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不死鳥の少女カミリア(旧・不死鳥少女建国紀)  作者: かんざし
第二章 新たな統治者たち

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第四話 商人の館 その一

 しばらく歩いた少女とクラーラは、初めてとなる伯国の首都を目にする。


 以前訪れた伯国最北の街に比べて一段と広く、城壁もかなり高い。しかしそれでも都市ヒューエンドルフと比べれば広さ等の面で見劣りし、プルーゲル王国の国力を暗に示している。


 二人は全域を囲む壁の前に到着した。


 ――少女はすぐに異変を感じる。


 初めての訪問にも関わらず違和感を覚えたのだ。内部がやけに騒がしい。


 門に立つ衛兵の数人も、門の外側ではなく内側を向いて、何が起こっているのかというような表情をしている。


 少女たちが門をくぐり街へ入ると、何やら市民はどこかへ向かっているようだった。少女は目的から逸れてしまうのではないかと考えたが、何が起きているのかくらいは知っておこうと考え、行く先も知らず小走りの市民の後を追う。


 街の大通りは全て石畳が敷かれており、小道に関しても舗装工事を進めているようで、道端には四角く切られた大きな石が山のように積まれていた。


 数分が過ぎ、やがて大きな人だかりを見つける。


(なっ……!?)


 到着した二人を待っていた光景に、少女は声が出なかった。


 ぱちぱちという音を立てながら燃えているのは、とても大きな屋敷である。


「すみません、これは?」


 少女はすぐさま近くにいた市民の一人に尋ねる。


「ヴァイテンヘルム様のお屋敷だが、大変なことになってるな……」


 そこは例の商人のものであった。少女はその言葉を聞いた瞬間に焦りを覚え、額に汗が滴る。


 そして屋敷の門の前の人混みを押しのけて進んでいく。門の正面には伯国の衛兵の姿があり、市民が勝手に立ち入らないようとどめているようだ。


「ヴァイテンヘルムさんはどちらに!」


 少女は衛兵たちに尋ねた。


「まだ内部だと思われます。救出できる冒険者の方々を呼びに行かせました。火が強くて我々には入れません。あと、他にも護衛の方やメイドの方などもいらっしゃるはずです」


「私たちは冒険者です! 救出を手伝うので、中に入れてください!」


 そう言って少女は冒険者バッジを取り出し、衛兵に見せる。


「二級冒険者!? よろしくお願いします。それでは」


 そう言って衛兵は門を開け、二人が通過した後すぐに閉じた。


 突然の見知らぬ冒険者、それも二級のバッジを付けた者が現れたとなり、野次馬たちはまたいっそう騒がしくなる。


「クラーラはここで水をかけて消火しておいてくれ! 私が連れてくる」


「はっ、はい」


 少女はそう言うと、商人の男を救出すべく入り口の扉を勢いよく開ける。


 その瞬間、強烈な熱風が少女を襲った。


 常人であれば息さえできないほどの高温の風が吹きつけたが、少女は何事もないかのように内部へと進んでいく。


 ――その時、目の前に惨状を見た。


 男が二人、剣を持ったまま血を流して倒れていたのだ。


 かなりの筋肉質であり、剣を持っていることからヴェルナーの護衛であると推察できる。また、傷口を見るに人為的なものだとわかる。


 しかし周りに人影はなく、少女が二人の手首に触れると、すでに息を引き取っていることがわかった。


 少女は動揺したが、ここで引き返すわけにはいかない。何か事件が起こったのであろうが、事件の追求よりも生きているかもしれないヴェルナーやメイドたちの救出が最優先だ。


「ヴァイテンヘルムさん! いらっしゃいますか!」


 少女は叫んだが、返事は聞こえて来ない。


 少しの間一階の部屋を粗方見てまわるも、人の気配は一切なかった。その間少女は何度も炎をその身に浴びたが、火傷の跡は一つもない。


 同様に、白い外套も無傷のままだ。


 続いて二階へと続いている燃え盛る螺旋階段へ向かった。


 一段目を踏んだ瞬間にそれは崩れて落ち、燃える瓦礫となる。


「うわっ」


 少女は降ってきた木片をひらりと躱すと、周囲を確認する。


 当然ではあるが、付近に誰もいないとわかったため、その背に炎の翼を宿し一瞬にして二階へ到達すると、翼を消してまた総当たりで部屋を開けていく。


 そして、一番最後の部屋を開けた。


 中にいた数人がこちらに気づく。


「お姉ちゃん!!」

 

 この屋敷で働く幼いメイドたちであった。


 また、その子たちがしゃがんで囲んでいたのはこの屋敷の主人であり、彼はうつ伏せで倒れている。


 ヴェルナーの頭からは、血が滴っていた。


 少女と目が合った幼いメイドたちは、突然泣き出して少女に抱きつく。


 先ほどまで無言でうつむき座っていたのは、一度泣き、子供ながらにもどうしようもないことを悟って、泣き止んでいたのだろう。


 まだ脱出できたわけではないが、助けがやって来たことに安堵したようだ。


「みんないる?」


「うん」


「早く逃げるよ!」


「うん!」


 少女は幼いメイドたちにひどい火傷の痕を見つけたが、治療できるわけでもないため、そして火が迫ってきているために、素早い脱出へ向けて行動を開始する。


 少女はメイドたちに少し離れるよう言うと、倒れている商人の男を担ぎ上げた。


 息をしているかどうかも確認せずに背負うと、幼いメイドたちを連れて近くの窓へ向かった。


 すると、少女は思い切り窓を蹴破った。


 かなりの勢いがあったため、その枠ごと外れて下に落ちた。


「うわっ」


 下の方から声が聞こえた。


 少女が窓から顔を出して下を見ると、すぐそこに冒険者たちらしき姿があった。


「すみません! ご無事ですか?」


 下にいた数名が少女を見つけてそう尋ねるが、返答を待たずに続ける。


「冒険者の方々ですね? 階段から戻れそうにないので、窓から行きます。受け止めてくれますか?」


「了解です!」


 少女は背負っていた商人の男を降ろすと、幼いメイドたちのうちの一人を持ち上げた。


「お、お姉ちゃん……」


 何をされるかわかったのだろうか、また涙が出てきつつある。


「大丈夫。下にいるお兄ちゃんたちが受け止めてくれるからね」


 少女は一度強く抱きしめたあと、その子の肩の力が少し緩んだのを確認すると、小さな体を窓の外へ出した。


 下にいた冒険者たちは円をつくり、受け止める体勢になる。


「行きます」


 少女はそっと手を離した。


「おっとっと」


 冒険者たちには慣れない作業であったようだが、何とかこなせたようだ。


「次、行きます!」


 少しして、幼いメイドたち全員が救出された。

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