第三〇話 辺境伯たちの会議
ここは都市ヒューエンドルフの中央にあるヒューエンドルフ城の一室。そこには大人数が集まり、会議が行われていた。
その部屋の装飾は豪華絢爛の一言に尽きるもので、集まっていた多くの人間の服装もその場にふさわしい煌びやかなものであった。
彼らはマインラート・フラム・ローデンヴァルト辺境伯とその家族、仕える貴族と騎士たちが大半であり、他は使用人だ。
「先日、以前から報告されていた尸族に関して、冒険者組合から原因は不明であるが消失したとの報告を受けました。しかしながら、アルト大森林にてオークの動きが活発であるとの新たな報告を受けました。数の多さもさることながら、時折森から出て人を襲う個体も存在し、この都市が侵攻される可能性を考慮して南門の改修工事を行うべきだと進言しております」
ある男が辺境伯に伝える。彼の名はフーベルト・フラム・レオポルト。この国の男爵で、ヒューエンドルフ辺境伯に仕えている。
「くだらん」
しかし、マインラートは一切の興味を示すこともなく、たった一言そう言った。
「さ、左様ですか……」
「はぁ……。組合に金を出しているのは一体誰だと思っているのだ!!」
突然辺境伯は怒りを露わにする。
「奴らめ、こう言っておけば金を貰えると思っているに違いない! 返事はするな、無視しておけばよい」
「……了解いたしました」
男爵は冷静に返答した。顔には不満があらわれているが、従う他ない。
「父上、少し待っていただきたい」
すると、辺境伯の息子であるホルスト・フラム・ローデンヴァルトが閉じていた口を開く。
「どうした?」
「はい。まず、父上の意見には賛成です。南門の修理をする必要はありません。それは、もし本当にオークがここまでやって来るというのなら、奴らを利用できるかもしれないからです」
「利用? 息子よ、どういうことだ?」
「現在、栄光あるローデンヴァルト家が治めるヒューエンドルフ辺境伯領の、最も大きな都市であるここヒューエンドルフは、東のヴィルニラカイ大公国が恐れを抱いてか直近三〇年の間一度も攻めて来ておりませんし、これからも数年の間は来ないでしょう。それもあって門の修復をしていないのですが、門が壊れやすい状態にあるからこそ、市民に我々の偉大さを示す寸劇を見せられるでしょう」
「……続けてくれ」
マインラートは息子の発言に興味を示しているようだ。
まわりの貴族も同じような表情でホルストの方を見ているが、その真意は違う。
ただの機嫌取りだ。
「まず、冒険者たちがあのような進言をしたということ自体、不忠の表れです。それは冒険者だけでなく、全ての市民に言えることで、父上もご存知でしょう」
「ああ。奴ら、身分もわきまえずに文句ばかり言って、その上ろくに働きもしない! やはり見せしめに誰かを処刑したほうが良いだろう」
辺境伯はまた怒りを露わにする。
「それは以前失敗しました。今回私が提案するのは、〝か弱い市民を襲うオーク共、そこへ駆けつける清廉潔白で勇敢な騎士、そして市民を救出し、英雄として賞賛される〟という内容の寸劇を、この街で行うのです」
「つまり……もしオークがやって来たら、弱った門を破壊させ、少しの間市民を襲わせる。そこに騎士を送り込み、オークを撃破させて、市民にローデンヴァルト家への忠誠心を煽ろうというわけか。……良いな、名案だ」
「感謝いたします。その際、私が騎士を率いてもよろしいですか?」
「それはどうしてだ?」
辺境伯は、少しも考えることなくただ質問する。
「私が黄金の鎧を身に纏って市民共の前で活躍すれば、忠誠心が騎士に吸われることなくすべてローデンヴァルト家に向けられるからです」
「なるほど。なら、それも許可しよう」
「続けて感謝いたします、父上」
本当はローデンヴァルト家にではなくホルスト自身に向けての忠誠を煽りたいだけであったが、辺境伯はその真意に気がつくそぶりがない。
また、二人のやりとりを見ていた男爵のフーベルトは、苦い表情をしている。
寸劇を見せられていたのかと、彼は思ったのだった。




