第三六話 冒険者たちの帰還その一
あれから数日、捕えられていたオークが何者かによって殺害されたことはもう話題に上がらなくなっていた。
初めはオークに同情した少女が疑われたものの、二人はその時宿の部屋にいたという証言が宿の主から出されたために、結局分からず終いとなった。窓から抜け出していたため気付かれなかったのだ。
また、先に殺された二体も含めて牙の片方がなくなっていたことから、通りすがりの誰かがそれを売るために殺したのだろうということになった。
しかし金目当てならどうして牙の片方のみを取っていったのかという説明にならないため、腑に落ちない結論となった。
いろいろな理由で有名となった少女は、クラーラと共に都市の外を歩いている。
少女の手には布にくるまれた三つの何かがあった。
そして二人には行く宛てがあり、それはアルト大森林だ。
決して内部に用事があるわけではなく、オークの縄張りに侵入しようという気は微塵もない。
少女はあと一歩進めば森林内と言えるところまで接近すると、手に持っていた包みを短い草の生えている地面に置いた。
しゃがんだまま目をつぶると、少しの間黙祷する。
「カミリア様、何をしていたんです?」
少女が黙祷を終えて立ち上がると、クラーラは質問した。
「ん? 形見くらいは欲しいかと思ってね」
クラーラは理解できないという表情をしているが、少女はそれ以上何も言わなかった。
そして都市に戻ろうとしたその時、少女は遠くに人の気配を感じる。
このあたりでは最近オークの出現が増えているため人はほとんど近づくことがなく、そのためもしかするとパウルたちが返ってきたのかもしれないと考えた。
オークの攻撃が実際に起こったということを伝えるため、そちらへ向かって走り出す。
少女はすぐ、予想通りにパウルたちを視認したのだが、その様子はどこかおかしい。
(…………二人?)
少女は疑問に思った。
その鋭い目には二人の冒険者しか映らない。
そして二人というのも、一人がもう一人を背負っているような状態だった。背負うのはパウル、背負われているのはエミーリアだ。
少女は走る速度を上げる。
無論、彼らの身に何かがあったのだろうと考えたためだ。
「パウルさん、エミーリアさん、ご無事ですか?」
少女は駆け寄るとそう尋ねた。よく見ると二人にけがはなく、装備の損傷も軽度だがかなり泥などが付着しているため、何者かから逃げまわって汚れたのだと考えられる。
また、エミーリアはパウルの背中で目を閉じており、それは睡眠というよりも気絶しているように見えた。
パウルの目は虚で焦点が合っているようには見えず、顔色が極度に悪い。
彼は二人分の武器を引きずっているようだ。
エミーリアを背負って長距離を歩いたことにより、過度に疲労しているのだろう。
「フランツさんとフェリックスさんはどこですか?」
少女はさらに問う。
「カ……カミリアさんと……クラーラさんですか……? 助かっ……た…………」
そう言ったパウルはそのまま前に倒れた。その光景に少女はまたも驚かされ、少しの間困惑する。
しかし、冷静さはすぐに取り戻された。
「クラーラ、私が組合へ二人を運ぶ。お前は南に行って他二人を探せ!」
少女は二人を重ねて肩に背負い、二人の武器である杖と大槌を抱えると、そう言って都市の方へと走り出す。
クラーラは少女と離れるのが不満そうであったものの、文句を言って怒られるよりはと考え、できる限り早く見つけられるよう魔法を使って南方へと飛んで行った。
クラーラも魔導書を使えば、風属性と地属性魔法の同時使用で飛行することが出来たのだが、少女はシュヴァルテンベルクから帰還する時やはり忘れていた。
かと言って、覚えていたところでこの事態を防げたわけではないのだが。




