第二話 王都ヴィステルベルクとプルーゲル国王
北大陸はこの惑星の五つの大陸のうちの一つであり、面積は二番目に小さい。
北大陸の北部に位置するアルトラント地方の最北にプルーゲル王国が存在し、白海に面している。
そこを更に北へ渡れば極寒の白大陸が存在し、ドワーフなる亜人種が国家を運営していると言われている。
プルーゲル王国はアルトラント地方の諸国の中でも一、二を争う国力を持ち、同じアルトラントに属する西のバファリア王国、東のスクラヴ地方に属するヴィルニラカイ大公国に挟まれながらも、その国土を維持している。
王都ヴィステルベルクは国土の中央よりやや西に位置し、三重の城壁を持つ王国の最も広い都市で、全域に石畳が敷かれて日々馬車が忙しなく駆け回っていた。
中央にはヴィステルベルク城が聳え立ち、その最も高い塔の先端にある部屋からは、王都の端から端までが一望できる。
このように城を中心として街が広がり、それを囲うようにして城壁を有する都市が多いのは、かつて亜人種相手に戦ってきたときの名残であった。
そして現在、城内の一室にて会議が行われている。
「アマルル王国がまたしても辺境伯に領土を請求したとの報告がありました。それに今回は軍を動かす可能性が高いようです。陛下、ヒューエンドルフは先のオークなる亜人種との戦いでやや疲弊しておりますゆえ、王国として軍を派遣すべきと具申いたします」
そう言ったのは、王国貴族の中で最も発言力があるとされているアッヘンヴァル侯爵だ。
焦げ茶色の髪は額から頭頂部あたりまで一本もなく後頭部と側頭部に残っているくらいだが、ちりちりの口髭と顎髭はかなり伸ばされている。
高齢のはずであるが白髪は見えず、茶色の瞳は直視せずとも圧を感じる鋭いものだった。
彼は王国の宰相を務めている。
ここは宮廷会議によく用いられる部屋だ。ヒューエンドルフ城ほどの豪華さはなく、高貴な人間が使う場所としてはやや質素と言える。
冬でないため火は灯っていないが、暖炉が壁に埋め込まれており、部屋の中央には大きな長机があった。そこには多数の貴族が席についている。
その上座には、プルーゲル国王レオンハルト・フリートヘルム・フラム・プルーゲルの姿があった。
彼は白髪混じりの茶髪を短く整え、顎髭は完全に剃っているが、口髭を長く伸ばしている。
彼らが議題にしていたのはヒューエンドルフの領土問題である。辺境伯領の北西にはエンデ半島があり、その端にはアマルル王国という宗教国家が存在する。
新興の王国であり国力はプルーゲル王国に遠く及ばないが、エンデ半島の付け根に位置するヒューエンドルフ領の複数都市の割譲を辺境伯に要求していた。
これは今回が初めてのことでなく、アマルル王国が誕生してからはほぼ毎年のように手紙が届く。
「疲弊していると言ったか? ローデンヴァルトのことだ、金の蓄えだけはあるだろう。わざわざこちらが支援するまでもない」
国王レオンハルト・フリートヘルムは乗り気でないようだ。
「確かにローデンヴァルト卿のため込んだ財を使わせる機会とも言えますが、相手が小国とは言え国家間の問題ですし、介入するべきかと思います。それに、相手から仕掛けてくるのです。このまま半島を完全な支配下に置く好機とも捉えることが出来るでしょう」
アッヘンヴァル侯爵は国王の瞳をしっかりと見て自身の考えを述べた。
「ああ、確かにそうだな。……他の者はどう考える?」
「好機は掴み取るべきです。今やバファリアとの問題は落ち着き、ヴィルニラカイとは長い間戦果を交えず、その他のアルトラントの都市国家群など敵ではありません。脅威のない今、後ろ盾のない小国相手ならば戦争に踏み切るべきでしょう。それに、聖ウーブ教などという訳のわからないものを滅ぼすことが出来ます」
レオンハルトに強く進言したのはタイヒマン侯爵だ。彼は王国でアッヘンヴァル侯爵の次に力のある貴族である。
因みにヴェルナーは侯爵時代、彼に次ぐ三番目の実力者だった。
「タイヒマン侯爵もそう言うのなら……わかった。だが相手は確か魔法使いの多い国。それも一般的な錬金術系統ではない聖ウーブ教特有のもの。その魔法についてよく知らないからには、慎重に軍を動かすべきではないか?」
「陛下の仰る通りです。特に敵の領土へ踏み込むともなれば、罠が仕掛けられている可能性を考えなければなりません。戦の鬼才が今もこの国にいればかなり楽に戦えたのでしょうが、無責任なものです」
「タイヒマン侯爵、彼一人で大きく変わることはない。実際、前回の戦争でそれはわかったであろう。では、ヒューエンドルフの支援とアマルル王国への侵攻は決まりということで。諸侯からは何かあるか?」
アッヘンヴァルはこの場にいる諸侯の方を見て言った。
「占領したアマルルの領土は陛下が統治されるのでしょうか?」
そう言ったのはアドルフ・フラム・オストランツィーラー伯爵だ。彼はここにいる諸侯の中で最も若く、髭は綺麗に剃ってある。やや長めの黒髪の彼は、二人の侯爵に継ぐ発言力がある。
それは前代の伯爵である彼の父がかなり才能のある人物であったためで、数年前に急死し、アドルフはその地位を引き継いでいた。
しかし若さや家柄は当然嘲笑の的となっており、直接言われることはないが雰囲気で感じられる。
「伯爵、君の領地からは遠い。管理するのは――」
彼はアッヘンヴァル侯爵の発言を中断させて食い気味に言う。
「いえ、新たな領地が欲しいというわけではないのです。あの辺りは海賊が多数出没しますし、宗教的な問題もありますから、統治するとなれば多大な出費を強いられます。ヒューエンドルフ辺境伯に統治を任せるべきではありませんか?」
アドルフをそこまで動かす原動力はなんであるのか、それは彼の首飾りを見れば一目瞭然だ。胸元に掛けられた紋章には不死鳥が描かれている。
オストランツィーラー家は火の精霊不死鳥を信仰の対象とする一族で、始まりは騎士であった。
彼は決して他の精霊を否定することなどしなかったが、四大精霊を完全否定する聖ウーブ教は見過ごせなかった。
「確かにその通りかもしれない。両侯爵はどう思う?」
「伯爵の言う通りだと存じます」
「同意見です」
「では、他に意見のあるものは?」
アッヘンヴァル侯爵の質問に、机に並ぶ他多数の貴族は他の貴族と目配せした後、決定に賛成する。彼らには大した発言力がなく、大抵の場合は国王や大貴族の意見に追従していた。
「出費は辺境伯に負担させるということで良いのだな?」
「それで問題ないでしょう。元々彼の領地を防衛するためなのですから。この場にいないというのも無礼極まりないものです」
国王レオンハルトは部下に出来るだけ意見を言わせる人間だ。
少し前に彼の意思で西のバファリア王国と戦争をした際、力のあるアッヘンヴァル侯爵とタイヒマン侯爵の賛成を得られず、十分な軍を用意できなかったために敗北を喫した。このことから貴族たちに対する発言力が昔に比べてかなり弱い。
また、その戦費を支える国民の不満も大きくなっていた。
そのようなことから、彼はアマルル王国との戦争を即座に賛成出来なかったのだ。
そして、会議は別の話題へと移って行くのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。明日、次話を投稿します。




