年貢
拙者が仕えておるお方――すなわち我が殿は、名君とも暴君ともつかぬ、なんとも灰色の御政道をおこなわれる御方にござりまする。 されど、唯一つ、尋常ならざる癖をお持ちにござりまする。
それと申すは――殿は時折、奇妙奇天烈なる夢を御覧じては、それを天よりの啓示と受け取り、法や政道を好き勝手に変えてしまわれるのでござりまする。
けふも、斯様な騒動が起こり申した――
農民どもが年貢米を納めに、城へと参上した折のことでござる。
殿は、米俵を見るや否や、「ワアッ!」と声を上げて尻餅をつかれ、我らに向かってこう仰せになったのでござる。
「いかん! 米を無償にて受け取ってはならぬ! 米は必ず銭にて買い取れ! 年貢は別の物にしてもらえ!!」
「然れども、殿――兵糧とは軍備の根幹、国の命脈にてござりまする。農民どもに金銭を払うなど……」
「それがいかんのじゃ! 一国の主が、『米は売るほど貰っておるが、買ったことはない』などと申したが最期! ……千年の後に、米騒動が起こるやもしれぬ!!」
「千年の後……とな。殿、何ゆえにそれほど先の世まで御見通しに?」
「とにかく、いかんのじゃ!! それと……我が城の米蔵には、いかほどの蓄えがある……?」
「はっ。潤沢に、ござりまする」
「まずい!! それはまずい!! 『備蓄米』などというものを溜め込んでおっては、禍根を残すぞ!! 千年後に米騒動を招くぞ!! 速やかに民へとばら撒け!!」
「……殿の仰るその『千年後の米騒動』とは、一体いかなる……?」
「起こるのじゃ!! 米騒動が!! 令和の御代に!!」
「れ……令和、と申されまするか……?」
「よいからーーー! 殿の申すことをーー聞かぬかーーー!!」
このような次第で、殿の戯言一つで、法も政も大混乱。 まこと、呆れるばかりにてござりまするなあ……。