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作の士



 拙者が仕え奉るお方――我が殿は、名君とも暴君とも申せぬ、灰のごとき政道をなされる御方にござりまする。 されど、ただ一つ、尋常ならざる癖をお持ちにござる。

 と申すは――殿は時折、奇怪なる夢を御覧じ、それを「天の御啓示なり」と信じて疑わず、法や政を御気の向くままに操られるのでござる。

 けふもまた、斯様な騒動が――起こり申した。





 殿の御嫡男が、殿の御前にて将来の野心を述べられた折のことでござる。


「父上、拙者は、物語紡ぎの道――すなわち“作の士”を志したく存じまする」


「ほう。作の士とな?」


「はい。拙者が綴る物語をもって、民の心を癒やし、涙を誘い、生きる力の一助としたく――それこそが、我が志にございます」


「いかなる物語を描く所存か?」


「はっ。幼き童が、はじめて天神の祭にて富籤を引くという話にござりまする」


「ふむ。それなる標題は?」


「標題……にござりますか? 『初天神はつてんじん』などいかがかと……」


「ならぬ。それでは地味すぎる。標題は物語の“顔”ぞ。まずそこで読者を掴まねばなるまい」


「然らば、いかように……?」


「このように致せ!! 『没落せし大名家の姫、輪廻の縁にて転生し、七つの年にて収穫の祭に富籤に初挑みして天下に名を轟かす。……なに? 神器の加護が強すぎる? 持たざる平民は無能なるものか?』

(訳:『没落令嬢に転生して7歳の誕生日に収穫祭で富籤デビューして大バズり。え? チート? 庶民はこんなこともできないのですか?』)」


「な、長うござりまするな!? しかも内容が別物に……!!」


「千年後には、これが物語の常識となっておるのじゃ」


「……しかも、転生とは。極楽往生に繋がる輪廻転生の、仏教の教義に基づくものにござりますか?」


「うむ、そうよ。“生まれ変わり”が大流行の兆しじゃ。信仰よりも娯楽としてな」


「然れど……拙者には、描きたき世界が別にござりまする」


「申してみよ」


「『娯楽諸芸総覧帖』にござります」


「なにっ!! “娯楽諸芸総覧帖(エンタメ総合)”じゃと!? 断じてならぬ!!!!」


「な、なぜにござりまするか……!?」


「書けども書けども人の目に……特に審査員には届かぬ……報われぬからじゃ……っ!! ……もうよい、これ以上申すな!!」


「……父上……話が、見えませぬ……」


「よいから!! わしの申す通りにせい!! 異界よりの転生物か、世にも奇なる恐れ話を書けばよい!!」



 全く、我が殿の先見の明とも言いがたい御乱心ぶりには、毎度ながら呆れ返るばかりにござりまする……。







       未来が見えてしまったお殿様 了






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