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不死鳥の少女カミリア(旧・不死鳥少女建国紀)  作者: かんざし
第二章 新たな統治者たち

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第一二話 早すぎる事態

「まずい! 伯爵様が処刑される!!」


 男の叫び声が建物内に木霊した。全員が振り返ると、恐怖に曇った目つきの若い冒険者の口からその言葉が零れ落ちていた。


 最悪の事態だ。


「今すぐ向かうぞ!」


 騎馬隊長の言葉を皮切りに、穴の空いたワイン樽のように建物から皆が勢いよく飛び出す。


 各々の速さでとある場所に向けて駆けて行く。


 どこで処刑されるのかは知らされていなかったが、大体見当がついていた。宮殿前の広場なら十分な空間があり、見物客が集まるのにも最適だ。多くの市民が集まり、やがて痛ましい光景に視線を奪われることだろう。


 そして、一番に到着したのは疾風の如く駆けた少女だった。


 人だかりが建ち並び、奥へは容易に進めそうでない様子だ。


 ――しかし、少女はその最外部に到達したところで足を止めた。


 見物人が見つめる先の中央の木製の処刑台は、既に赤く染まっていた。


 間に合わなかったのだ。


 処刑台の隣には血のついた斧がおかれており、その隣にはこちらを向く伯爵の、いや元伯爵の首があった。広場には微かな血の臭いが漂っている。


 少女が彼の姿を見るのは初めてであり、直接話したことなどなかったが、かなりの喪失感を覚えた。


 また、処刑人やその他盗賊の姿は一切なく、処刑台を素早く設置し、市民が沢山集まるまでもなく処刑したようだ。


 元伯爵の死体は首から下も放置されている。


 滴る血は処刑台から垂れて石畳をも赤く染めていた。


 なんとも盗賊らしい手荒な仕打ちだった。


 遅れて他の冒険者たちや騎馬隊員、衛兵たちがやって来る。


 ぼうっと立ち尽くす少女を目にし、その横で立ち止まって少女の視線の先を見た。


「そんな……」


「もう……殺されてしまったのか……」


 先ほど集まっていた者たち全員が絶望の表情を浮かべる。


 また、市民たちは興味を失ったのか広場を離れるものが続々と現れ、やがて閑散としていった。彼らの中には悲しむ者もいれば、満足げな表情の者もいた。


 その時、クラーラが少女の肩をとんとんと叩く。


「カミリア様、あそこ、あの女じゃないですか?」


 クラーラは広場の奥にある宮殿の上部を指差した。


 少女はまだ動揺していたが、クラーラの指先を追うと、微かに何かが動いているように見えた。ようやく少女は我に返り、しっかりとそこを見つめる。


 エルナが窓のカーテンの隙間からこちらを見つめていたのだ。


 少女は彼女の目元に涙を見た。


 その頬もまた、赤かった。


「エルナさん!」


 少女が不意にそう言った。


 それを聞いた冒険者たちや騎馬隊員、衛兵たちは同じく顔を上げてそこを見た。


「伯爵夫人!」


「エルナ様!」


 ほんの少し前まで暗い表情を浮かべていた彼らに、助けるべきもう一人が生存していることを確認し、少しだけ希望の光が見えた。


 そして、彼女は必ず救い出して見せようと、また熱意が湧き上がって来る。


「もう日は低いです。盗賊たちも今日これ以上処刑することはないでしょう。今晩わたしたちが救出します。早朝に、総攻撃を仕掛けましょう!」


 少女は告げる。


「ええ。この国は必ず、我々の手で救出しましょう」


「盗賊どもには痛い目を見せてやらねばなりませんな」


 少女の言葉に鼓舞され、皆やる気に満ち満ちている。


 そんな時、周囲にぞろぞろと盗賊が集まって来た。


 冒険者たちは警戒して武器を構える。


「冒険者の生き残りだ! 応援を呼べ!」


 目の前にいる盗賊は一〇人で、宮殿が近いためすぐに増援は来るだろう。彼らは人数差ゆえすぐに襲ってくることはなかった。


「わたしたちが伯爵の遺体を運びますから、皆さんは戻って下さい!」


 少女は今戦うべきでないと判断して叫んだ。


「ここで戦わなくてどうする!」


 しかし冒険者は復讐心に満ちており、目の前の盗賊に対する殺意が剝き出しである。


「ここは二人に任せよう! 騎馬隊は帰る!」


 騎馬隊長ブルーノは、全員に聞こえるように言った。


「我々も戻るぞ! 今は戦力を温存すべきだ!」


 衛兵隊長シュテファンはブルーノの意図を察し、同様に叫んだ。


 対人戦に慣れた衛兵と騎馬隊員がこの場から離れるとどれだけ劣勢になるか、冒険者には容易に理解できた。


「仕方ない。俺たちも帰ろう」


「二人とも、頼んだぞ!」


 そう言って、少女とクラーラ以外は皆散り散りに駆け出して行った。


「クラーラ、わたしが持つから援護して」


「はい」


 少女は処刑台に向かって走り、クラーラが後を追う。


「相手は二人だ。殺せ!」


 盗賊たちは行く手を阻む。


 少女が盗賊の攻撃を華麗に躱すと、クラーラは魔法で足元の石畳を持ち上げて飛ばし、盗賊の顔面に直撃させた。


 盗賊たちは次々に少女へ襲いかかり、その都度回避されるか、近づく前にクラーラの魔法で殺された。


 無事に処刑台へ到達した少女は血の滴る死体と生首を拾い上げる。


「クラーラ、帰ろう!」


「はい!」


 二人は急ぎ例の建物へと向かうがその際直行せず、かなり遠回りの道を使う。


「逃すな! 追え!!」


 後方からやって来る盗賊たちや、ばったり出くわす巡回の盗賊たちをクラーラが殺すか足止めし、しばらくして追っ手を巻いた。


 二人は例の建物へと身を潜めつつ向かい、すぐに辿り着いた。


「戻りました。ご遺体はここです」


 建物内には皆集まっており、少女の帰還に沸いた。


「よくぞご無事で。本当に感謝しております。閣下のお体はギルベルタを討ち取るまでの間、この建物に保管します」


 シュテファンたち衛兵は伯爵の死体を受け取った。


 盗賊から国を取り戻した暁には必ず丁寧に葬儀をすると誓って、建物の一室に安置した。


 そして、彼らはまた作戦を練り直すのだった。


 盗賊どもを討伐して国を解放するまではこの屈辱を忘れないと、強く決心した。

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