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不死鳥の少女カミリア(旧・不死鳥少女建国紀)  作者: かんざし
第一章 転生と冒険者の道

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第二九話 伯国最北の街にて その二

「そういえば……さっきの話なんだけど、奴隷売買は早いうちに禁止するってクルトが言っていたわ。だから安心して頂戴ね」


 食事中、ふとエルナは思い出してそう言った。


「クルトさん……とは、どちら様ですか?」


 聞いたことのない名前であったため、パウルが尋ねた。


「うん? クルト・オーラフ・フラム・ハーゼンバイン。シュヴァルテンベルクの伯爵よ」


 その言葉に冒険者たちは耳を疑った。それは、この国で最も権力のある人物を呼び捨てにしたからだ。


 その表情に気づいてか、ヴェルナーが言う。


「エルナ、冒険者の方々は知らないと思うぞ」


「え、お父様、話されていないの?」


「ああ」


「親なら自分の娘の結婚の話くらいするでしょう? 信じられないわ。まあ、お父様らしいけどね」


 そう言った後、エルナはポカンとした表情の冒険者たちの方を向き直す。


「私ね、少し前に伯爵と結婚したの。だから今の本名はエルナ・フラム・ハーゼンバインよ」


 冒険者たちはクラーラを除いて皆驚愕する。


 目の前の人物が伯爵夫人だというのだ。そんなことを聞かされたため緊張し、自然と背筋が伸びる。


「お、おめでとうございます」


 少し間が空いてから冒険者たちはそう言った。


「ありがとう。でも、かしこまらなくていいわ。結婚したから本当はここにいるべきじゃないんだろうけど、久しぶりにお父様が帰ってくるって言うからわざわざ首都から迎えに来たのよ」


「娘に早く会えたのは、嬉しいことだよ」


「ふ〜ん。そういうこと言うんだ、変わったね」


 ヴェルナーの言葉に、エルナは少し含みを持った笑顔でそう返した。


「伯爵様がどのような方なのか、聞いてもいいですか?」


 そしてエミーリアが尋ねる。


「もちろんよ。って、あなたまでそんなにかしこまらないで。そうね……最初はちょっと怖かったけど、本当にいい人だと思うわ」


「怖かったの?」


 エミーリアは挨拶の時のように敬語を外した。


「ええ。シュヴァルテンベルクは元から問題が多かった国なんだけど、私と結婚したくらいに爵位が移ったの。そしたらあの人、いきなり粛清を始めたのよ。前の伯爵と関係の深い人とか、改革に反対する人を全員処刑か追放して、権力を固めたの。あの時のクルトの目は本当に怖かったわね。でも、そのあとは権力を国民のために使ってるから、いい人だと思うわ」


「へー。まあ、改革なら仕方ないか」


 そして食事を終えて一息つくと、冒険者たちはそろそろここを出るということを告げる。


 すると商人の男はあるものを取りに行くと言って、ロビーで待つよう伝えた。


 少しして戻ってきた彼は、小さな袋と一通の手紙を持っている。


「それでは皆さま、今回はどうもありがとうございました。組合の方に報告を済ませておりますので、報酬はそちらからお受け取りください。元々の金貨三〇枚に、撃破したオーク一体につき金貨を一〇枚追加させていただいております。ですからパウルさんのチームには六〇枚、カミリアさんのチームには五〇枚となります」


「そんなに沢山!? よろしいのですか?」


 パウルは驚いた口調でそう言った。仲間の三人も同じ様子だったが、やはり少女にはその価値がよくわからない。そのため多いのか少ないのか判断できなかったが、パウルたちを見て高額の報酬だったのだろうと理解する。


「今後ともご贔屓に、ね」


「へ~カミリア様たちも強いのね……って、お父様が雇ったんだし、当然かしら」


 エルナは金額から少女たちの撃破数を知り、パウルたちよりも多かったことに少し驚いた。


「それと、カミリアさんには新たに依頼したいことがあるのですが、よろしいですか?」


「はい。どういったご用件ですか?」


「ヒューエンドルフへお帰りになられるとき、そこの組合長にこの手紙を渡してくださいませんか?」


 商人の男は手紙と小さな包みを少女に差し出すと、少女はそれを受け取る。


「こっちは……お金ですか?」


 少女は困惑した。手紙を届けるよう依頼されているはずなのに、貨幣の入れられているであろう包みも渡されたからだ。


「それはこの依頼の報酬です。先払いということで、よろしいですか?」


「なるほど……わかりました。必ず届けて見せます」


「ええ、よろしくお願いします。それでは皆さま、またどこかで」


「この国の首都にいるから、また遊びに来てね」


 冒険者たちは挨拶を返して頭を下げると、大きな屋敷を後にした。


「ケチなお父様がそんな依頼をするなんて珍しいわね」


「ケチは余計だ。だが……友人に少しくらい恩を返しておきたくてな」


「わざわざカミリア様たちを雇ったのも関係あるの?」


「……そうだな」


 そして商人の男たちは、冒険者たちが去っていくのをどこか懐かしむかのように、窓越しで見つめるのだった。

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