第一話 とある二人
大変長らくお待たせいたしました。これから第二章を毎日投稿していきます。また、執筆の際に多少設定の変更をしたので以下に示しておきます。しかし、内容に大きな差異はないので、既に第一章を読まれた方には、読み返していただく必要はありません。
○変更点
・「モンストルム」→「魔獣」
・「都市ヒューエンドルフの宮殿」→「ヒューエンドルフ城」
・姓の「フォン」→「フラム」
・「スケレトス」→「骸骨」
・「レヴナント」→「尸族(の一種)」
・タイトルの「不死鳥少女建国紀」→「不死鳥の少女カミリア」
第一話 とある二人
「ニクラス、この街はもういいだろう。十分に噂を広め終わったと思う」
女が言った。
「リタはそう思うか? 創造主様の命令は厳格なものだった。きっと失敗は死に直結する。もう少しいてもいいだろう」
男が返した。
「確かにそうだな。せっかく頂いた任務だし、慎重にすべきなのは当然か」
「良い依頼がなければ次の街へ向かうということにしよう」
「ああ、それがいい」
プルーゲル王国ヒューエンドルフ辺境伯領のとある街を、よく似た格好の男女が歩く。
ニクラスとリタの二人は揃いの服を身に纏っており、それは濃い紫色を基調とした外套である。髪は黒より黒く共に長髪であり、瞳は明るい黄色だ。
ニクラスは大剣を、リタは長弓を背負っていた。その武器の装飾も黒を基調としており、全体として一体感のある格好である。
「死に直結するというのは言い過ぎたかもしれない」
ニクラスは自身の言葉を訂正する。
「いや、ありえるだろう?」
「俺たちはあの方の最新作である上、つくり出すのに多大な時間を要しているし、必要な資材も相当なものだっただろう。簡単に処分するとは思えない」
二人は人間でない。かといって、亜人種でもない。
彼らが創造主と呼ぶ存在によってつくり出された生命に過ぎないのだ。
「何を言う。私たちの価値はこの肉体にある。魂を入れ替えてしまえば済む話だ」
リタは自身の胸に手を当てる。表情はやや悲しさを含んでいるものだ。
「人工の魂を用意するのはそう簡単にいくものだとは思えない。元々あったものを改造してつくり出してるんだろう」
二人は自身がどのようにして生まれたのか詳しく知らない。しかしながら創造主の話を聞くうちに、ある程度は理解していた。
「私にも……昔は別の体があったのだろうか。別の親も居たのだろうか……」
彼女は先ほどよりも物悲しい雰囲気を醸し出す。
「よせ。話すべきことじゃない。創造主の命令に従うことが我々の使命だ。深く考えるな」
彼の言葉に彼女は頷いた。
「そうだな。しかしカミリアか、一度くらい見てみたいものだ」
「すぐに会えるさ。だが、戦闘向きにつくられた俺たちでさえ立ち向かうのは厳しいとおっしゃっていた。隣にいるクラーラもだ。だからこそ利用すると」
彼の瞳は冷淡なものへと変わった。
「利用するためには利用される価値を持った人間になってもらう必要がある。カミリアを見たことのない人間にさえ、彼女が自身の助けになる存在だと信じられるように誘導しなければならない。それが私たちに課された使命だ」
「つくられた指導者として大成させ、不要になった時消す。しかし簡単に消せる相手ではないから私たちのような存在を量産する。直接戦闘は最終手段で、基本的にはまた市民を扇動すると」
「それが創造主様の覇道か」
「綺麗ごとだけでは為せないものもあるわけだし、結果が全てだ」
「その通りだよ」
二人は少し歩くと、目的地であった冒険者組合に入った。掲示板に張り出された依頼の数々を見つめる。
「どう見ても魔獣を狩った方が早い」
二号は淡白に言った。
「必要な資金を集めるためとはいえ、まだ目立ってはいけない。今のところは高くとも三級までに留めておかなければ、男爵の関係者に見つかってしまう」
「私たちの不得意な事ばかりだ」
「文句を言うな。次の――」
「ニクラスさん、リタさん、もし仕事をお探しでしたら一ついかがでしょうか?」
二人が掲示板の前で話をしていた時、後ろから声がかかった。
「どちら様でしょうか? 我々は四級冒険者ですので、あまり大層な仕事はお引き受けできません」
「存じ上げた上での依頼です。私は商いを生業としておりまして、隣町まで荷物を運びます。その護衛をお願いしたいのです」
彼の言葉を聞き、ニクラスとリタの両者は目を合わせる。
「丁度いい。これを機に移るか」
「同意見だ」
リタは微笑み、商人の方を向いた。
「その依頼は引き受けさせていただきます。我々はいつでも出発できますので、ご心配なく」
「わかりました。目的地や報酬などの細かなことは後で話しましょう。昼過ぎ頃にまたここへ来ていただけますか?」
「了解しました」
「ではまた」
商人の男は去って行った。
「いい店を見つけている。そこで昼食を取ろう」
彼女は提案した。
「俺たちは仕事で――」
彼は断ろうとするが、彼女が遮る。
「そう言うな、すぐに始まるわけじゃない。休むのはいいことだ」
リタはニクラスに笑いかける。
「……わかった。久しぶりに休息としよう」
二人は冒険者組合を出て行く。
少女は二人のことを見たことも聞いたこともない。
そして、彼らの目的を知る由もなかった。
最後までお読み頂きありがとうございました。明日、次話を投稿します。




