第17話 信用という資源
変化は、数字ではなく順番として現れた。
「……支払い、こちらが先ですか?」
役所の窓口で、商人が戸惑った声を出す。
いつもなら、支払いは後回しにされる。理由は簡単だ。遅れても、誰も責任を取らないから。
「はい」
対応したのは、ユーリだった。
迷いのない返答。
「契約通りです。期限前ですが、条件を満たしていますので」
商人は、一瞬言葉を失い――
それから、何度も頷いた。
「……分かりました。では、こちらも予定を前倒しします」
そのやり取りを、私は少し離れた場所から見ていた。
(信用が、循環し始めている)
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数日後。
辺境伯領に出入りする商人の顔ぶれが、変わり始めた。
「王都では、支払いが読めなくてな」
「ここは、遅れないと聞いた」
理由は単純だ。
金が、約束通りに動く。
それだけで、人は集まる。
フェリクス・ノートンが、再び役所を訪れた。
「噂が、広がっています」
「そうでしょうね」
私は、否定もしなかった。
「信用は、伝播します」
フェリクスは、楽しそうに目を細める。
「……王都より、利回りは低い」
「だが、予測可能だ」
「それが、価値です」
彼は、小さく笑った。
「分かっている」
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午後。
簡易な打ち合わせの席。
「新規取引が、増えすぎています」
ユーリが、報告する。
「対応できるでしょうか」
「制限します」
私は、即答した。
「今は、量より質です」
「断るのですか?」
「選びます」
ユーリは、一瞬驚いたが――
すぐに理解したように頷いた。
「……信用は、希少資源ですね」
「ええ」
私は、そう答えた。
「増やしすぎれば、価値が下がります」
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夕方。
エドガー辺境伯との短い会話。
「人が集まるのは、良いことだ」
「制御できるなら、です」
私は、地図を指差す。
「急激な流入は、歪みを生みます」
「今は、安定を優先します」
エドガーは、納得したように頷いた。
「……君は、国より慎重だな」
「国は、壊れても責任を取りません」
私は、淡々と返す。
「制度は、取ります」
その言葉に、彼は何も言わなかった。
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夜。
帳簿を整理しながら、私は新しい項目を書き加える。
「……信用残高」
実体のない数字。
だが、確かに存在する。
(これが、資源になる)
金よりも先に、信用が動く。
それは、国家よりも強い。
窓の外、街の灯りは増えている。
だが、騒がしくはない。
(良い兆候)
信用は、静かな場所で育つ。
そして同じ頃。
王都では、商人たちが口を揃えて言い始めていた。
「……あの辺境、何かおかしい」
気づいた時には、もう遅い。
信用は、奪えない。
それは、与えられ、選ばれ、積み上がるものだからだ。
辺境伯領は今、
貨幣よりも先に――信用を蓄え始めていた。
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