表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死鳥の少女カミリア(旧・不死鳥少女建国紀)  作者: かんざし
第二章 新たな統治者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/100

第二二話 ここへ来た理由 その二

「カミリア殿は今やこの都市で英雄とも言える存在になりました。あなたがいれば、冒険者だけでなく民衆の支持を仰ぐこともできるでしょう」


 ハルトヴィンはベルントの言葉を後押しする。


「答えを聞かせて欲しい。今すぐとは言わないが……日が暮れるまでに頼む」


 少女は俯き、思考を巡らす。


「仮に革命を起こしたとして、誰がここを管理するのです?」


 しばらくして、少女は口を開いた。


「この計画自体、発案したのはとある貴族の方なんだ。計画が終わった後は、彼が統治する予定だ。冒険者はその手伝いをすることになっている」


「その方は信用出来るのですか?」


 少女はその貴族という存在が疑わしく思えた。冒険者を利用して権力を得ようとしているのではないかと考えたのだ。


「あの方はかなり独特な考えをお持ちです。国民が選んだ者たちによる議会を作り、君主が行う統治の支えを作ろうと考えられています」


「その貴族の方が仰っていたことを聞かせて下さい」


「わかりました。曰く、『ヴラヒアから独立して四〇〇年、未熟な我々は国家の統治の仕方を知らず、武力を持ち合わせていた者が王となった。知識や技術は残されず、数百年分ほど消え去った。であれば我々が自らそれを再現し、かつてのヴラヒアを超える知的先進国へと成り上がって見せよう』とのことです」


 少女は驚いた顔をした。


 かつていた世界に比べて全く価値観の違うここにおいて、そのような考えの持ち主がいるとは思ってもみなかったためだ。


「先に訊いておきたいのですが、ヴラヒアはどれほどの技術を持っていたのですか?」


「今のこの辺りとは比べられないほどだったそうだ。それに、ヴラヒア国民全員がある程度の教育を受けていたとも言われている。勿論植民地だったこの辺りの人間は受けさせてもらえなかったが」


「統治の障害になるからですね」


「そうだろうな。支配地域は全てヴラヒア人が総督を務めていたらしい」


(文化と宗教を強要したって話も聞くし、帝国というよりは帝国主義国か。わたしのいた国と似ているな……)


 ともかく、少女は貴族の意見に深く感心した。


「その計画が成功すれば、かつてのヴラヒア国民のように、全市民が教育を受ける権利を得るということですね?」


 最も大切だと考えた部分を改めて尋ねた。


「あの方はそれを強調していたな。俺は全員に施す必要があると思わないが」


 ベルントはその貴族の真意を全て理解しているようではなさそうだ。


「もう少し計画を具体的に聞かせてください」


「わかりました。案の一つですが、現在の辺境伯を幽閉し、息子のホルスト様に爵位を継承して頂いた上で例の貴族の方が摂政となって統治を一時的に代行されます。その間に法律と議会を再編し、十分機能するようになった時にはホルスト様に爵位を返上していただき、摂政であった彼が新たな統治者となります。そして最終的には統治権否認令を王国に送り付け、その方を君主とした新国家を築きます」


 少女は驚き、同時に感動した。しかし計画のそこはかとない厳しさをも理解した。


(立憲君主制の国を新しくつくるってことか……)


 少女は、何となく流されてしまったような雰囲気を二人から感じ取った。


(理想はいいけどこのままじゃ市民を余計に苦しめるだけだし、何もしないほうがいいんじゃないか? それに、本当にその貴族を信用してもいいのか? 一度会ったほうがいいような気がするけど、今日中に決めろって言われたしな……)


 少女は(あご)に手を当てて熟考する。


「統治権否認令のことですけど、もしご存じでしたら内容を聞いてもいいですか?」


「ええ。というより、その貴族の方から預かっている修正前の文章がありますので、掻い摘んで読みます。『統治者の命令に従うのは市民の義務だが、民を抑圧して隷属を求めるようならそれは君主でなく暴君で、それに反対できない市民には新たな統治者を選ぶことが合法的にできる。それは自然の法が命じるもので、唯一の方法である。辺境伯が民の意見を聞かないので、国王に対して何度か手紙を送ったことがあるが、一度として受け入れられたことがない。八分の一税は魔族の法だ。それを見過ごすあなたをもはや主権者と呼ぶことはできない』というものです。もちろんこれだけではありませんけど、ここが一番重要な部分でしょう」


 少女は聞き終えて、少しニヤリと笑った。


(同意したくなかったけど、確かに言う通りだな)


「ありがとうございます。十分伝わりました。それよりも、計画の最後の段階では王国から独立するということになるのでしょうけど、必ず戦争になります。新興の小国が勝てるとは思えません」


「そのために君を呼んだのだ。先に聞いておこう、計画に参加する気はあるか?」


 少女の考えは既に定まっている。


「はい。その方の意見に感銘を受けました。ですけど、一度直接会う機会をいただきたいです」


 どうしても直接会って話を聞きたいという思いだ。ベルントやハルトヴィンが完全にその貴族の話を理解できていなさそうなところが、やはり懸念点であった。


 騙されていたとなれば地獄が訪れるだろう。それは何としてでも回避したい。


「わかった。それはお伝えしておく。初めに、君にはその戦争の指揮を執ることになる人物を招いて欲しいわけだ」


「わたしには大した人脈がありません。戦争を指揮するなんて、貴族ぐらいにしか出来ないのではありませんか?」


 ベルントは簡単に言ったが、軍を指揮できる知り合いなどいない。正確に言うと、この世界に来る前はいたのだが。


「そうだ。君の知っている貴族、正しくは元貴族のヴェルナー・フラム・ヴァイテンヘルムがこの計画に参加するよう説得して欲しい。かつて王国で戦の鬼才と呼ばれた存在だ」


「戦の鬼才ですか。確かにあの方は元侯爵と聞きました。ですけど、だからこそ、王国へ反逆するようなことに賛成してくれるのでしょうか?」


「彼は王国に対して思い入れなんてないだろう。昔よくみていたからわかる」


 ベルントの表情からはかなりの自信が窺えた。


「わかりました。シュヴァルテンベルクに行けばいいのですね?」


「そうだ。首都に行って直接会って欲しい。この話は彼にしたことがあるから、詳しく話さなくても何の事かはすぐに理解してくれると思う。だが……もしかすると断られるかもしれない。押してみて、だめなら諦めてくれ。他を頼る」


「わかりました。十分な兵力を用意出来る見積もりはあるのですか?」


「軍は冒険者が主体となる。どうせ落ち目だった俺たちだ。何年続けられるかわからないと思っていたところに、雇われないかと相談を受けたわけだ。話を聞いているうちに計画を少しずつ話してくれた。だが安心して欲しい、全員に長期契約を約束してくれるそうだ」


「なるほど。そういうことだったのですね」


(最近全然仕事がなかったからな…………)


 少女はどうして彼らが計画に積極的であるのか理解した。


 二級冒険者たる少女でもオークの一件以来仕事が殆どなく、話によると年々減少しているとのことから、いつまで続けられるかと心配に思っていた。


 それは協会長、組合長も同様であり、上に立つ者として冒険者たちに安定した仕事を得る機会を与えたかったのだろうと、少女は推測した。


 この後少し話が続き、しばらくして解散となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ