ep58 決断
「D級ってそんなに笑われるようなことなのか?」
この場で唯一その意味の実態をはかりかねていた大成は、素直にビーチャムへ訊ねた。
周りの声に眉をひそめながらビーチャムは答える。
「さっき誰かの声も聞こえてきたが、一般的にD級は見習い魔導師のレベルだ。いわば仮魔導師と言ってもいい」
「なるほど。仮免状態みたいなものか」
「おそらくC級未満の魔導師を受け入れる魔導師ギルドはどこにもないだろうな」
「ということはここも......」
大成は改めてナナラへ視線を戻す。
当人は引きつった笑みを浮かべて所在無さげに立っていた。
そんな時だ。
「炎よ。レッドの名に於いて奴を焼き殺せ!」
突如としてレッドが詠唱と共にナナラに向かって猛牛の如く突進した。
完全にナナラは不意を衝かれる。
「喰らえコラァ!」
振り上げられたレッドの拳は炎を纏っている。
今度の炎魔法は先ほどとは違う。
レッドは炎の拳を相手に直接ブチ込む気だ。
初動の遅れたナナラはかわせない。
「イグニア・パウンド!」
レッドの拳がナナラへ理不尽に激突する。
同時に、ゴォォォォッと業火が噴射する。
無惨にもナナラの全身が炎に包まれる。
そのまま彼女はなすすべもなく後ろ数メートル吹っ飛んで、ずだんと仰向けに倒れた。
「何をしている!」
即座にハモンドソンがレッドを止めに入った。
レッドは濁った眼を返す。
「なにって、試合ですけど」
「やりすぎだ!」
「こういうバカは痛い目見ないとわからないんすよ」
「馬鹿はお前だ。もう試合は終わりだ!」
「オレの勝ちっすよね」
「お前の反則負けだ!」
ハモンドソンは急いでナナラに駆け寄っていく。
「な、ナナラさん!」
思わずキースもナナラへ駆け寄っていく。
大成も自然とそちらへ体が動いていった。
「大丈夫なんですか?」
大成が言うと、ハモンドソンが振り向かずに答える。
「すぐに処置を施さなければ危ないな」
治癒魔法を行うのだろう。
倒れたナナラに向かってハモンドソンが手をかざした。
その矢先。
「今のは効いたぞぉぉぉ!」
いきなり声が上がったと思ったら勢いよくナナラが跳ね起きた。
「だ、大丈夫ですか??」
キースがびっくりして心配そうに訊ねると、ナナラはピースサインを作って見せた。
「だいじょーぶい!」
「は、はあ」
リアクションに困るキースとハモンドソン。
大成もぽかんとする。
そんな空気などお構いなしにナナラは吠えた。
「あいつマジでムカつく!絶対にやっつけてやる!」
確かにナナラは平気そうだった。
あれだけの火炎攻撃に見舞われながら、身体はおろか服も焦げていない。
彼女の魔力体質による効果なのだろうか。
「本当に大丈夫なのかね?」
それでもハモンドソンが状態の確認を求めると、ナナラは力強く頷く。
「つづけますよ!」
「すでにレッドの反則負けで君の勝ちとなったのだが......」
「えっ、だ、ダメですよそれは!」
ハモンドソンにナナラが必死に迫る。
「これで終わっちゃったらあいつ、絶対にキースくんに謝らないもん!」
「ぼ、ぼくのことはもういいですよ。ナナラさんがそこまでしてくれなくても......」
申し訳なさそうに口を挟んだキースに、ナナラはキッと真剣な眼差しを向ける。
「キースくんには好きなものがあって、そのために頑張って魔導師になった。それはすごいことだよ!」
「す、すごくなんかないです。たいした才能なんてないし。C級魔導師だし......」
卑屈にはにかむキース。
そんな彼の両肩へナナラが手を伸ばし、ぐっと掴んだ。
「わたしはD級だよ。でもわたしは自分のやりたいことを、自分のなりたいモノを諦めない。わたしは魔法でたくさんの人を笑顔にしたいんだ。そんな魔導師になりたいんだ。これはわたしの夢だよ。だから恥ずかしくても、人からバカにされようとも、関係ないんだ。それにね?」
ナナラは白い歯をニッと見せる。
「キースくんはわたしよりも上のC級なんだよ?わたしからしたらキースくんも充分スゴイよ!」
まさかそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。
一瞬キースは驚いてから、次第に目を潤ませた。
間近でその光景を眺めていた大成は、ある思いが胸に渦巻く。
それから僅かに葛藤したが、すぐに決断した。
「あの、ハモンドソンさん」
「ん、タイセーくん?」
「レッドとナナラの試合、続けさせてもらえませんか?」
なんでお前が?という顔でハモンドソンとキースが大成を見つめる。
一方でナナラは顔を明るくした。
「わかってるじゃん!」
「いや、ちょっと待ちたまえ。今回の件に、君は関係ないだろう?」
ハモンドソンがすかさず言う。
当然の指摘だ。
いったい大成はどう反論するのだろうか。
「関係あります。ナナラはこれから俺たちのビジネスパートナーになる魔導師ですから」
その場の誰もが「は?」となる。
とりわけナナラ本人は目を点にして「へ?」となっていた。
「お、おい、何を勝手に決めているんだ!」
後ろからビーチャムが大成の肩をぐいっと引いた。
「なんだよ、ダメか?」
大成はしれっとした顔をしている。
「ダメに決まっているだろ。なぜよりにもよってこの女なんだ」
「そうかな。ビーチャムとも似た者同士に思えるが」
「はあ?」
「ということなんでハモンドソンさん。彼女のビジネスパートナーとして、試合続行をお願いします!」
納得できないビーチャムを尻目に大成は懇願する。
何だかよくわかっていないナナラも、とりあえずここぞとばかりに流れに乗った。
「そ、そういうことなんです!お願いします!」
「本人も言ってんだ。いいじゃないっすか」
まったく悪びれないレッドも太々しい態度で言ってきた。
ハモンドソンは眉根を寄せてから、はぁーっと大きく息を吐く。
「わかった。試合を再開する。ただし、次また中断せざるをえない事態が起きたらもう再開はない。いいな?」
鋭い視線が睨みつける。
いいっすよ、とレッドは頷いた。
ナナラは拳同士を突き合わせて気合いを入れ始める。
「只今から試合を再開する」
ハモンドソンがギャラリーに向かって宣言すると、訓練場内がわっと沸いた。
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