名もなき風が夜を撫でて
掲載日:2025/11/22
夜の底でひとつ、
風が名前を探していた。
味のない空気を泳ぐ雲。
宝石の輝きが眩しいようで、
ゆらりと空を暗くした。
私は夜を嫌っている。
暗闇は私を救ってなどくれやしないから。
夜も私を嫌っているだろう。
私も夜を救ってなどやれないから。
名もなき風が私の名を呼ぶ。
空白の今日を覚えているのは、
きっとこの風くらいだろう。
誰もが忘れる他愛ない一日を、
風は通り過ぎてゆく。
誰の名も知らぬまま。
今日の名も持たぬまま。
明日へと滲む空を、
ふわりとやさしく撫でながら。
街の灯りが眠る。
夜の影は壁に溶け込んで、
風は静かな細道をさまよう。
小さな呼吸に混じるのは、
ほのかに香る夜の花。
宝石の目映い光が、
雲の狭間から覗く。
風は知らぬ顔をした。
私の昨日も、明日も、
今日さえも忘れたように。
浮かんだ空に立ち尽くして、
夜の声に耳を傾ける。
風が運ぶ名を知ることなど、
きっとできないだろう。
それでも今日に名前をつけるなら。
つけられるのなら。
名もなき風が私の名を呼ぶ。
夜の静寂に、
かすかに響いた私の名前を。
ご覧いただき、ありがとうございました。
名もなき風が夜を撫で、私の名を呼んでいる。
誰かに届きますように。




