表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢ですが、帳簿を燃やした王都が先に滅びそうです 〜追放先の辺境で実務改革を始めたら、国家より信用が強くなりました〜  作者: 篠宮しずく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/24

第20話 善意では、救えない

ミスは、善意から生まれた。


「……この支出、承認されています」


ユーリの声は、いつもより低かった。

机の上に置かれた帳簿には、確かに彼の署名がある。


「理由は?」


私は、感情を挟まずに尋ねる。


「倉庫の補修です。

現場の判断で、緊急性が高いと……」


「予算超過は?」


「……一割ほど」


私は、静かに帳簿を閉じた。


(想定内だが――)


問題は金額ではない。

手順だ。


---


現場責任者は、恐縮した様子で頭を下げた。


「申し訳ありません。

崩落の危険があり、急ぎで……」


「判断は、間違っていません」


私は、そう前置きした。


彼の顔が、わずかに緩む。


「ですが」


その空気を、すぐに引き締める。


「制度上は、違反です」


沈黙。


「……罰を?」


ユーリが、恐る恐る聞く。


「罰ではありません」


私は、首を横に振った。


「修正です」


---


結論は、シンプルだった。


- 予算超過分は、次月の別案件から差し引く

- 同様の緊急案件用に、事前枠を設ける

- 判断権限の範囲を、文書で明確化する


「つまり……」


ユーリが、理解し始めた声で言う。


「善意でも、手続きを省いてはいけない」


「はい」


私は、即答した。


「善意は、再現できません」

「制度は、できます」


現場責任者は、深く頭を下げた。


「……勉強になりました」


「二度と、同じ状況にならないようにしてください」


それが、私の答えだった。


---


会議が終わった後。

ユーリが、少しだけ俯いて言う。


「僕が、止めるべきでした」


「止めなくていい」


私は、否定する。


「あなたがやるべきだったのは、

“止める”ことではなく、“持ち帰る”ことです」


ユーリは、顔を上げる。


「……違いは?」


「個人の判断を、制度に変えることです」


彼は、しばらく考え――

やがて、静かに頷いた。


「……分かりました」


その声には、逃げがなかった。


---


夕方。

エドガー辺境伯が、報告を聞いて言った。


「冷たくは、ならなかったな」


「必要な温度です」


私は、そう答えた。


「冷たすぎれば、人が壊れます」

「温かすぎれば、制度が壊れます」


「難しい線だ」


「ええ」


私は、否定しない。


「だから、誰かが引き続ける必要があります」


エドガーは、少しだけ目を細めた。


「……それが、君か」


「今は、私です」


---


夜。

執務室で、一人帳簿を見つめる。


(救えないケースは、出る)


それは、最初から分かっていた。

全てを拾う制度は、存在しない。


(だが、減らすことはできる)


私は、新しい規定案に線を引く。


「……緊急裁量枠」


善意を否定しない。

だが、善意に頼らない。


それが、制度だ。


窓の外、街は静かだった。

今日も、誰かが救われ、誰かが救われなかった。


私は、その両方を受け止める。


善意では、救えない。

だが、制度なら――

救える範囲を、広げられる。


それが、この仕事の現実だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ