信用証書の発行条件を厳格化します」
「守れる者だけを、通す」
フェリクスが、にやりと笑った。
「……贅沢な市場だ」
「選ばれる市場です」
イザベルが、頷く。
「国家は、量で支配する」
「信用圏は、質でつながる」
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その夜。
王都では、別の会話が交わされていた。
「……辺境は、反発していません」
官吏の報告に、ギルバートは顔を歪める。
「沈黙か?」
「はい。取引量は減っていますが……」
「混乱は、ありません」
「……不気味だな」
沈黙は、抵抗よりも恐ろしい。
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一方、辺境伯領。
帳簿は、予定通りに閉じられた。
数字は、少なくなった。
だが――揺れていない。
「……不思議ですね」
ユーリが、窓の外を見ながら言う。
「王都から圧が来ているのに、
怖くありません」
「境界を、越えたからです」
私は、そう答えた。
「もう、国の中だけで回っていません」
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夜。
一人、執務室で地図を広げる。
そこには、国境線が引かれている。
だが、私は別の線を引いた。
商人。
契約。
信用証書。
点と点を、静かにつなぐ。
(国では、足りない)
この世界を支えるには、枠が小さすぎる。
(必要なのは――圏だ)
国家の外側に広がる、信用の網。
約束を守る者だけが通れる場所。
私は、ペンを置いた。
境界は、もう越えた。
戻る理由は、どこにもない。
こうして、第2章は終わる。
それは、反逆の始まりではない。
革命でもない。
ただ――
**世界の単位が、変わっただけだ。**
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