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不死鳥の少女カミリア(旧・不死鳥少女建国紀)  作者: かんざし
第一章 転生と冒険者の道

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第二一話 冒険者組合

 六人は都市内部を歩き進め、少し時間が過ぎると目的地付近に到着した。


 視線の先には広場があり、多くの武装した人間が歩き回っている。そこを抜けた先には、他のものに比べて一段と大きい建物があった。縦にはそれほど高くないが、敷地面積は広い。


「ここが冒険者組合です」


 パウルが少女たち二人に向けて言った。


 そして大きな扉を開け、ずかずかと入っていく。少女らも続いた。


 建物の内装は、思いのほかかなり質素なものである。


 複数の長椅子が所狭しと並べられているところや、大量の紙が張り付けられた掲示板、二名の女性が並んで座っている受付の場所があった。部屋の端の方には二階へ続いているであろう階段がある。


 冒険者たち四人が入ると同時に、中にいた冒険者たちが歓声は上げた。


 彼らが受け持っていた仕事を達成したのだろうと考えたのだ。それだけ難しい仕事を任されていたということである。なにせこの仕事を先に受けた二級冒険者チーム、つまりパウル率いる四人組と同等の実力を持つチームは、その依頼で先にほぼ全滅していたからだ。


 二級冒険者といっても王国で二番目に大きいこの都市でさえ二チームしか存在していなかった上、ちょうど一チーム失ったところであった。


 本来であれば、ある階級の冒険者チームが失敗した仕事は、彼ら以上の階級の冒険者チームがその仕事を引き継ぐことになっている。しかし今回そうできなかったのは、彼らよりも高い階級、つまり最高位の一級冒険者がこの都市には存在しないためである。組合長は元一級冒険者であったが、老いた現在それほどの力を持ち合わせていない。


 今回の仕事の成功で、パウルたちは前任のチームよりも実力がある、つまり一級冒険者への格上げが期待されるということだ。


 パウルが少女たちに後ろで待つよう言うと、受付の女と何かを話し始める。そして服の内側の胸のあたりを探ったと思うと、小さい円形の鉄の板がつけられた、首飾りと呼ぶには少しみすぼらしいものを取り出した。鉄の円盤の中央には冒険者を示す印があり、それを囲むように五つの赤い石と一つの小さな穴が等間隔についていた。


 冒険者バッジの呼ばれるそれは、そこについてある石の数が冒険者の階級を示しており、穴がなく全て石で埋まっていると一級で、穴が一つ開いている彼らは二級であると示されているのだ。


 それを見せるとまた胸の内へしまい込み、金属音のする袋を受け取ると話を続けていた。


 初め、受付の女はかなり興奮した口調ではあったものの、話を進めるにつれてどこか困惑しているような表情となり、質問を繰り返しているようである。


 少しすると受付の女と冒険者たちが、後ろで呆けていた少女たちの方を見た。


「あちらの方が手伝って……というよりもほとんど片づけて下さったんです」


 パウルが受付の女性に向けてそう言った。そして、少女たちにこちらへ来るよう言う。


「冒険者バッジの方を確認させていただけますか?」


 受付の女性が少女に尋ねる。


 少女は困惑した。冒険者バッジとは何であるのか知らないためだ。


「カミリアさんたちは旅人らしくて、冒険者じゃないんだよ……ね?」


 エミーリアが少女に代わって答えた。そして少女の方を向いて確認する。受付の女は少し怪訝(けげん)な表情を浮かべる。


 それもそのはず、旅をしながら冒険者バッジを携帯していて、金銭が尽きたとき近くの都市に寄って一仕事するような人なら存在するが、本当にただの旅人というのは話にも聞かない。


「なるほど……では、冒険者としてこれから仕事をされるということですか?」


 受付の女性は少女に問いかける。


「えっ? そういうつもりじゃないよね? カミリアさん」


(そのつもり……じゃなかったけど、死なない呪いを掛けられたんだ。どうせなら、人のためになることをしよう)


 少女は十代前半での出来事や去年の一件を思い出し、そう考えた。


「はい。冒険者になるつもりです」


「えっ、そうなの?」


「わたしにできそうな仕事って、ここではそれくらいしか思いつきません。これからもついていっていいですか?」


「魔法が使えるならいくらでも仕事を選べると思うわ。水を生み出すだけでも普通に生きていけるわよ。こんなに危険を冒さなくてもいいんじゃない?」


(ああなるほど、この世界にはそんな選択肢もあるのか。でもわたしは炎しか扱えないし、それは今のところ隠しておきたい。わたしの知識なんて、普通に生活するなら、それどころかここで生活するって考えたら無用の長物だし……)


「忠告ありがとうございます。それでもわたしは皆さんに着いて行かせて欲しいんです。いいですか?」


 少女は上下関係のない人間との付き合いを苦手とする。であるからこそ、折角友好関係の築けた彼ら彼女らとの接触を断つようなことを望まなかったのだ。


「ええ、もちろんよ。私もあなたから教わりたいこと沢山あるし」


 エミーリアは笑顔を浮かべる。


「分かりました。そちらの方もですか?」


「はっ、はい……」


 クラーラは辿々(たどたど)しく返事をした。


「では、新しく冒険者バッジの方を発行させていただきますので、こちらの申請書をお読みいただいた後、ここに署名してください」


 受付の女はそう言って、二枚の書類と筆記具を渡した。そして奥の方へ何かを取りに行く。


 少女は書類を読み、大体の内容を理解した。クラーラは興味がなかったのか読まず、少女が署名した後に自身の書類に署名した。


 やがて受付の女性が、二つの冒険者バッジを奥から持ってきて、署名された書類を受け取るとともにそれぞれ渡す。


 二人は受け取り、首からかけてそこにある赤い石の数を確認した。


「一つ……」


 「はい。冒険者は全員六級からはじまります。仕事の成功、失敗などで階級は変動し、空いた穴に()める石の数が変わります」


「分かりました」


「これから頑張ってくださいね。……それよりも、尸族の母を撃破したというのは本当なのでしょうか?」


 受付の女は少女に対して質問した。無名の旅人が、人類の敵と呼べるほどの強大な力を持つ尸族を撃破し得るというのは想像し難い。


「本当だって! 私が見てたんだからね!」


 エミーリアがそう言った。声が大きかったため、周りの冒険者たちがこちらを向いた。


「本来であれば、一気に三級まで昇格してもおかしくはないのですが……物証がありませんので……」


 そして、その後少し続いた受付の女との話が終わると、少女たち二人は冒険者たちに連れられて受付を離れ、となりにある掲示板の方へと向かった。


 冒険者の先輩として、次の仕事の見つけ方を二人に教えるためだ。パウルはそこに書かれてある内容を細かく二人に説明していく。


「パウルさん、昇格したのか?」


 その時、後ろから一人の男が話しかけてきた。六人が振り向くと、三級であることを示す冒険者バッジを首から下げた、丸坊主で筋肉質の男がこちらを向いて立っていた。また、組合内の全冒険者たちは興味津々の表情でこちらを窺っている。


「えっ、いや二級のままだよ。俺たちはほとんど何もできなかったからね」


「そ、そうなのか?」


「こちらの方が代わりにやってくれてね」


「あ、あんたらが?」


 予想外の返答に丸坊主の男は少女らの方を向いて疑問を口にした。


「あんた、失礼よ!」


 エミーリアがすぐにそう言った。


「わりい、だが……六級のあんたらがか?」


「今登録したばかりなんです」


 少女は伝えた。


「そうか、どおりで見かけねぇ顔だと思ったからよ」


「わかったらもういい?」


 エミーリアは強い口調でそう言い放った。


「おう。いや、そうだ。もうひとついいか?」


「何?」


「俺の伯父さんがよ、誰か依頼を受けてくれる奴がいねぇかって言っててな。あんたら、どうだ?」


「内容は?」


 パウルが間髪入れずに問う。


「商人やってるからよ、高価なもん運ぶから信用できる奴がいいってな」


「ああ、お前の伯父さんは商人だったな。なら……報酬も納得できるだろう。行き先は?」


 他五人を置いてパウルは勝手に話を進める。


「ここから……ええっと南のシュヴァルテンベルクとかだったな。伯父さん呼んで来るからよ、この後でいいか?」


「ああ。……そうだ、カミリアさん」


 パウルは少女に話しかけた。


「この仕事、一緒にどうですか?」


「いいのですか?」


「大きな仕事を受け持った経歴を持っておけば、今後仕事に困りませんから」


 パウルは笑顔でそう伝えた。


「では、是非」


「待て待て待て、伯父さんがいいっていうか知らねぇぞ?」


「それは私が説得するわ」


「……わかった。じゃあ昼過ぎにここの二階へ来てくれ」


「おう。依頼ありがとうな」


 男は軽く手を振って、正面の扉から出て行った。


「わざわざありがとうございます。よかったのですか?」


「カミリアさんには恩がありますからね。あなたがいなければきっと……死んでいたでしょうから」


 冒険者の四人は少女らに笑顔を見せた。


「あっそうだ……これ、報酬です」


 パウルは先ほど受付の女から受け取った袋を少女に渡した。少女は受け取ると、ずっしりとした重みを感じた。


「これは?」


「先ほどの依頼の報酬です。カミリアさんが撃破されたので、受け取ってください」


「いっいえ、受け取れません。わたしが受けた依頼ではありませんし」


「いいのよ、受け取っといて。旅をやってきたのなら、お金に余裕はないでしょ?」


「で、ですけど……」


 多額の報酬の押し付け合いは少しの間続いたが、最終的には少女が折れて受け取ることになった。


 パウルがどうしてそこまで親切にするのか少女にはわからなかったが、ただ人が良いのだろうと、その疑問を片づける。

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