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不死鳥の少女カミリア(旧・不死鳥少女建国紀)  作者: かんざし
第二章 新たな統治者たち

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第一八話 ギルベルタ・ミース その二

 ギルベルタの拳を受けた少女は、吹き飛ばされて宮殿の最上階たる四階の床に寝そべっている。


 近くには初めに空けられた穴と今空けられたがあり、天井には二つの穴が、少し離れたところの床の穴からは一階が見下ろせる。


 少しして少女の元へ足音が迫る。それは三人ほどであり、近くの階段を上がって来ているようだ。


「無事か!?」


 騎馬隊員たちであった。下の階の盗賊は全て片付け、一部は外へ援軍に行き、残りは念のため少女の助けに来たのだ。


 隊長のブルーノは倒れた少女の姿を見るとすぐに近づいたが、廊下の先にギルベルタがいることに気づき、少女を背に剣を構えた。


「そのオンボロの剣じゃあ私は倒せないぞ」


 ギルベルタは騎馬隊員たちに向けて言った。


 その時、上からクラーラが魔法を使ってふわふわと降りて来る。横たわる少女を仰向けにすると、手で塵を払った。

 

「クラーラ殿は無事か。今すぐ避難を!」


「カミリア様もご無事ですよ」


 クラーラは少女の顔を見たまま言い、少しだけ口角が上がった。


 ブルーノはクラーラの言葉の意味がさっぱりわからない。少女はどう見ても瀕死の重体だ。


 しかし、少女は瞼を開く。


 赤い瞳が周囲を見渡す。


「あれ……クラーラ。それに、ブルーノさんたち……」


 少女は小さな声で言った。


「よかった、生きていたか。今すぐ逃げるべきだ。ここは我々が」


「いえ、大丈夫です。私が必ず倒しますから、外の援護に向かってください」


 もう痛みはない。体は十分動かせる。


「だが――」


「倒して来ると言ったのはわたしです。このままでは格好がつきません」


 少女は立ち上がると、彼らに笑顔を見せた。それは無理につくったもので、彼らも気づいている。少女はまた激しい痛みを受けるのが怖かったのだ。


 しかし、ブルーノは少女の想いを理解した。


「……わかりました。クラーラ殿、何かあればすぐに飛んで離れるようお願いする。では、健闘を祈る」


 ブルーノは少女の覚悟を見て、それでも介入しようかと思ったが、最終的には少女を信じた。


 騎馬隊員たちはそこを立ち去る。


「あれを食らって生きてるのか、化け物だな」


 ギルベルタは感心したように言う。


「お前もよっぽど化け物だよ」


「……お前、鍛えすぎるなよ。そのままでいろ」


 ギルベルタは突拍子もないことを言った。


「何の話だ?」


 彼女は答えることなく、少女に突進する。


 少女も仕方なく走った。


 ――剣と拳が交差する。


 少女の剣はギルベルタの鎧の胸の部分に激突し、表面をわずかに抉るがほとんど無傷だ。


「乱暴だな」


 ギルベルタは鎧で纏った足を使って少女を蹴ろうとするが、瞬時に剣で弾かれた。


 そして少女は徹底的に攻め続ける。体力勝負に持ち込めば勝てると気づいたからだ。


 連撃をギルベルタに叩き込む。先ほどよりも速く、強く、激しい攻撃は、ギルベルタの体力を凄まじい速度で削っていく。


 同時に彼女の小手の損傷も蓄積され――遂には砕けてしまった。


 そのあざだらけの手が現れた瞬間、ギルベルタは驚きのあまり隙を見せた。


 ――少女は迷いなく斬り飛ばす。


 二つの手首が床に転がり、血が溢れ出る。


 ギルベルタは叫び声を上げることなく、最後の足掻きと言わんばかりに少女へ接近し、思い切り蹴った。


 しかし、腕を失ったためか姿勢を上手く維持できておらず、少女は鎧の関節の部分にある隙間を狙って剣を差し込み、横に掻き斬るとギルベルタの右足は膝から下を失う。


 少女はそれでも攻撃を止めず、もう片方の足も同様に切断した。


 彼女は最早立っておられずうつ伏せに倒れる。


「カミリア、お前の勝ちだよ」


 息を荒げたままギルベルタは目を瞑って言う。


 ――すると少女はギルベルタを起こし、目を瞑って達磨姿の彼女を優しく抱きしめた。


「おい、何のつもりだ!?」


 ギルベルタは予想外の少女の行動に動揺し、目を見開いて尋ねる。


「可哀想だと思っただけだ。何となく……自分に似てる気がした。でも選択を誤ったからには、それを償え。〝死ねる奴は死んで償え〟」


 ギルベルタはその言葉に込められた特別な意味を汲み取れなかった。


「…………」


 それは短い間であったが、ギルベルタの心は穏やかになった。


 彼女は瞼を開かない。涙が零れてしまうからだ。


 少女は両手の力を抜くと体を離し、ギルベルタの右肩を左手で抑えたまま右手に剣を握る。


「最後に戦えたのがお前で良かったよ」


 ギルベルタはそう言った。


(わたしで……悪かったな…………)


 目を瞑るギルベルタの首を、少女は一振りで刎ねるのだった。

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