第二〇話 叙勲式
戦いが終わり、数日が過ぎ、街も少しずつ落ち着きを取り戻してきたある日の昼頃、市民はいつも通り復興作業を行っていた。
とは言え街全体で見ればほとんど損壊はなく、宮殿内部がかなり荒れていたくらいだった。
その為現在も宮殿内の修復工事が行われている最中なのだが、ある一室に多くの人々が集まっている。
そこは他の部屋に比べて装飾が一段と豪華であり、しかしながら机や椅子などは置かれていなかった。
この場には冒険者と騎馬隊、衛兵がいる。それぞれの先頭には少女、ブルーノ、シュテファンが立っていた。
また、部屋の側面にはヴェルナーやシュヴァルテンベルクの貴族たちの姿がある。
彼ら彼女らは一言も発さず、正面にいるとある人物を見ている。
少し先には赤い絨毯の敷かれた僅かに高い壇があり、その上にドレスを着た女がいた。
「私はエルナ・フラム・ハーゼンバイン。新たなシュヴァルテンベルク女伯に叙爵した」
彼女のドレスは今までと違いとても煌びやかで、腹の左あたりにハーゼンバイン家の胸飾りが付けられていた。化粧は普段より凝らされており、行われる式が大変重要なものであることを物語っている。
彼女にその場の全員から大きな拍手が送られた。
「私はこれからシュヴァルテンベルクの長として、前代の伯爵の意志を継ぎ、この国にさらなる繁栄をもたらせるよう全身全霊努力し、この身が滅びる最期の日まで職務を全うすることを、ここに誓う!」
すると、先ほどよりも大きく長い拍手喝采が広い部屋に響き渡る。
「ありがとう。次に移るわ」
彼女はこの式に長い時間をかけるつもりはない。復興事業を優先したいと言う意図があったのだ。それに、盗賊の生き残りがまだ潜伏しているかもしれない。
「今回の一連の騒動を起こしたギルベルタ盗賊団は、団長のギルベルタ・ミースの死と殆どの団員の死によって崩壊したと考えている。それはここにいる皆の協力のおかげです。本当に心から感謝している。しかし盗賊団自体、結成以来謎が多く、構成員の具体的な人数は未だにわかっていない状況だ。だから衛兵諸君、この伯国を護る者として、今後一年間の徹底的な捜索を行いなさい」
「ご命令、承りました」
衛兵隊長のシュテファンは胸に手を当ててそう言った。
「よろしい。では次に、事件解決に最も貢献した一級冒険者のカミリアとクラーラへ、私から贈り物がある。こちらへ来なさい」
突然名前を呼ばれた少女は、演説の時のようにまたしても少しポカンとしてしまった。クラーラは相変わらずの仏頂面だ。
「壇上へ」
「はっ、はい」
隣にいたブルーノが小声で言い、少女は我に帰る。そしてクラーラを連れてエルナの正面に来ると、跪いた。
「立ちなさい」
二人は言われた通りにする。
しばらくして、三人の元へ何かをのせたお盆のようなものを執事の男が運んで来た。
エルナはそこにあるものを真っ白な手袋に包まれた手で持ち上げる。すると、それを視認した数名の貴族が僅かに感嘆の声を出した。
「冒険者カミリア、クラーラ。貴女ら二人は今回の事件解決に最も貢献をした。私の父ヴェルナー、そして私自身を絶体絶命の状況から救出し、主犯のギルベルタを討ち取った功績は計り知れない。私はこれに見合う褒美として、新しく制定した白黒薔薇勲章を授与する」
エルナはそれを高く持ち上げてこの場の全員に見せた後、少女の真っ白な外套に付け、続いてクラーラの黒っぽい外套に付けた。
その勲章は白と黒の二色の花弁を交互に持つ実際には存在しない薔薇の姿をしており、種々の貴金属が用いられている。言うまでもなく少女とクラーラの二人を表しているものだ。
重厚感があり、光沢を持つそれはなんと言っても美しい。十分な気品を備え、二人の服装のどちらにもよく合っていた。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
少女は一礼すると、振り返る。二人に拍手が送られた。
その後も式はしばらく続くが、一時間も経たずに終わるのだった。




