ep67 それだけじゃない
夜。
仕事を終えた大成たちは、ダニエルのレストランにいた。
「おつかれー!」
テープルを挟んで大成とナナラのグラスがカチンと乾杯の音を鳴らす。
「陽気な奴らだ」
大成の隣でビーチャムだけはソフトドリンクを口にしていた。
「お待たせしたな」
ドリンクに遅れて料理が運ばれてくる。
店主のダニエル自らが出て来てくれた。
「おじさん、こんばんはっ」
真っ先にナナラが元気よく挨拶する。
「おう、ナナラちゃん」
ダニエルは白い歯を見せてから、大成へ視線を投げた。
「今日は三人で商売してきたのか?」
「三人で新規営業にね」
「で、どんな塩梅だったんだ?」
ダニエルの質問に、大成はグラスをコトッと置き、ニヤリとする。
「イイ感じっす」
「いいねぇ」
「試供品版をすっ飛ばして本製品版も何個か売れたし」
「そいつは中々すげーんじゃねーのか?」
「念のため本製品版も持っていって正解だった」
「やっぱりにーちゃんの営業力は大したもんだな」
「ナナラとビーチャムのふたりが同行してくれたのが大きいよ」
「そりゃー作ってる人間全員の顔を直接見せれば、信用度も上がるだろーな」
「そういうことっす。狙い通り」
大成はナナラとビーチャムを交互に見た。
ナナラはグッと親指を立てて答え、ビーチャムは瞼を下げて微かに微笑した。
実はこのふたり......。
少し前から、衝突することはなくなっていた。
仲良くなったわけでもないが、少なくともビーチャムがナナラへ文句を言うことはめっきり無くなった。
原因は、ナナラの営業にあった。
訪問先でナナラは、決してビーチャムのことを悪く言うことはなかった。むしろ彼は高い志を持った誠実な魔導博士ということをしっかりアピールした。
もちろん、これは仕事上で相手はお客様だからというのはある。
だが、ナナラには無理している感がまったく見受けられなかった。
打算がなく、屈託がないのだ。
きっとビーチャムは、不本意ながらもこう思っただろう。
自分よりもナナラの方が大人ではないか、と。
ビーチャムは気難しく偏屈だが、真面目で公平な精神を備えている。
それは大成がよく理解していた。
「三人で営業に行ったのは大正解だったな」
大成が言うと、ビーチャムが食事の手を動かしながら口をひらいた。
「営業がうまくいったのなら、結果的に正解だったのだろう」
「それだけじゃないけどな」
大成はビーチャムを見て意味ありげに微笑した。
ふんと鼻を鳴らしたビーチャムは、何も言わずにグラスを口に運んだ。
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