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魔女の隠し子  作者: 新羽
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~魔女の根城~北方戦線③


北の王の城が陥落した。

情報は瞬く間に拡散され、それを落としたセレスの名は大陸全土に広まった。

北にはとんでもない魔法使い――いや、魔女がいる。

元『北の王』の居城は魔女の根城と呼ばれ、セレスは『北の魔女』と恐れられるようになった。エルフ一族はたちまち世界から警戒されるようになり、城の陥落から1年が経つころには、北の魔女殲滅に向けた大規模な作戦が、東南の共同で進められていた。


「北の魔女には、いやエルフという種族には、明確な欠点がある」


最初にそう進言したのは、南の賢者だった。





――世界の大書庫。


それは南の賢者アーレスが生存している五百年ものあいだ、ただ知識のみを追い求めて活動していた彼が、自身の領地に立てた世界最大の図書館の名称である。

地平線の先まで続くとほうもない数の本棚と、そこに詰まった色も厚みも違う幾万の本。

南の賢者は、その内容のすべてを把握していると言われている。


「そんでぇ? なんなんだぁ、その欠点ってのは」


そんな世界最大の図書館の最上階は、世界会議が行われる会場としても利用されている。


大きな長方形の机に足をつき、ガサツな言葉遣いで南の賢者に問いかける男がいた。

彼の血のような赤い髪はオールバックにされていて、背もたれからダラリと下まで伸びている。細身ながらしっかりとした筋肉を感じさせる体つきに、しわのない白いスーツと黒いジャケットを羽織っていた。


そんなピシッとした衣装と、横暴な態度が比例していない男の「ギロッ」とした視線が、南の賢者の言動を言及する。


「単純な欠点だよ、東の鬼人オーガス。彼らエルフは、平均体温が低いんだ」


「体温だあ? んなもん気合で上げられんだろ」


「確かに、きみたち鬼人はそうかもしれないね。体内の血液を自在にあやつり、体温を意のままに制御することが可能だ。しかし、エルフはそういう体の仕組みをしていない。常に魔力という生命エネルギーを消費しながら活動しているせいで、体内の血液循環まで手が回らないんだ」


「んだそりゃあ。ただの雑魚じゃねえか」


「メリットはある。常に魔力を放出しているということは、常に魔法を使う体制が整っているということだ。たとえば急に外敵に襲われた場合、魔力で壁を作って脅威を防ぐこともできる。空を飛んで逃げてもいいね。ようは、魔力という目に見えない力を、彼らは常にまとっているということだ」


「その気になりゃあ、武器(エモノ)なしでいつでも攻撃態勢に入れるってことかよ。けっ、武器の重さを知らねえたあ、贅沢な野郎たちだぜ」


「一応、魔法を使う触媒として杖を使うものたちもいるようだがね。……まあ、その辺の説明は今度でもいいだろう。大切なのは、エルフは常に魔力を放出しているがために体温が低いということ。そして、そんな彼らを支えるキーアイテムがあるということだ」


「キーアイテムぅ?」


「ああ。名を、緩雪結晶(かんせつけっしょう)という」





緩雪結晶。


それは、世界各地でまれに降る『暖かい雪』が溶け、それが洞窟のなかで固まり、結晶となったものの総称である。

それには、魔法を使える者の血液を飛躍的に循環させ、身体的能力を向上させる特殊な力が宿るとされている。

いわば、魔法を扱える種族(エルフ)のみが扱えるキーアイテムだ。

彼らは常にそれを体のどこかに携帯、あるいは吸収して、自身の体温の管理を行っている。緩雪結晶がある限り、際限なく魔法を扱えるエルフはまさに無敵……というわけでもないことを、南の賢者は知っていた。

なぜなら緩雪結晶には、消費期限があるからだ。


南の賢者(アーレス)が、東の鬼人(オーガス)に指示した内容はシンプルだった。

今までに緩雪結晶が発見されている、すべての洞窟の占拠だ。


緩雪結晶が生えている洞窟は、世界各地に複数存在するとされている。しかし、発見されている洞窟はごくわずかだ。アーレスは、自分でも知らない洞窟が点在するのではないかと睨んでいる。

だが、好都合だ。

占拠しなくてはならない場所が少ないということは、それだけ戦力を一か所に固められるということ。

加えてエルフの絶対数は少ない。たとえ作戦が感づかれたとしても、洞窟の防衛に回せる人材などたかが知れている。

――6割でいい。

彼らが利用している洞窟の6割も奪えば、彼らの種族としての身体能力(スペック)生命的強度(フィジカル)は格段に下がる。

北の魔女(セレス)』を攻略するためには、『魔女の根城』を直接叩くのではなく、彼女らの生命線を支える支援物資を絶つのが先決だ――と、アーレスは最後に締めくくった。

そしてオーガス率いる鬼人の軍団は、すぐに既存の洞窟をほとんど占拠した。

アーレスの読み通り、エルフに洞窟を防衛する人的資源はなかった。ほとんどが城の防衛と、北の領地にある洞窟を守るので精一杯。

それも無理のないことだった。

なぜなら緩雪結晶というアイテムの存在自体、それを利用しているエルフ以外、本来知る由もないことだからだ。

補給物資を絶つこの作戦は、南の賢者(アーレス)だからこそできる作戦だった。

しかし、エルフだってただ黙っているわけはない。

『魔女の根城』周辺にたった1つだけ存在する、現存する洞窟のなかで、最も大きな緩雪結晶を有する『ドラゴの大洞窟』。そこはかつてドラゴンが眠っていたとされる場所で、北の王は神聖視してそこに近づくことはなかったという。

セレスはそこに防衛線を敷き、東の鬼人(オーガス)率いる鬼人の軍団と対峙した。


――エルフの歴史を変える出来事が起こったのは、その洞窟での決戦の最中だった。

④に続く

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