表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死鳥の少女カミリア(旧・不死鳥少女建国紀)  作者: かんざし
第二章 新たな統治者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/100

第四六話 男爵の苦悩と辺境伯令

「何故だ!!」


 ヒューエンドルフ城内の例の煌びやかな一室にて、辺境伯マインラート・フラム・ローデンヴァルトが怒鳴る。


 その理由は当然、彼の息子ホルストの死にあった。


 報告を受けるや否や未だ疲れの癒えない騎士たち含む全員を呼び出し、会議という名の説教が始められたのだ。


「もっ、申し訳……」


「黙れ! 前回のオークの前で見せた失態にあれだけ寛大な処置を下したというのに、またしても繰り返すのか!」


 辺境伯の拳は自身の座る椅子を震わせた。


 今までに見せたことのないほどの剣幕で騎士隊長を睨みつける。


(まずい……)


 両者の間で行われている一方的な会話を隣で聞くのは、フーベルト・フラム・レオポルト男爵だ。


 彼の用意した計画が全て水の泡となるような気がして、焦りに気が動転している。


(冒険者らしき人間が殺したと言っていたな。組合長は何をしていたのだ! あれほど警告したというのに……。だが無論、冤罪と考えることもできる)


「男爵」


 フーベルトはマインラートに声をかけられるも、聞こえていない。


(私の計画に気付いたものが邪魔を? いや、だとしてもどうしてホルスト様を殺す必要があるのだ? まさか次期辺境伯を狙っているのか?)


 結論は出ない。何もわからない。


 兎に角冒険者たちと話し合いがしたいと思う彼であるが、現状この場を離れることは出来なかった。


「男爵! 聞いているのか!」


「はっ! 申し訳ございません」


 彼はようやく気がついた。


「我が領地にいる冒険者を、今すぐ皆殺しにしろ」


 マインラートの声は冷徹なものだった。


 フーベルトの額に汗が流れる。


「返事はどうした! 聞いているのか!」


「閣下、それは出来ません。ホルスト様を殺めた人物が冒険者であるとは限らず、その上連帯責任で処刑というのは……」


「これは辺境伯命令だ。冒険者を抹殺しろ。準備を急げ!」


 彼はテーブルに置かれたコップを思い切り払った。


 フーベルトは何か打開策がないかと考える。本当に今までの準備全てが無に()してしまいかねないのだ。


「現在騎士は疲弊しており、その上市民は冒険者を支持しているそうです。冒険者の抹殺は不可能でしょう。せめて日を改めるべきです」


 辺境伯は苦悶の表情を浮かべる。


 今にでも復讐したいと考えるが、フーベルトの意見は最もだ。


「……傭兵を雇う」


 辺境伯は小さく言った。


「男爵、傭兵を雇え! 騎士が使えないなら金で集める!」


 彼の復讐心は(とど)まるところを知らない。何としてでも冒険者を殺してしまいたいようだ。


「了解しました。王国各地、或いは他国からも動員して参ります」


「早急にだ! 今すぐ始めろ!」


「承知いたしました……」


 彼はここを抜け出す丁度良い口実が出来たと考えた。


 辺境伯に一礼して背を向けると、この部屋を離れるため扉に向かう。


(先に書類だけ纏めよう。それから冒険者に合わなくては。一体誰がどうして……)


 扉まであと少しというところであった。


 それは突然向こう側から開けられる。


「何事だ!」


 扉を叩くことなくいきなり開けた無礼者に対してフーベルトは咄嗟に言った。


「はっ。緊急事態であります! 市民が武装し、決起しました!!」


 一人の衛兵の声が部屋にいた全員を驚かせる。


「何だと!?」


 フーベルトは度重なる問題に、どうにかなってしまいそうだった。


 また、辺境伯は先ほどまでの怒りの表情を一変させ、ただ唖然としている。


 ここまでの事態になるとは全く持って予想外だったのだ。


 市民に楯突かれるなど考えたこともなかった。


「閣下、ひとまず私は状況確認へ行ってまいります!」


 そう言って彼はその場を駆け足で離れる。


「騎士隊長、騎士を今すぐ出撃させろ! 反乱する市民を殺せ!!」


「はっ!」


 辺境伯は怒鳴りつけ、騎士隊長は命令を遂行すべく部屋を出ていった。


(市民が決起したというのであれば、最早この計画はこれまでだ。信じたくはないがきっと事実だろう。どうすれば…………)


 城内を走るフーベルトは頭を抱える。


(まずは冒険者に接触するべきだ。事の真意を確かめなければなるまい。もし冒険者が関わっていないのなら、ここで市民を抑えつけさせれば彼らは辺境伯の味方を装うことが出来るか。いや……焦りすぎだ。しかしこの状況で会えるのだろうか……)


 少しして城の外に出ると、内門に囲まれた庭が広がる。


 そして、彼は聞きたくなかった音を耳にした。


 門の向こうからは大きな声が聞こえる。それは辺境伯に対する怒りの言葉であった。また、衛兵や騎士の一部と冒険者たちが戦っているかのような音も含まれている。


 どうやら内門を丸々囲んでいるようで、数は相当なものである。


「まさか……冒険者も戦っているのか!?」


 フーベルトは最後の希望を失った気がした。そして、裏切られた気分であった。


 そんな時、ふと壁の向こうから市民の声が聞こえて来る。


 〝白黒英雄に続け〟


「まさか……まさかあの女、あの女が邪魔をしたのか!!」


 彼の中で合点が行った。


(確か別の国から来たと言っていたな……。元々この都市に愛着などあるはずがなかったのだ!)


 彼は(はらわた)が煮え繰り返る。


(奴の実力は相当と聞く。仲間のクラーラとならば、協会長と組合長の両方を拘束できるかもしれない。いや、奴はかなりの知識も持っていた。であれば言葉で(たぶら)かしたのか?)


 フーベルトは首を振った。


 起死回生の一手はまだ早いと考え、彼はひとまず都市からの脱出を優先する。


 急ぎ城へ戻って自室に呼び出したのは部下の一人だ。


「エックハルト、この際計画が全て崩壊したのは誰の目にも明らかだ」


 エックハルト・フラム・ヴュストはフーベルトの忠臣である。金髪緑眼で顔は整い、年齢はフーベルトより一〇も上だが、老いた雰囲気を一切見せない。


「ええ。殺される前に脱出を図りましょう」


「そうだな。だが、お前に命令する。この地に残って情報を収集し続けろ。必要な経費は渡しておく」


「都市全体の監視のみでよろしいですね?」


「ああ。お前のことは冒険者にも話していない。私の部下だと気付かれることはないだろう」


「ご命令承りました」


 フーベルトはエックハルトに指示を出すと、残された騎士だけでどのように冒険者の包囲網を(くぐ)り抜けるかという計画を立て始めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ