ep21 ビーチャムの想い
「......」
ビーチャムは言い返してこない。
ただ押し黙っている。
何を考えているのか、表情からは読み取れなかった。
それでも大成は言葉を続ける。
どうしても言っておきたいことがあったから。
「ビーチャム。お前は誇りと信念を持って自分の研究を行っているよな。だからこそ譲れないことだってあるだろう。それは理解できるし否定もしないし尊重したい。
ただこれだけは言わせてくれ。
俺も商売というものに誇りと信念を持って臨んでいるんだ。遊びじゃないんだ。真剣なんだ。だから「金儲け」なんて言葉で簡単に切り捨てないでくれ。それこそ仕事を一緒に頑張ってきた仲間や俺を育ててくれた先輩たちのことまで馬鹿にされた気分になってしまう」
そして大成はこう言い添えた。
「だから俺は、ビーチャムの研究を馬鹿にしたりすることも絶対にしない」
大成の目は、しかとビーチャムの目を見据えていた。
不意に視線を外したビーチャムは、新型魔導装置を手にとる。
「僕は......」
囁くような声だったので、大成にはしっかりと聞こえなかった。
「今、なんて...」
「僕は、以前は王都にいた」
「ああ。それは知ってる」
「国からの厚い補助も受け、資金も潤沢にあった。おかげで心置きなく研究を行うことができた」
「有名な若き天才魔導博士だったと聞いている」
「だった、か。確かにそうだな」
「いや、そういう意味で言ったんじゃ...」
「構わん。実際その通りだ。今ではその頃の見る影もなくなってしまったがな」
大成は意外に思った。
ビーチャムが自虐的になるなんて。
気難しい偏屈な魔導博士のそういう姿は予想していなかった。
でも、今の台詞だけでわかった。
ビーチャムは、自らの現状をよく理解しているんだ。
そしておそらく、何とかしなければいけないとも思っている。
「ビーチャム。あんたは......」
「僕は許せなかった」
「?」
「僕の研究が戦争に利用されることを。僕の研究によって生み出された魔導兵器が、軍需産業という名の商売で利益を上げるために利用されることを」
おもむろに立ち上がったビーチャムは、キッチンから何かを持ってきた。
「それは、火の魔法の石?」
「僕が利便性を高めるために独自の改良を施した、というのはすでに話したな」
「ああ。覚えてるよ」
「その研究により、火の魔導具の発展が大いに進んだ。僕が若き天才魔導博士として名を馳せるきっかけにもなったほどだ」
「すごいな」
「しかし、これが思わぬ副産物を生んだ」
「副産物?」
「炎の剣などの従来の武器の延長程度ならば僕も許容した。人を傷つける物ではあるが、それは武器というものが持つ性質なのだから仕方がない。それに、弱き者が魔物から自分や仲間や家族を守るための防衛手段にもなる」
「じゃあ一体何が...」
「魔導式火炎放射兵器だ」
「魔導式...火炎放射兵器!?」
思わず大成は鸚鵡返ししてしまう。
「それは実際に戦争で利用され、多くの者が焼き殺された。何せ魔法よりも手軽で使いやすかったからな。魔導師である必要もない。軍には随分と重宝されることになったよ。
つまり僕の研究によって、もはや兵器としか呼べないような代物が生み出されてしまったんだ。気がついた時には同盟国などへ売買もされ、莫大な利益も生んでいた」
忸怩たる思いがあるのだろう。
ビーチャムは悔しそうに唇を噛んでいた。
大成がしばらく何も言えないでいると、不意にビーチャムの表情が変わる。
「タイセー」
「?」
「僕は許せなかったんだ」
「うん」
「奴等のことも。僕自身のことも」
「え?」
「さっきは悪かった」
「!」
「貴様の言葉でわかった。僕が王都で出会った奴等と貴様は違う。貴様はそういう人間ではない」
「そ、そうか。わかってくれればいいんだ」
「ひとつ教えてくれ」
ビーチャムは澄んだ眼差しを大成に向けた。
それまでの気難しい彼の目ではない。
「貴様が言う商売とやらの、最終的な目的は何だ?」
その時、大成は感じ取った。
おそらく自分の想いは通じた。
ビジネスへの、熱い想いが。
だから自然と頬が緩み、自然と穏やかな口調で答えた。
「多くの人々を豊かにすることだ。これは転生女神テレサから与えられた使命でもある。これを成し遂げれば、俺は元の世界にも帰れるしな」
「他人を不幸にし僕たちだけが儲けて得をするわけではないということだな」
「もちろんだ。むしろ成功すれば新たな雇用も生まれるだろうし、ますます経済活動は活発になる。経済活動が活発になれば、その利益はより多くの人々に広がっていくことになる。綺麗事ばかりを言うつもりはないけど、少なくとも俺はそういう商売がやりたい。その上で堂々と女神に言ってやるんだ。これで文句あるかって」
「そうか」
「そして、ビーチャムの研究にはそれを実現するだけの大いなる可能性がある。だから是非、ビーチャムに協力して欲しい」
大成は立ち上がり、手を差し出した。
ビーチャムは大成を見つめながら思う。
不思議な男だな、と。
異世界人だからなのか。
いや、そうじゃないだろう。
これは徳富大成という人間そのものから来るモノだ。
「僕が協力するからには、中途半端は許さないぞ」
二人は握手を交わした。
窓からは暖かい午後の陽が射していた。
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