表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死鳥の少女カミリア(旧・不死鳥少女建国紀)  作者: かんざし
第一章 転生と冒険者の道
4/100

第四話 不死鳥の目覚めその二

 戦闘再開の幕は、混合獣により切って落とされた。


 獅子は咆哮を終えると素早く跳躍して一気に距離を詰め、少女を上から押しつぶそうとした。この動きは少女が初めに受けたものと同じであったため、これも先ほどと同じように横へ素早く移動することで攻撃を避ける。


 次の攻撃は蛇の体当たりだろうと少女は予想し、姿勢をすぐに立て直すと同時に剝き出しの刀身を素早く構えた。


 予想は的中。真っ直ぐ大蛇が向かって来る。


(ここで……決める!)


 一刀両断せんと少女は剣を素早く振り上げ、そして思い切り下ろす。


 しかし、蛇はその一撃を(かわ)す。混合獣だって学習しているのだ。


 ――そして素早く少女の側面へ回り込み、硬い鱗を打ちつける。


 また骨の砕ける音が響く。それは少女の右肩から発せられたものだ。激しい痛みが少女を襲う。


 それだけでは済まなかった。


 少女の身は軽く、大蛇の一撃は重かった。よって少女は吹き飛ばされたのだ。


 少女は背中から草原の端のでこぼこした崖に激突し、またしても激しい痛みを感じた。


 しかし、少女は先ほどとは違って涙をこらえている。そして化け物の方を見た。


 混合獣は少女から七パッスス(一一・二メートル)ほど離れたところでこちらの様子を(うかが)いながら悠々と立っている。


 実際それは混合獣の本心と真逆のものであったが、相手に弱気の姿を見せるわけにはいかなかったのだ。


 少女は半分ほど開いた目でそちら見ると、大蛇が口に何かを咥えている。


(そっ、それは……!)


 少女が蛇の攻撃で落としてしまった大切な預かりもの、片刃の剣であった。


 しかしなぜ咥えているのか、少女には全く理解できない。まさか蛇が剣術を使えるとは到底考えられそうにない。


 獣はまた雄たけびを上げる。


 すると、獅子はどういうわけか頭を深く下げ、その顎が草原に触れる。逆に、尻は高い位置にあった。仮に跳びかかるための姿勢だとしても、低すぎる構えだ。


 少女は獅子の予想外な行動に困惑する。これから自身を殺すために必要な行動だとは一切考えられなかった。


 ――瞬間、少女の目の前には剣の切っ先があった。それはこちらを向いており、その目と鼻の先には自身の心臓があった。


 大蛇がその剣を投げたのだ。


 獅子の行動はそのためだった。蛇が剣を投擲しやすいように伏せたのだ。不死鳥の魂によって強化された少女の高い動体視力でも、ほとんど追えないほどの速度で飛んで来ていた。


 胸に突き刺さるその瞬間だけは、なぜか時間の進みが遅くなっているように感じられた。

 

 少女は崖に打ち付けられる。


 剣の飛翔速度は凄まじいもので、かつ切れ味も相当良いものであった。そのため少女は後ろに吹き飛ばされることなどなく、剝き出しの剣が少女の心臓を的確に貫き、そして崖の岩に刺さって停止した。


 剣の突き刺さった胸からは真っ赤な鮮血が隙間から緩やかに溢れ出し、純白の外套を赤く染めている。


 ――しかし、少女は死んでなどいない。


 少女の瞳、そして胸に刺さったままの刀身が、微かに光った。


 そして、修復された右腕を動かしてその剣を素早く抜き取り、ふらふらとしつつも姿勢を立て直す。


 それによって左の胸には縦長の小さな穴が残り、傷口が解放されたため先ほどに比べてかなり勢いよく大量の鮮血が噴き出した。


 溢れ出る血は、少しして炎へと変わる。肉体の再生が始まったのだ。また、この修復は先ほどの左腕の時と比べてかなり速く、ほぼ一瞬にして傷口が塞がった。それを追うように服も修復される。


 その光景を見た混合獣はびくりと体を震わせた。


 あれだけの致命傷を受けたにも関わらず生きているとなると、相手は想像以上に尋常でない存在だと考えたからだ。混合獣は自身がここへ召喚された瞬間に感じた、少女の底知れない生命力とそれに対する自身の本能的な恐怖は正しかったのだと認識した。


 しかし、少女の驚くべき行動は終わらない。


 前屈姿勢を取ると、なにやら少し震え出した。少女は背中に力を込めていた。それも不思議なもので、普通の人間にはない部位へのものだった。


 混合獣は眺めるほかなかった。


 やがて少女の背には大きな変化が起こる。


 ――炎が噴き出した。


 それは混合獣の横腹から噴き出てきたものとほとんど変わらなかったが、今回は二対の火柱が両肩甲骨のあたりから現れている。


 そして火柱は横倒しになり、形を変えた。


 その状態を維持したままで、少女は曲げていた上半身を起こす。


 混合獣は目が点になった。その異様な姿に恐れたのだ。先ほどと変わって相手の毛色(けいろ)が全く違う。か弱い少女の姿は何処にもなく、自身の生存本能を強烈に刺激してくるような禍々しい姿がそこにはあった。その不可思議に恐れぬ存在など、この世にはいないだろう。


 少女の背には翼と呼ぶべきものが生えていた。一般的な鳥獣と一線を画しているのは、それが炎によって形成されているということだ。


 また、少女の目は先ほどの濃く深い緋色から鮮やかな緋色へと変わった。そして元々色の薄かった金色の髪は真っ白に変貌し、赤色のメッシュが入っている。


(さっきよりも……力が(みなぎ)って……)


 少女は自身の不死鳥の力が先ほどまでよりも大きなものへと変化を遂げているように感じた。それは本来の不死鳥の力にかなり近づいたような気分だ。


(これなら……勝てる!!)


 不死鳥のあるべき姿にほとんど近づいた少女は、片刃の剣の切っ先を化け物へ向ける。


 混合獣は少女の動向に焦りの感情を抱いた。


 少女は目の前の獲物を睨みつけ、その心の内を僅かに汲み取る。


 混合獣が少女に対する行動を決めあぐねている間、少女は先に行動した。普段であれば剣を両方の手で握る少女は、今回は右手のみで握っており、そして左手はなぜか地面に触れている。

 

 そして、少女は混合獣に突進した。


 思い切り跳び出したのだ。いや、飛び出したという方が正確だろう。というのも、少女は草原から少し浮いている。背に宿した炎の翼は十分に翼として機能しており、それによってさらに加速している。それは異常な速度であり、人間では到底成し得ない技であった。

 

 少女は自身が狩られる側から狩る側へと立場を変えたことを理解していた。それは本能的なものだった。

 

 少女は混合獣へ低空飛行しながら近づくにつれて剣を強く握り締める。そして同時に強い懐かしさを感じた。生き別れた姉妹と数百年ぶりに再開したような気分だ。

 

 そして、剝き出しの剣は活性化した。その刀身は炎に包まれ、それは渦を巻いている。


 少女の瞳、翼、剣の()


 髪と外套の白。


 この紅白の霊験(れいげん)は、誰が見ようとも美しいと言わざるを得ない光景、いや絶景であった。


 少女は自身が起こしたこの現象に驚いたが、今は目の前の化け物に集中すべきだと考え、切っ先を自身の後ろへ向けるようにして振りかぶった。


 混合獣は大蛇の頭が獅子の頭の前に出てきている。


 ――少女は横薙ぎの一閃を繰り出す。


 刃と大蛇の鱗がぶつかった。


 しかし大蛇の硬い鱗は、その剣の異様な切れ味によっていとも簡単に両断される。


 一瞬の出来事で蛇の首は滞空し、出血も始まっていない。そして切り口の反対側から現れた刃は(くう)を切り進む。


 少女は炎の翼を巧みに操り素早く姿勢を修正すると、獅子の首元へ向かって下から飛び込んだ。


 瞬く間にして炎を(まと)った刃は、獅子の首へと到達する。


 少女は刃を獅子の首に下側から押し当てた。


 ――そして、獅子の首が飛ぶ。


 そして炎の翼を宿したままの少女は、数秒ぶりに着地する。


 ドスンという音を立て、二つの首が草原にごろっと転がった。初め三つもあった頭を全て失った混合獣の巨体は、そのまま地に倒れ伏す。


 少女は思い切り息を吸い込み、そして吐き出した。それと同時に翼や剣が纏っていた炎は収まる。


 そして少女の瞳の色は濃い緋色に、髪も金色へと戻った。


 また、刀身には混合獣の血が一滴たりとも付着していなかった。


 草原に静寂が戻る。


 首のない化け物の死体を眺めつつ、自身を脅かす存在の死に少女は緊張がほぐれた。


 少女はついに、強大な化け物を撃破したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ