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不死鳥の少女カミリア(旧・不死鳥少女建国紀)  作者: かんざし
第二章 新たな統治者たち

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第三〇話 クラーラ?

 ベルント・シュテルンの娘であるリカルダに案内された少女とクラーラは、都市ヒューエンドルフ西部の人気(ひとけ)の少ない建物の一室にてベルントと例の貴族を待っていた。


「ベルントさんが来るまででいいから、ちょっといいか? シュヴァルテンベルクで伯爵が殺されて、エルナ様の悲しむ様子を見て、クラーラには聞いておきたいなって思ったことがあるんだ」


「何ですか?」


 少女は神妙な表情へと変わった。それは少し寂しさのような、悲しさのようなものを含んでいる。


「未来のことだよ」


 一呼吸置く。


「わたしは…………この力をどこかで誰かに継いでもらおうと思う。思ってたんだけど……」


 クラーラは黙って聞いている。


「クラーラの命は永遠なんだろ? 置いて死んでいくのは申し訳ない気がするんだ。人間には尸族が敵だっていう先入観があるし、それはずっと残り続けると思う。だからさ、もしクラーラが次の不死鳥継承者に従うって言ったとしても、きっと他の人間には素性を隠し続けることになる。それから、気づかれないようにずっと別の国へ移動し続けなきゃいけないだろ? それでいいのかなって思って……」


 クラーラは少し俯き、また少女の瞳を見た。考える時間であったのか、それともただふりをしただけなのか、誰にもわからない。


「カミリア様は、死ぬのが怖くないのですか?」


「……」


 まさかクラーラからそのような質問をされるとは思わず身構えていなかった少女は、すぐには何とも言えなかった。


 しかし折角クラーラから質問されたため、少女は彼女の言葉を自分自身に繰り返してみる。


(不死鳥の魂……のせいなのかな。死ぬっていう感覚が全然想像できない…………)


「多分怖いはず。そうだ、怖いよ。思い出した。でももうわからなくなったんだ。不死鳥を宿してることに慣れたのかもしれないな」


 かつて自立兵器に脳天を撃ち抜かれた光景を思い出す。この世界に来て初めに見た夢の時とは違って、今は恐ろしさを感じなかった。少女は不死鳥の魂に対する慣れだと解釈する。


「私はたぶん、心がないです。カミリア様の前代の方が与えて下さった考え方を元にして話しますけど、それが自分の意思なのかはわかりません」


「リッチとか、一部の尸族は心と呼べるものがあるって日記に遺してあったよ。……そう思う理由とかあるの?」


「本当に考えたいことと違うことを言っている気がします。私は……こんな体でしたっけ? こんな喋り方でしたっけ? こんな、こんな……」


 クラーラの様子がおかしいと感じた少女は、その瞬間には立ち上がって、クラーラの背中を撫でていた。


「落ち着いて」


 少女が精神的に辛くなった時、よく父にしてもらっていたことを真似た。


(珍しく感情的だな……)


「落ち着いて」


(クラーラは創られてまだ日が浅いはずだけど、何かあったのか? そういえば尸族は元々死体から創られるはずだから、それに関係でもあるのか? だけど、死体に考え方なんて残るのか?)


 少女は思慮を巡らすものの、疑問が増えて行くばかりで何の解決にもならない。そしていつかその原因を見つけ出そうと心に決めた。


「小さなものでも長く結びつけば、それが本来となる。事実となる。皆がそう思えばそうなのだ。だからこそ、私が私でいられる」


 クラーラがそう言った瞬間、座ったまま正面に倒れて顔を机にぶつけた。


「クラーラ! 大丈夫か!?」


 少女は心配してクラーラの体を起こす。


 彼女の(まぶた)は閉じられていた。


 少女はクラーラの体を揺する。気絶しているようだ。


 しかし、すぐにクラーラは意識を取り戻した。


「……クラーラ?」


 少女は彼女の雰囲気が違うように感じて、一歩下がる。


「きっと、抜けきれなかったんだな。遅かった。長過ぎた。不死鳥が悪かったのか?」


 普段のクラーラとは全く違う口調でそう言った。少し荒っぽいようなものだった。


「クラーラ……大丈夫か?」


 クラーラはいつもと違う目つきで少女を見る。


「……ああ、思い出したよ、全部。お前が今の不死鳥だな?」


 少女は動揺して上手く言葉が出ない。いや、何を言えばいいかわからなかった。


「そうか。俺は少し休んで来る。隣の部屋にいるから、終わったらまた呼んでくれ」


 すると、クラーラは椅子から立ち上がる。


「長いのは邪魔だな。どうしてこんな体に……」


 愚痴を言って、普段は垂らしてあるとても長い髪をポニーテールにした。


 そのまま彼女は歩いてこの部屋を後にしようとする。


「クラーラ……」


「違う。俺は……いや、忘れてくれ。寝ておくよ。多分少し休めば治るから、困らないだろう?」


 ばたりと部屋の扉が閉じられた。


 少女は何もできずに立ち尽くす。こういう時にはよく話したほうがいいのか、そっとしておいたほうがいいのか、少女にはわからなかった。


 ほんの僅かに部屋の外で声が聞こえたと思うと、少しして扉が軽く叩かれた。

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