ep60 夕食会
「ここで研究してるんだねっ!」
ビーチャム研究所へ足を踏み入れるなり、ナナラは興奮の声を上げた。
「いいか。勝手に物に触れたりするな。貴様はとにかく大人しくしていろ」
不機嫌極まりない面持ちでビーチャムは吐き捨てる。
大成は苦笑いを浮かべながら「まあまあ」とビーチャムをなだめた。
「まずは夕食でもしながらざっくばらんに話そう」
魔導師ギルドでの試合を終え、その後のあれやこれやを済ませたナナラをさっそく研究所へ招待した大成。
その趣旨の説明はまだしていなかったものの、ナナラは快く承諾してくれた。
一方、ビーチャムは快く思っていなかったものの、大成の説得により渋々ながら承諾した。
そうして今夜の会合の実現に至ったのだった。
「もうすぐ料理が届くからナナラは座って待っていてくれ」
大成に促され、ナナラは笑顔で頷き、用意されたテーブルに着いた。
しばらくすると研究所へ、料理を入れたボックスを抱えたガタイの良い中年オヤジが訪ねてくる。
「よお。注文通り持ってきたぜ!」
「ダニエルさん、ありがとうございます。今日の今日で無理言ってすいません!」
「なに言ってんだ。店で食うよりずっと高い料金もらったんだ。こっちこそ良い商売になっちまったぜ!」
レストラン店主のダニエルは、快活な笑顔でグッと親指を立てた。
さらにもう一人。
後ろで申し訳なさそうに立っている人間がいる。
マッシュルームヘアーの丸眼鏡の青年魔導師だ。
「良かった。キースくんも来てくれたか」
大成が声をかけると、キースはもじもじとする。
「い、いえ。あの、本当にぼくまでご一緒しちゃっていいんですか?」
「まったく問題ないよ。一緒にご飯食べよう」
「で、でも、タイセーさんたちが用があるのはナナラさんだし......」
「細かいことは気にしなくていい。お互い関係を持っておいて損もないだろ?」
「そーだよ。キースくんも一緒にゴハン食べよー!」
ナナラも元気よく言葉を重ねてくる。
ダニエルは料理を出してテーブルに運びながら白い歯を見せた。
「メシはみんなで食ったほうが美味いからな」
大成とナナラはひたすら歓迎の笑顔をキースに向ける。
やがて迷っていたキースも、はにかみながら嬉しそうに首を振った。
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、始めるかっ」
テーブルに料理が並び、ダニエルが出ていくと、全員がテーブルに着く。
夕食会の開始だ。
「とりあえず、乾杯!」
大成のコールで全員がグラスを口に運ぶと、和やかに食事が始まった。
ひとりむっつりとするビーチャムをよそに、大成とナナラを中心に楽しい雰囲気が食卓を包んだ。
「しかしよく、あのレッドに謝罪させたよな〜」
「タイセーさん。それはナナラさんのおかげです」
「これ、おいしひぃ!」
「でも、結局ナナラはギルドには入れなかったんだよな」
「ぼくからも代表にお願いしたんですけど...」
「これも、おいひぃ!」
「ハモンドソンさんも約束を反故したような形になってしまって申し訳ないとは言っていたけど......要するに、致し方ない経営判断ってことだよな」
「ギルドに所属する魔導師はC級以上であるのが望ましい。これは一般的なガイドラインなんですが、再開したばかりのギルドで例外を作るのは色々と問題があって難しいみたいです。ぼくなんかよりナナラさんのほうがよっぽど相応しいはずなのに......」
「どれも、おいひぃー!」
「あの、ナナラ......」
「ナナラさん......」
「はにゃ?」
ナナラは実にあっけらかんとしていた。
その隣でキースは呆気に取られる。
しかし大成は、正面に座るナナラの、無邪気さの裏にある何かを感じ取っていた。
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