ep63 馬が合わない
結局、午前中はゆっくりと過ごした大成は、午後になってようやく準備を始めた。
「そろそろ行くのか」
コーヒーカップを片手にビーチャムが声をかける。
「ナナラが来てからと思ったんだが」
「あの女のことだ。宿に戻ってそのまま寝てしまってるんじゃないか」
ビーチャムは鼻を鳴らす。
そうかな〜と大成が小首を傾げた時だった。
「魔導師ナナラ、推参!」
ばーんと勢いよくドアが開いて荷物を抱えたナナラが飛び込んできた。
「おっ、ナナラ」
「タイセー!今日からわたしもここに住むよ!」
ナナラは親指を立ててウインクした。
一瞬シーンとなる。
だが案の定、ビーチャムが不機嫌極まりなく顔をしかめた。
「ふざけるな。貴様のような奴はダメだ」
「なんで?わたしも仲間じゃん」
ナナラはぶぅーっと口を尖らせるも即座に切り替え、大成へ天真爛漫な眸を向ける。
「いいよね?」
経緯はどうあれ自らも居候の身である大成は、ナナラの子犬のような純真な圧力に、なすすべはなかった。
「まっ、いいんじゃね」
「良いわけないだろう!」
当然ビーチャムは認めないが、ナナラは負けない。
「リーダーのタイセーがオーケーならオーケーじゃん!」
「確かにビジネスのリーダーはタイセーだが、ここの家主は僕だ!」
「それでわたしはどこの部屋で寝ればいいの?」
お構いなしにナナラはずかずかと部屋を進んでいく。
「おいタイセー、あの女を追い出せ!」
「もういいんじゃないか。これからは仲間なんだし」
大成は諦め口調でビーチャムをなだめる。
「あんな女がここにいたら間違いなく研究に支障をきたす!」
「助手が増えたと思えばいいんじゃないか」
「あんなのに助手が務まるか!」
ここまで言われてナナラも反論せずにはいられなかったのだろう。
「ねえ、レオくん。これでもわたし、魔導師だよ」
ナナラがピタッと足を止めた。
「おい女。二度と僕を『レオくん』などと呼ぶな」
ビーチャムの機嫌の悪さがまた一段階上がる。
「じゃあわたしのことも『女』って呼ばないでナナラって呼んで」
ギリギリと睨み合うふたり。
とことん彼らは馬が合わない。
大成はハァーッと嘆息すると、足早にナナラへ歩み寄っていってその腕を掴んだ。
「ナナラ、行くぞ」
「どこに?」
「町外れ近くの川辺だ」
「夕飯の魚を取るの??」
猫目になって唇を舐めるナナラ。
「魔法石の素材になる石を取りに行くんだよ」
冷静に返す大成。
「えっ、楽しそう。いく!」
「ということでビーチャム。夕方には戻ってくる」
そう言って大成はナナラを連れてさっさと研究所から出ていった。
賑やかだった研究室は途端に静かになる。
「まったく迷惑な奴だ」
ビーチャムは大きくため息を響かせた。
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