#009 土竜と凹凸
外で待つ四人に合流するなり鳥居はすぐに口を開いて言った。
「今回の任務は人目を避けながら、この国に潜伏する中国チームの依代殲滅を遂行することになる。とりあえずこれを身に着けろ」
そう言って差し出した手には半透明のワイヤレスイヤホンのようなものが四つ乗せられていた。
「何だよこれ?」
稲川が怪訝な顔で尋ねると、鳥居は自分の耳を指しながら言った。
「ウェアラブルの通信機だ。スパイ衛星の影響を受けず、傍受も不可能な代物らしい」
「ありえないね。電波を媒介する以上傍受不可能なんてのは不可能だ。そんなだから国はいつまで経ってもアタシらみたいなハッカーの良いカモなんだよ」
「へえ……稲川さんハッカーなのか……」
幸裂が関心したようにつぶやくと、稲川は鋭い目で幸裂を睨みながら舌打ちした。
「そうだよ⁉ 文句あんのか⁉」
「いや。敵なら困るが、味方になると頼もしい」
「はっ……変わり身の早い奴。一番信用ならないタイプだ」
どうやら口が悪いという鳥居の評価は正しいらしいと幸裂は思い、それ以上口を開くのをやめた。
すると静かになるのを待っていたかのように鳥居が再び口を開く。
「もう一度言っておくが傍受の心配はない。この通信機の名称は〝土竜〟土壌の4割を占めるケイ素を媒介して通信するらしい。地下施設での連絡も可能だ。政府が独自に開発した技術ゆえに、まだ表には出ていない」
それを聞いて興味が湧いたのか、稲川は手のひらを返したように鳥居の手から土竜をひったくって、しげしげと眺め始めた。
「変わり身の早いやつ……とは?」と幸裂は首をひねる。
その間に渥美が手を伸ばしたので、幸裂もそれに倣った。七倉が残った最後の一つを申し訳なさそうに受け取ると、鳥居は出口に向かって歩き出す。
「まずは必要な物資を揃えにいく。とくに稲川と幸裂、お前ら二人の装備になるがな」
「へいへい」と悪態を吐く稲川を横目に、幸裂が不思議そうに鳥居に声をかけた。
「鳥居さん、俺の装備ってなんですか? ずっと一人で儀式のために旅をしてたんだ。必要なものはだいたい揃っている」
「阿呆。学生服で敵地うろうろするつもりか? 個人情報が歩いてるようなものだぞ……守りたい人間がいるなら、身近な者を割り出せる情報は一切身につけるな」
その言葉で幸裂は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。しかしそれは、すぐに渥美の大声に掻き消されてしまう。
「ええやんか! ほなわしと一緒に高円寺の古着屋巡りしようや!? 鳥居さんええやろ⁉」
渥美が嬉しそうに組もうとした肩を幸裂はするりと躱して距離を取った。
渥美もそれで気づいたらしく、額を抑えて言う。
「しもた……つい癖で触りにいってまう……ほんまに堪忍してや」
「すみません。皮膚に直接触れなければ大丈夫なんですけど俺も癖で」
「キモ。病気持ちみてえ……」
ぼそりとつぶやく稲川に、渥美は拳骨を落とした。
「何すんだよ⁉ 俳優気取り!」
「純子ちゃんがデリカシー無さ過ぎなんや。これから一緒にやっていく仲間やねんから、距離開くようなことばっか言うたらアカン。鳥居さん、こんな状態やしわしが引率して四人で買い出し行ってくるわ! 鳥居さんはその間に必要な準備しとってくれますか?」
「お前の引率が気がかりだがまあいいだろう。17時に東京駅だ」
「おっしゃ! まずは幸裂はんの服やな」
「嫌だね。アタシは奈々と秋葉行ってくるから」
そう言って七倉の肩をに腕を回す稲川に、少女はおずおずと口を開いて言った。
「わ、わたしは、渥美さんの意見に賛成……です。幸裂くんの呪いは怖いけど……何も知らないままだと、ずっと怖いままだし……イナちゃんも怖がらないで一緒に行こ?」
「はあ⁉ 奈々裏切んのかよ⁉ それにアタシは別にビビッてねえし」
「決まりだ。四人で行動しろ。これは命令だ。土竜の性能を試しておくためにもちょうどいい。時間に遅れるなよ」
鳥居はそう言って一人何処かに立ち去ってしまった。
残された四人はそれぞれに違った表情を浮かべながらも、渥美に先導されてぽつりぽつりと歩き始めるのだった。




