3.あくまで可能性の話。
熱中症でぶっ倒れてました_(:3 」∠)_
ギアを上げていくぞォォォォ!!
「ディオハリス、ですか……?」
「うん、そうなんだ。リュカさんに、聞き覚えはないかな」
「…………」
こちらの問いかけに、リュカさんはしばし考え込む。
先ほどドンガさんから聞いた盗賊首領の名に、ボクは言いようのない気味悪さを覚えていた。どこか記憶の中に靄がかかっている。あるいは、無理矢理に錠をかけられているようでもあった。そして同じく、この話を耳にしたリュカさんも同じような感覚に陥ったらしい。
「薄気味悪い、ですね。……耳に覚えがあるのに、記憶が出てこないのは」
眉間に皺を寄せて、顎に手を当てて彼女はそう言った。
リュカさんの返答を聞いて、ボクは確信する。元貴族の家系であった彼女とボクにとって『オド・ディオハリス』という名は、特別な意味を持っていることを。
「良く知っているはず、なんだ。でも思い出せない」
「はい。でも師匠、これっていったい……?」
「…………」
それを確かめるように口にすると、リュカさんも同意した。
そしてすぐに、ボクへそんな疑問を投げかけてくる。彼女の問いかけを受けて、ボクは一つだけ『可能性』の話をすることにした。
「ボクにはあくまで、座学程度の知識しかないけど。もしかしたら、これは――」
あくまで噂程度でしかない。
学園に通っていた時代に耳にした程度の、あくまで『可能性』の話。
「『認識阻害の術』……古代に滅んだとされる王国の暗部が使用した呪術、その一つかもしれないです」――と。
◆
古代の王国には、光の当たらない影の組織があったとされている。
表立って取り上げられることは決してないが、しかし文献の端々にその存在を示しており、やがて霧の中に消えるようにして語られなくなった。多くの人々からは確証もない彼らに対して、存在そのものを否定するような声も少なくはない。
実際に研究している者もおらず、残されていたのは僅かな資料のみ。
仮に過去には実在していたとしても、すでに滅びたのだろう、というのが一般的な見方だった。
それでも、一部の貴族の間では実しやかに囁かれていたのだ。
暗部は今でも存在し、この王国を操っている……と。
「師匠は、その暗部が今回の一件に絡んでいる、と……?」
「あくまで『可能性』ですけど、少しだけ歴史学を専攻してた時期があって。その頃に少しだけ、資料を見たような感覚があるんです」
「少しだけ、見たような感覚……ですか?」
「はい。その感覚が、いまのボクらの記憶に似ているんです」
ボクの言葉に、リュカさんはまた難しい顔をした。
それもそのはずだろう。こんな不確定要素しかない話を真剣に考えるなんて、馬鹿げているとしか言いようがなかったのだから。だけど、自分の中には名状しがたい合致があった。
確信は持てない。
それでも、思考の順序は間違っていないという感覚。
なんとも雲を掴むような話ではあるけど、この違和感を解消するにはこれしかない。
「あ! ヘリオス見つけた!」
「ん、ミクリア……?」
「またアタシを置き去りにして、リュカと二人で話すんだから!!」
「あ、あはは……」
そう考えていると、元気いっぱいに少女のそんな声が聞こえた。
ミクリアはボクのもとへ駆け寄ると、少しだけ頬を膨らしつつ腕を絡ませてくる。こちらは思わず苦笑いするしかなく、ひとまず彼女をなだめようともう一方の手を差し出し――。
「…………え?」
その時だった。
ボクの中にあった思考の霧が、晴れていったのは……。
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