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断罪された悪役令嬢ですが、帳簿を燃やした王都が先に滅びそうです 〜追放先の辺境で実務改革を始めたら、国家より信用が強くなりました〜  作者: 篠宮しずく


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第11話 戻れと言われても

呼び出しは、非公式だった。


「……王都から、使者が来ています」


役人の報告に、私は一瞬だけ手を止めた。

帳簿の数字は、変わらない。予定通りだ。


「通してください」


応接室に現れたのは、見覚えのある男だった。

王室書記官。断罪の場にもいた人物だ。


「久しぶりですね、レティシア様」


「要件を」


私は、挨拶を省いた。


男は一瞬言葉に詰まり、それから慎重に口を開く。


「……殿下より、非公式の打診です」


予想通りだった。


「王都の財務状況が、思わしくありません。

そのため――あなたの知見を、再び必要としている」


私は、何も言わずに続きを促す。


「条件は、王都財務局顧問。

ただし、最終決裁権は王太子にあります」


……なるほど。


「つまり」


私は、淡々と言った。


「責任は負え。

だが、決める権限は持つな、と」


男は、苦笑いを浮かべた。


「政治とは、そういうものです」


その言葉を聞いた瞬間。

胸の奥で、ほんの小さな違和感が揺れた。


(……もし、戻れば)


王都に戻れば、もっと多くの人間を救えるかもしれない。

制度の歪みも、今より早く正せるだろう。


――それは、事実だ。


一瞬だけ。

本当に一瞬だけ、迷いが生まれた。


だが。


「お断りします」


私は、即答した。


男の顔が、わずかに強張る。


「理由を、お聞かせ願えますか」


私は、窓の外に視線を向けた。

辺境の街。まだ完全ではないが、確かに生きている。


「ここでは」


私は、静かに言った。


「帳簿の数字と、現実が一致しています」


男は、意味が分からないという顔をする。


「王都では、それが一致しない。

だから、私がいても――同じことが起きます」


「ですが、あなたなら――」


「だからこそです」


私は、視線を戻した。


「権限のない場所で、結果だけを求められる仕事は、もうしません」


沈黙。

重い、沈黙。


「……殿下は、失望されるでしょう」


「承知しています」


私は、頭を下げなかった。


「これは、感情の問題ではありません。

制度の問題です」


男は、深く息を吐いた。


「……では、正式な命令が下る可能性も」


「それでも、答えは同じです」


男は、それ以上何も言えず、立ち上がった。


---


使者が去った後。

執務室には、静けさが戻った。


「……本当に、良かったのか」


マルセルが、ぽつりと呟く。


「分かりません」


私は、正直に答えた。


それは、本心だった。


(救えたかもしれない人間がいる)


その事実は、消えない。

だが同時に――


(戻れば、ここが壊れる)


私は、帳簿に視線を落とす。


「選ばなかった可能性は、いつも残ります」


「冷たいな」


「現実的です」


マルセルは、何も言い返さなかった。


---


夜。

エドガー辺境伯が、執務室を訪れる。


「……聞いた」


短い言葉。

だが、全て伝わっている。


「後悔は?」


「あります」


私は、はっきりと答えた。


「でも、選択は間違っていません」


エドガーは、少し驚いたように目を瞬かせ――

それから、静かに頷いた。


「それでいい」


彼は、窓の外を見る。


「王都は、もうこちらを放ってはおかないだろう」


「でしょうね」


私は、帳簿を閉じた。


「だから、次に進みます」


「次?」


「契約ではありません」


私は、新しい紙を取り出す。


「制度です」


感情でも、善意でもない。

数字が、人を選ぶ仕組み。


(ここからが、本番)


王都との線は、完全に引かれた。


戻れと言われても――

もう、戻らない。


その選択の重さを抱えたまま、

私は静かに、次の設計に取りかかった。


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